表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/123

大邸宅に訪れる聖女姉弟

「うっわぁ……でっかいわね」

「そりゃそうだよ。この屋敷は、この国の中で一番大きい屋敷だよ」

「……ねぇ? ジョセフィ。どうしようか?」

「何が?」


 姉が走り出したりしないように手を握っている。


「この中に入れて貰えるかしら? それとも侵入しようかしら?」

「馬鹿ですか」


 14歳の姉の一言にバッサリ切り捨てる。


「正面からは難しいでしょうね。使いを送っていませんから。でも、裏門なら大丈夫ですよ」

「えぇ? 何で?」

「お忘れですか? ここに大伯父上方やガイ兄上がいらっしゃいます。呼んで頂くんです。それに僕は何度かお邪魔していますから、行きますよ! 大人しくして下さいね!」


 スカーレットを引っ張り、ジョセフィは歩き出したのだった。




 裏門の衛兵の前に、姉弟が姿を見せる。


「こんにちは。あの、私はこちらのアルフレッド殿下の執事、ガイ殿の従弟のジョセフィと申します。前に何度か祖父とお邪魔させて頂きました」

「執事の……では、確か……」

「はい。祖父はアーティス様の執事のジェイクと申します。ご挨拶できませんでしょうか?」

「少し待って貰えるかな?」


 二人のうち一人が、中に入っていく。

 そして、


「こちらにどうぞ」


待っている間にと休憩室らしい部屋に案内して貰うが、そこにはテーブルに椅子、そして可愛いクッキーが置かれている。

 長椅子に座ると、ストーブに置かれていたやかんからケトルに注ぎ、そしてカップに注いだ。


「どうぞ。寒かっただろう?」

「ありがとうございます」

「同僚が戻ってくるまでここで、そのクッキーやケーキもどうぞ。お嬢様方が作ったものでね。今日持ってきて下さったんだよ」

「お嬢様?」


 遠慮なく手を伸ばそうとしていた姉の手を容赦なく叩きつつ、彼を見上げる。


「えぇ。アルフレッド殿下のお嬢様アルフィナお嬢様と、遊び相手のセリアーナ達がね。お嬢様は5歳になられたばかり。セリアーナは7歳で、他の子も変わらない位だね。その中でもお嬢様は、本当にお可愛らしい方だよ」

「お嬢様の作られたクッキーを、私達が頂いても大丈夫なのですか?」

「あぁ。わしらは休憩時間に一枚で満足なんだ」

「ありがとうございます。美味しそう!」


 スカーレットは手を伸ばし、一枚取ると口に運んだ。

 そして、


「お、美味しい! えぇ? そ、それに何なの? このクッキー、疲労回復、体力回復効果があるわ? 何で? クッキーなのに!」

「よく分かったね。お嬢ちゃん。これはアルフィナお嬢様が今度のフェリシア様の結婚式の後のパーティに並べるんだって、日持ちのするお菓子を順番に作っていらっしゃるんだよ。この前はカップケーキ、その前は大人用のお酒入りのフルーツケーキだったね。味見を兼ねてと私達にまで振舞って下さるんだよ。お嬢様は、私達にはよく分からないけれど、力がずっと放出された状態のままで、制御が難しいそうでね。今、その訓練をしながらマナーにダンス、会話レッスンをされておられるからね」

「会話レッスン?」

「お嬢様にはまだ勉強は早いからね。あぁ、このハーブティは、フェリシア様と婚約者のケルト様が育てたものだよ」


ジョセフィはフーフーと息を吹きかけ、マグカップに口をつける。


「あ、美味しい……」

「ゆっくりしているといいよ。あはは、もうそろそろ、お嬢様が走ってくるかもね」


 二人が美味しいお菓子に集中していると、パタパタと走ってくる音と、


「アルフィナ! ここは走っちゃダメだから、ゆっくり歩こうね?」

「お嬢様。転んでは痛い痛いですよ? セシル様と手を繋いで下さい」

「あーい! にいしゃま! ガイにーしゃま。おてて!」

「お嬢様? ご挨拶しましょうか?」


外が賑やかになる。


「あ、門番のおじしゃま。こんにちはにゃにょ。クッキーコゲコゲにゃいれしゅか?」

「お嬢様。ようこそ。昨日もありがとうございます。本当に美味しかったですよ」

「えへへ……『おいしくにゃーれ』ってお願いしたのれしゅ。良かったれしゅ」

「アルフィナ? 『おいしくなーれ』は毎回はダメだよ? 熱出したりしたら、お兄ちゃんも、アルフィナのお父さんもお母さんも心配するでしょ?」


という声と共に扉が開く。

 スカーレットとジョセフィの従兄叔父のガイと、紫の瞳と金の髪の美少年。

 そして、二人が手を繋いでいるのは……。

 エメラルドのような瞳と、金茶色の見事な髪の美少女。


「こんにちはーにゃのれしゅ。よーこしょおこしくらしゃいました」

「お嬢様。二人共私の従姉の子供達ですから。そこまで丁寧にしなくて構いません」

「おべんきょーにゃにょ。ちゃんとごあいしゃつしゅるのれす」

「……うーん、何で、アルフィナは一杯頑張っているのに、マナーレッスンすればするほど、言葉がたどたどしくなっちゃうのかな〜?」


 スカーレットよりも年上の青年域に達しつつある彼は、アルフィナを抱き上げる。


「わかんにゃ〜い。おにいしゃま、おとうしゃまとおかあしゃまに、ちゃんとおめれとうごにゃいましゅいえゆかにゃ?」

「言えるようになるよ。それにちゃんと言えなくても分かってくれるよ」

「わーい!」

「可愛いなぁ、アルフィナは」


 美少年は微笑み、アルフィナの頰に口付ける。


「セシル様。旦那様に言いますよ?」

「わぁ! やめて!」


 ガイに軽く窘められ、慌てて謝る。


「セシル様。お嬢様をお願いしますね。そして、二人をありがとうございました。二人共。お礼を言って?」

「ありがとうございます。とても美味しかったです」

「休ませて頂いてありがとうございました」


 二人は頭を下げて、ガイを追いかけていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ