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愚者の行進、聖女の祈り届かず。

 ところで、第1枢機卿アーティスから届いた枢機卿の位の返上に、アソシアシオン国内は驚いた。


 第1枢機卿という事は、教皇の第一側近であり、次の教皇候補者である。

 そして、能力は防御ではなく攻撃主体であったとはいえ、相当な能力を発揮し、それだけでなく、サーパルティータの現皇帝の第二皇子で兄の皇太子とは同母兄弟、そちらでも権力を持っている。

 サーパルティータに、アソシアシオンの内部情報を送ったのではないかとヤキモキしていた時に、サーパルティータから丁度戻ってきたのは皇太子の息子……つまり甥である。

 彼もアーティス程では無いが生まれつき能力者で、小さい頃からアソシアシオンに仕えている。

 アーティスは異母妹のアマーリエとそっくりな、若い頃の父皇帝譲りの美男子で、すらっとした体躯に金髪青瞳だったのだが、甥は残念な事に父親に似た中年太りで、額が薄くなりつつあるのを必死に隠しているらしい。


「失礼致します。教皇様におかれましては……」

「良い良い。それよりも其方の叔父である第1枢機卿は、どこに行ったのだ」

「叔父……いえ、第1枢機卿様でしょうか?最近、考古学研究の為に古い書物を探すのだと、数カ国巡った後に、叔母の嫁いだナミアレミアに挨拶に向かう……その後は自由気ままにと仰られておりましたが……」

「ナミアレミアに? 誰か! ナミアレミアの枢機卿を!」

「猊下。ナミアレミアの枢機卿は、母国にて神の裁きを受け、教会にて不死の彫像と化しておりますが……癒しの聖女フェリシアさまのお父上、カーティス卿が調べた不正と、赦されぬ金貸しをしていたと破門となっております」


 一人の神官が答える。

 そして、エメルランドの枢機卿が頭を下げた。


「私の母国の王妹キャスリーン殿下が、ナミアレミアに向かい、その惨状を見たとのことですわ。それに伺ったところ、何処かの国の方の部下が、元サーパルティータの聖女アマーリエ様の屋敷に侵入し、幼い聖女候補を誘拐しようとされたそうで……」

「……っ! わ、私共は! 何も!」

「何もなさっていないと? アマーリエ様にキャスリーン殿下が伺ったそうですよ。下級侍女を買収し、アマーリエ様やアルフレッド殿下と、そのお子様のお住まいの館に侵入し、怯えて逃げる4歳の聖女候補様を追い回し、その上館の中を破壊して、追い出されたそうではありませんか……教皇猊下には黙っていて欲しいと、第1枢機卿に頼み込んだとか……あの方は、普段は容赦がありませんが、何を贈ったのでしょうね」

「わ、私共は何も! ただ、聖女候補のことはどうするのだと……」


 青ざめた男は震えている。

 アーティスにされたお仕置きが凄まじかったらしい。

 ちなみに、謝罪の為に大金を包んだが、平然と王子様は、


「そんなの要らないよ。それより大金持ってるし。くれるなら、君んとこの未発掘の遺跡を幾つかくれる? ついでに、王宮の封じられた古書室の鍵を貰おうかなぁ」


と言い切って下さった。

 くれなきゃ、教皇に言うと言われた彼は、甥である国王に頼み、それらを準備して貰った。

 甥には今でもネチネチ言われているが、甥より、アーティスとそのバックの方が恐ろしいのである。

 それに、安易にそんなことをするんじゃなかったと後悔している。


「では、今は、その国にいるのか?」

「いえ、ナミアレミアだと思われます。父が喜んでおりました。叔父が帝位継承を完全に否定し、祖父に書状を送ったとか」

「……可哀想に」


 エメルランドの女性枢機卿は小声で囁く。


 大国サーパルティータ……あの軍国主義の独裁者の現皇帝が、今帝位につけているのは、アソシアシオンにいるアーティスや、ナミアレミアの女帝とも称されるアマーリエ前王妃の采配のお陰。

 広大になりすぎた軍国主義の独裁者の国は、実はもう内部崩壊が始まっているのだ。

 それを抑えていたのが、アマーリエ前王妃とアーティス。

 二人がナミアレミア国内に落ち着き、サーパルティータへ食糧援助や、情報を送らないだけであの大国は崩れるだろう。

 それに、ナミアレミアの国王も人心は離れ、アソシアシオンへの信仰も薄れている。

 これで、ナミアレミアにいる三人の聖女……アマーリエ、フェリシア、アルフィナ……を立てて、アソシアシオンに反旗を翻したらひとたまりもないだろう。

 ……そう言えば、アーティスが可愛がっていた万能型の聖女はどこに行ったのだろう?


「教皇猊下。お伺い致します。第1枢機卿が可愛がり、教育していた聖女……スカーレット様は一体何処に?」

「ん? スカーレット……?」

「さようでございます。スカーレット様は炎、雷、風などの攻撃の祈り、そして、防御や癒しの力をお持ちです。癒しの力のフェリシア様は強大な力をお持ちですが、様々な力を操るスカーレット様は、力はまだまだですが万能な聖女です。集中力がないと第1枢機卿は苦笑していらっしゃいましたが、磨けばこのアソシアシオンになくてはならない方となりましょう」

「誰か、スカーレットを」


 教皇はすぐに命じたが、しばらくして戻った修道士が、


「教皇猊下。スカーレット様は1週間前、回復の力を磨く為にこの都を出たそうでございます。その時に、両親と弟……つまり家族全員が、新しい職が見つかったと出て行ったとのこと。スカーレット様の祖父は第1枢機卿の執事。もしかしたらそのつてを頼り、ナミアレミアに行ったのでは?」

「な、何だと!」


教皇は顔色を変える。

 しかし、理解していない馬鹿はいるもので、


「教皇猊下。第1枢機卿の気ままさは目に余ります」

「さようでございます! 教皇猊下が厳しく叱責すべきかと」

「何を言っているのです。第1枢機卿閣下は表向きは余り出て来られない方でしたが、研究や勉強でかなり優秀な方ですよ」


エメルランドの女性枢機卿……女性で初めて第二枢機卿まで上り詰めた彼女は、厳しく叱責する。




 彼女は完璧主義者で、そして、風と水の能力と回復の術を扱う。

 その為、正反対の術を持つアーティスと良くペアに選ばれて、出かけることが多かった。

 喧嘩はあったが、アーティスは天才肌の面倒臭がりで、


「えっと、大丈夫だよ。私が最初ぶっ放すから。後は、君の術でよろしく! じゃぁ」


と護衛も連れず、盗賊のアジトに一人行ってしまい、執事のジェイクが、


「申し訳ございません。坊っちゃまは気になることがあると、そちらに意識が集中してしまって、他は面倒だと手を抜きたがるんです」


苦笑する。


 すると、カッと空が輝き、目が眩む。

と、次の瞬間、ドカーン! バリバリバリ……と言う音とともに、地面が揺れた。


「ひっ!」


 実は雷が苦手な彼女が青ざめると、


「第二枢機卿様。一言で結構です。待機する神の騎士団の方々に、出てくる反逆者を捕らえるように仰って下さい。私はただの執事ですので」

「あ、ありがとう。『神に認められし騎士達。アジトから出てくる反逆者を捉えよ! 殺すのは許さぬ。しかし、攻撃するなら、反撃を許す! 行きなさい!』」

「はっ!」


その声を聞き、見送る。


「枢機卿様、失礼いたします」


 アーティスの執事の娘で、アーティス付きの女官長セアラである。

 おっとりとしていて、彼女が時々回復の術を教えるスカーレットはお転婆なので正反対の性格である。


「こちらにお茶を準備致しました。お疲れでしょう。一休み下さいませ」

「でも、第1枢機卿は……」

「坊っちゃまは大丈夫ですわ。騎士団の皆様もおられます。枢機卿様は怪我をされた方を癒すお仕事があるかと……さ、差し出がましいことを、申し訳ございません」


 頭を下げる彼女に微笑むと、


「ありがとう、セアラどの。貴方の娘のスカーレットもとても美味しいお茶を淹れるのね。一息つかせて頂戴」


と休ませて貰った。


 変わり者の主人を支え固める一族。

 アーティスに忠誠を誓う。

 そして、アーティスも彼らを信頼している。

 羨ましいと思った。




「あの。教皇猊下」


 第二枢機卿……キャスリーンの従姉は膝をつき、顔を衣の袖で隠すように持ち上げると頭を下げる。


「もし宜しければ、私が、第1枢機卿に真意を伺って参ります。どうかしばらく、不在をお許し下さいませ」

「第二枢機卿……そうか。頼んだ」

「畏まりました。では、準備をしてすぐ出発致します」


と下がっていったのだった。

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