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スカーレットの強い決意

 ガイに案内され連れていかれたのは、日当たりのいい広い客間ではなく居間。

 部屋には10人余りの人々がおり、そして、スカーレット達の祖父もいる。


「この跳ねっ返り。ジョセフィがいなかったら、正面突破しようとしてないだろうな?」

「お祖父ちゃん! な、なぜバレたの?」

「やっぱりな……誰に似たんだ、こいつは」

「お前に決まっているだろう!」


 ジェイクを殴りつけるそっくりな二人。

 違いはメガネがあるかないかと、目がきついか、タレ目か……。

 タレ目に殴られながら、


「イッテェ! ジョン。やめろ! スカーレット、ジョセフィ。挨拶を」

「はい。本日はお忙しい時にお邪魔をしまして申し訳ございません。私は、ジョセフィ。ジェイクの孫でございます。年は7歳です。まだ執事として学び始めて短い未熟者ですが、どうぞよろしくお願い致します」


 深々と頭を下げる。

 すると、ほほぅ……と声が上がる。

 そしてその横で、レディとしての挨拶をしたスカーレットは、


「初めてお目にかかります。私は第1枢機卿……いえ、アーティス様に名前を付けて頂き、聖女としての能力を磨いたスカーレットと申します。一応、炎と雷、風を扱い、一応回復術も使えますが……あまり得意ではありません」

「……やっぱり……」


という残念な空気が流れる。

 もう少し、回復の祈りを勉強しておくべきだったかと反省するスカーレットに、5歳の幼児とまだハイハイの赤ん坊は、見事な金髪に青い瞳のアーティスを若くしたような青年に抱きつく。


「とーちゃま。ねんねしゅゆ」

「とーちゃ、だっこ!」

「遊び疲れたんだねえ……はいはい。二人共は難しいから、今日はアンネリ。アルフィナはアーティスお祖父ちゃんに抱っこして貰って、ねんねだよ」

「えっ? わ、私が抱っこ?」


 顔色を変える。

 その横でジェイクも珍しく青ざめ、


「あの、アルフレッド殿下。ご存知だと思いますが、坊っちゃまはものすごく不器用で、手加減出来ませんが? 繊細さがないんです。ですので、繊細な大姫様より、元気なアンネリ姫の方がよろしいかと」

「大丈夫。伯父上に繊細さ求めてないから。アルフィナ。お祖父ちゃんにぎゅーだよ」


ベルンハルドは姪を抱っこして連れてくると、アーティスに抱かせる。

 ジョンがひざ掛けと毛布を持ってきて二人を包んだのだが、


「……わぁぁ! ちょ、ちょ、ちょっと待った! アルフィナ、アルフィナ? お願いだから、お祖父ちゃんに膨大な量の回復術を流し込まないで! アルフィナの小さい身体が弱ってしまう! スカーレット! 来なさい!」

「は、はい!」


慌てて近づくスカーレットを横に座らせ、毛布に包んだアルフィナを抱かせるのだが、一緒に自分の身体に流れ込んだものをスカーレットに移す。


「うわぁぁ!」


 スカーレットは叫ぶ。

 小さい頃、アーティスに手伝って貰い術力を全身に張り巡らせ、流して、術を放つ練習を繰り返したが、アーティス以上の力が自分に流れ込んできた。


「待って! アルフィナ様、一気に力を流してきたら、ご自分が倒れちゃう! やめて!」

「やめてって言っても、アルフィナは無意識にしちゃうから、ダメなんだよ」

「えぇぇぇ! 真っ青になってきたわ! アーティス様! お祖父ちゃん! どうすればいいの?」


 焦るスカーレットに、アーティスが、


「スカーレット。お前は回復の力があるのだから、身体の中で循環させてアルフィナに戻してあげなさい。焦らないで。落ち着いてすればいいから」

「アーティス様、お祖父ちゃん……」


自分が回復系の術が苦手だと分かっているのに……と恨めしく思いつつ、まずは滝のように放出し続ける力を受け止め、そして、ぐったりしているアルフィナの手を握り、その手からゆっくりと細い糸のような力を流し込むイメージを想像し、その糸を少しずつ太くしていく。


 アルフィナの力は、スカーレットのように攻撃系ではない。

 フェリシアの力は優しく、全てを癒す光のようだったが、アルフィナは本当に儚い蛍のような光のような……その力は痛々しく……自己犠牲も辞さないような哀しい色。

 胸が痛くなる程、泣きたくなる程純粋な……。


「アルフィナ……駄目だよ。自分の命を削ってまで他の人を癒すのは、いい事じゃないよ。お父さんやお母さんやおじいさんやおばあさんや家族が悲しむよ?怖くないよ。だから、お姉ちゃんの力を受け止めて……聞こえるでしょう?」


 優しく囁きかける。


 自分を覆う程の膨大な力をゆっくり抑え込み、そして、こちらが受け取った力を流し込む。

 自分の力は磨いてこなかった為に、純粋な回復の術を使うアルフィナ程回復の力がない。

 でも、それでもアルフィナが元気になりますように……落ち着いて自分自身も力を使おう。

 そしてアルフィナが元気になったら、回復の術をもう一度鍛え直さないと……そう固く誓うのだった。


 ただ、握った小さな手に力を流し込むのと、5歳にしては小さい少女の身体を抱きしめることに集中した。




「……レット……スカーレット」


 肩を揺すられ、はっと目を開ける。

 祖父が心配そうに覗き込んでいた。


「大丈夫か?」

「お祖父ちゃん! アルフィナ様は? 無事?」


 起き上がり、祖父の腕にすがる。


「あぁ、アーティス様やお祖父ちゃんに言われた通り、もっと回復の術を磨いておけばよかった……」

「こら、スカーレット。外でお待ちの方がいる。早く上を羽織りなさい。お待たせしては失礼だから」

「あ、はい」


 渡された上質の上掛けを羽織ると、祖父が扉を開ける。


「申し訳ございません。お待たせ致しました」


 すると、アルフィナを抱いた美女が、アルフレッドと共に駆け寄ってくる。

 その後ろからは、何度か会った事のあるフェリシア達……。


「スカーレット様、本当に、本当にありがとうございます……アルフィナを助けて下さって、本当に……」


 ボロボロと涙を流しながら、スヤスヤと眠る娘の頰に、頰を寄せるエメラルドの瞳の美女。


「私は全く力はありませんの。ですから、アルフィナに何かがあっても何も出来ず……本当に、今回話を聞いて……改めて心臓が潰れるかと思いましたわ」

「いえ、奥様。私は、未熟でもっと術を学んでおけばと……」

「いいえ、いいえ……本当に……アルフィナは……この子とアンネリは私の、私達の宝物なのですわ」

「スカーレット。この方は、エメルランド王女キャスリーン殿下。アルフレッド殿下の婚約者で、お二人の姫の母君だよ。アルフィナ様は何度か力を暴走させたのだけれど、今回のように、寝込んだり熱を出したりもしないで、落ち着いて眠っているのは初めてらしくて、ホッとしているんだよ……」

「本当にありがとうございます。スカーレット様」


 アルフレッドは、頭を下げる。


「アルフィナは幼いのと、とても周囲に敏感で、この歳で私達や大人にも気を使う子なのです。自分が疲れたとか言わない子で、本当にどうすればいいのかと……。私にもキャスリーンにも力はなく、母も攻撃主体なので、どうやって力を使えばいいか、体の中で循環する方法をこの子が感じて欲しいと思っていたのです。良かった……いつも本当に力を使い果たして、二週間は寝込んでいるので……」

「アルフィナ様は教わらなかったのですか?」

「私は全く力を持っていませんから。それに、アルフィナは生まれつきその能力があって、無意識に使うので、使い方を教えないとと……でも、まだ5歳になったばかりで、フェリシアは力は似ていても一度大変な事が起こり、体調が優れないので、教えられないのです」


 その言葉に、スカーレットは目を伏せる。




 噂で聞いた。

 この国の王子が、癒しの聖女フェリシア様を1ヶ月間牢獄に幽閉し、そしてギロチンを……。

 術で命を吹き返したものの、その後、体調を崩しがちなのだという。

 3歳上で、縁のあるフェリシアは本当の、本物の聖女だった。

 優しく、芯の強い人。

 だから、フェリシアの母国の事件に驚き、しかも、あれ程アソシアシオンはフェリシアに尽くされてきたのに、切り捨てるのが許せなかった。


 育ての親でもあるアーティスが長い旅をし、その間家族と待っていたものの、祖父が母宛に送ってきた手紙で、


「スカーレット、ジョセフィ。誰にも言ってはいけませんよ? アーティス様がアソシアシオンに戻らないそうです。妹であられるアマーリエ様がおられるナミアレミアに住まわれたいそうです。スカーレット? 貴方は聖女でいる気なのかしら?」

「うーん、ずっといるつもりはないわ。だって、私……フェリシア姉様を見捨てたアソシアシオンに仕える気はないもの」

「僕も、ジョンお祖父ちゃん達に会いたい!」

「そうだね。私は、もっと料理を勉強したいからね」


 四人はそう言って、特にスカーレットは国外に出るのは本来許されないのだが、姿を変え、術を一時的に封じて出てきた。


 両親や弟は追われることはないが、スカーレットは逃亡者として追われるだろう。

 でも、フェリシアが心配で、納得がいかないし、大好きなアーティスの元に行きたかった。


 そして、出会ったのがまだ幼い力のコントロールのできない、二人目の癒しの聖女。

 この子を守らないと、そう思った。

 でなければ、アソシアシオンに連れ去られる。

 そして利用され尽くされるだろう。


 こんなか弱い、愛らしいアルフィナを守らないと。

 決めた!

 アーティス様やご両親が表向きは守るだろうけれど、私は自分の力を磨く。

 そして、この小さな聖女に力の使い方を教えて、そして守ってみせる。

 聖女の力だけでなく、武器ではないが、祖父に稽古をつけて貰おう。


 スカーレットは祖父を見る。


「お祖父ちゃん。お願いがあるの」

「何だい?」

「私、アルフィナ様か、フェリシア姉様の侍女になりたいの。もっと勉強して女官になりたいの」

「はぁぁ?」


 突然の言葉に絶句する。

 何の冗談だと思ったのである。


「お祖父ちゃん。私は本気。私はフェリシア姉様のように、人々に優しく手を握って微笑んであげることもできない。アルフィナ様のように、自分を二の次にして誰かを守ることもできない。中途半端なの。だけど、今思うの。今更だけど、私は本気で何かに打ち込みたい。それが何か分からなかったけれど、今思ったの。アルフィナ様やフェリシア姉様が幸せになって欲しいわ。その為に頑張りたいの」

「本気か?」

「本気よ。これでも一応猫被ること位訳ないもの。それに、ある程度勉強してきたわよ」

「……まぁ、それじゃ、こちらの女官長、副女官長のミーナ殿やセラ殿に徹底的に鍛えて貰おう」


 ジェイクはすぐに飽きるだろうと思ったのだが、スカーレットは真剣に二人に教わり、同じ女官見習い達とも仲良くなり、聖女見習い時代より生き生きとしていくのだった。

イーリアスとジョンの弟の名前を間違えていました。

訂正します。

ジョセフ❌

ジェイクが正確です。

よろしくお願いします。

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