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元聖女見習いスカーレットとその弟

 ところで、祖父ジェイクに、


『わがままで可愛げのねぇ……誰に似たんだっての』


と呼ばれていた炎の聖女スカーレットは弟のジョセフィと共に、宿を抜け出していた。




 小さい頃から両親と引き離され、アソシアシオンの神殿の奥で祖父の主人である第一枢機卿アーティスに可愛がられて育ったスカーレットは、一応、得意な能力は回復もあったのだが、何故か炎と雷、地震と言った破損関係が目立つ聖女になっていた。

 実の孫のように可愛がっていたアーティスは、


「スカーレット? 攻撃だけじゃ、もし守る人々が怪我をしたりしたらどうするの? 私の妹の嫁いだ国、ナミアレミアにいる聖女は、攻撃を封じて癒し、回復を重点的に使えるように努力されているよ。聖女や私達のような枢機卿などが最前線に出ることはないからね? 攻められることは少ない。だから大規模な術ではなく、自分の身を守り、周囲に癒しを使える方が良い。だから、まずはバランス良く、そして攻撃ではなく癒しを重点に置いていくようにしなさい。良いね?」

「でも、アーティス様。アーティス様と妹様のナミアレミアの先王妃様も……」

「私やアマーリエは、極端なんだよ。本当は傷の手当ても癒しもできれば良かったのに、不器用で……本当に情けないよ」


苦笑するアーティスは、若い頃は最前線にいたのだと言う。

 しかし、妹のアマーリエの結婚の為にナミアレミアに出向いて以降は、アソシアシオンに残り、攻撃系の修道士や聖女に術を教えたり、様々な言語を勉強し、それを訳したり解読し、本を何冊も出版し、この大陸の歴史を巻き戻していった。


 そして、祖父ジェイクには1人娘のセアラ。

 母の名を付けたのもアーティス。

 そして、娘同然のセアラが生んだ女の子に、薔薇……赤い薔薇が特に好きだと言うアーティスがスカーレットと付けたのだと言う。


 スカーレットは、幼い頃から祖父の跡を継ぐ為にマナーレッスンをしているジョセフィに、


「ねえ、ジョセフィ。教会って何処かな?」

「前に、アーティス様と行きましたが、行くのをやめた方が良いですよ? 姉上。お祖父様が言われたでしょう? 私達はこの国に内緒に来ているのです。行くのなら、今聖女様のいらっしゃる屋敷に……」

「聖女?」

「アマーリエ様とご子息で王弟、宰相のアルフレッド殿下のお子様のアルフィナ皇女、そして外交大臣の末っ子のフェリシア様ですよ」

「えっ? アマーリエ様とフェリシア様は知っているわ? でも、アルフィナ皇女って? 知らないわ?」


キョトンとする。


「可愛らしい方ですよ。大きなエメラルド色の瞳に赤銅色の髪で、確か5歳だったかと思います」

「……その聖女って、アマーリエ様みたいな能力があるの?」

「いいえ。アルフィナ皇女はフェリシア様には劣りますが、回復に、状態異常回復能力があるそうです」

「状態異常回復?」

「はい。毒や精神異常、疲労などを回復できるそうですよ? あ、これです」


 ポケットから取り出したのは、カラフルな小さな飴を包んだもの。


「えっ? これ何?」

「アルフィナ皇女が力が暴走した時に作ったポーションです。お祖父様がジョンお祖父様から頂いたそうですよ。確か、一つだけ毒があるそうです」

「えっ!」


 手を伸ばそうとしていたスカーレットは後ずさる。


「いえ、皇女は悪い意味ではなく、無意識に暴走させただけで、元々は回復と、精神的に疲れた時に口にできるもの、術力回復の持ち主ですが、とても我慢強い方です。でも、まだ僕より小さい方ですから、疲れたとか眠たいとか口にできないんです。その時には泣き出したり、熱を出したりして暴走してしまうんですよ。その時には飴が飛び散って、大変になるとか……」

「大変って?」

「アルフィナ皇女は、ご自分のお力を無意識のうちに外に排出して、周囲を癒したり、薬草に話しかけて効能を変えたり、お菓子などを作る時に『おいしくなーれ』と言うだけで、全く味まで変えてしまうそうです。ご本人の能力はまだ安定していませんし、まだ5歳でお父上の殿下も、聖女として育てたくないとのことです」

「なんで? そんなにすごい能力があるなら、何故教会に……」

「姉上。この国ではアソシアシオンの者だったことを隠して下さい」


 7歳のジョセフィがきっぱりと言い切る。


「お忘れですか? この国は神に見放された国。聖女のフェリシア様を殺した王子が、その翌日恋人と結婚式をフェリシア様のご家族やご親族に見せつけ、その結婚を祝福した枢機卿が金貸しをしていて、暴利を貪っていたのですよ。神は怒り、呪いをかけたのです。それに、姉上……見えますか? あの廃墟が教会の成れの果てです」


 弟の指の向こうに見える大通りの奥に見えるのは、ほぼ柱だけの教会跡。


「神は教会を去り、フェリシア様を信じる民は教会を拒絶し、破壊したのだそうです。そして、断頭台で命を奪われたフェリシア様を、魔術師のルシアン様とそのご子息のケルト様が命の代わりに生きかえって欲しいと祈り、蘇らせたのです。ケルト様はわずかに心臓が動いていまししたが、アルフィナ皇女……聖女として能力は知られていませんでした。でも、フェリシア様の髪とあの方が身につけていたアクセサリーを握りしめて、アルフィナ皇女が祈っただけでルシアン様を蘇らせ、ケルト様の意識が回復させたのは確かですよ」

「フェリシア様の力じゃないの」

「違いますよ。姉上。ご覧になられたら解ります。アルフィナ皇女は未知なる力を秘めた聖女です。姉上も、もっと回復の力を磨いて下さい」

「何故よ?」

「アルフィナ皇女はまだ5歳ですよ? まだ幼い皇女は無意識に流れ出す力のせいで、成長がかなり遅れているそうです。僕と二つ違いとは思えないですよ? 姉上が破壊能力を癒しの力にしたら、アルフィナ皇女はお力を封印させて、成長の力に使えることができるではありませんか!」


 ジョセフィは拳を握りしめ、姉を見上げる。


「姉上。『爆裂聖女』とか『破壊の魔女』『焔の魔女』という別名を返上しましょう! そして、フェリシア様のように『微笑みの春の姫』とか、『夕日の癒し姫』と言われるアルフィナ皇女のように! 僕は、学校で言われるんですよ。姉上がまた、火の玉を投げたとか、周囲が炎の壁になって敵を覆ったとか……」

「だから! あの時は、力を入れすぎちゃったのよ!」

「アルフィナ皇女は、力の使い方が分からないのだそうです。普通のポーションなら瓶に詰めるでしょう? 何故こんな飴玉かというと、ほら、あのお店の飴が大好きなのだそうです」


 弟に指を示されたのは、可愛らしいお菓子屋さんである。

 しかもぶら下げられているのは、真新しい看板。


「……『アルフレッド殿下ご一家と聖女様のご注文の店』……?」

「前は『王家お取り寄せのお店』でしたよ。でも、国王や王子に注文されていませんし、それより、アルフィナ皇女やフェリシア様のように、親しみのある方々を街の人は愛しているのですよ。姉上。もっとアルフィナ皇女やフェリシア様のように……」

「あぁ〜。うるさい、うるさい。じゃぁ、会いに行ってやるわよ! フェリシア様とアルフィナ皇女に! フェリシア様は何度かお会いしているから平気よね! じゃぁ行くわよ」


 スカーレットは弟を引きずるように歩き出したのだった。

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