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【番外編】処刑執行人の人生6

 イザークは主のアルフレッドや家令のイーリアスと執事長のジョンに頼み、妻のシシリアと共にバルナバーシュとアマーリエの元に訪れていた。

 その前に、親友と妹の墓に参り、手を合わせていた。


「ようこそ。イザークどの」

「突然申し訳ありません。アマーリエ様、バルナバーシュ様」


 頭を下げる。


「突然のお願いを聞いて頂き、ありがとうございます」

「そんなに固くならなくていいのよ?」


 微笑む。

 お茶とお菓子が並べられ、勧められる。


「ありがとうございます」


 イーリアスとジョン、その妻の女官長ミーナと、アマーリエ付きの副女官長セラ、アルフレッド付きの執事のガイ以外はスッと下がっていった。


「本当に、ありがとうございます」

「いいえ。気にしていなくてよ? イザーク殿は私の息子も同然ですもの。いつでも来て頂戴ね? シシリア殿もね?」


 その言葉に躊躇っていたイザークは、思い切ったように仕舞っていたものを差し出す。


「アマーリエ様。こちらを見て頂きたいのです。ある人の遺品です」


 色褪せてはいるものの、美しい刺繍のハンカチに包んだものを見る。

 アマーリエはイザークを見ると、すぐに、


「失礼するわね? イザーク殿」


と引き寄せ、ハンカチを開き、中の宝石箱をそっと開く。


「……えっ……」


 メッセージカードをつまみ、文字を見て、


「い、い、いやぁぁ! あ、あのお兄様が! あの変人、女好きお兄様の文字で、告白文がぁぁ! 嘘よ! あの人恋愛出来たの? つまみ食いしては捨て、またつまんでは捨てだったのよ!」


叫ぶ。

 イザークは妻の耳を塞ぎ、アルフレッドが、


「母上、落ち着いて下さい」

「あの顔だから、あの顔だからモテてモテて、それに、一時期荒れてて……って、もしかして、イザークどのが貰ったの? あの兄、一応ノーマルだったと思うんだけど?」


その言葉に顔がひきつるのを、ガイが助ける。


「大奥様。イザークは遺品と言っておりました。イザークは預かったのでしょう。違うかな?」

「そ、そうです。キール……アルフィナ様の父親だった、幼馴染の母上の遺品です。キールの生誕日を確認すると、アマーリエ様がこの国に来られてから約一年後に生まれています。キールは、髪の色と瞳はバルナバーシュ様と同じですが、顔立ちはアルフレッド様にそっくりです。一ヶ所違うのはホクロです」

「泣きぼくろ……だよね?」

「そうです……大人びた奴で、でも口数は少なくても照れ屋で……本当にいい奴でした」


 唇を噛む。

 すると、アルフレッドは考え事をする。


「あれ? そう言えば、小さい頃に襲われた時に、荷馬車に隠して貰ってどこか行った事が……知らないお母さんとおじいちゃん、お兄さん達がいたような……」

「あ、あれは私が、怪しい奴に追いかけられてたアルフレッド様を、妹と匿ったんです。それで、キールの家に行く途中だったので。一応、私とキールの家族との関係は、私の妹のセリナが難病に侵されました。私達の国は元々、ハーブや薬草を用いた民間療法が多かったのです。キールの一族は処刑執行人と言われて恐れられていましたが、逆に、ハーブなどに精通した民間医でした。でも、アマーリエ様方がこちらに来る少し前から、教会が建ち、教会でポーションを……すると、自分の力と薬草で癒やすより早く癒えると、じいちゃん達のことは忘れて行き、じいちゃん達は細々とポプリを裏の門から出て、街で売ったり、昔の噂を聞いてやって来る人間に薬草を……」


 バルナバーシュは悲しげに目を伏せる。


「私は小さい時に母が死んで、父が仕事をしないで酒を飲み歩いていました。私は近所のお店の皿洗いとか、掃除、買い物をしたり、ゴミを片付けてその中から綺麗なもの……ポーションのボトルとか、捨ててある余った布を集めては磨いたりして売ってました。それで、妹の病気を治そうにもポーションは高く、貧乏な私達には買えません。それで昔、近所のおばあちゃんに聞いた話を思い出して、連れて行ったんです。そうすると、おじいちゃんと母さんが妹を助けてくれました。でも、かき集めたお金は受け取らない。美味しいものを食べなさいと言って……そして、もう二度とここに来てはいけないと」

「……赤い門……」


 イザークは真顔で、


「でも私は、面倒も見てくれない父親より、口数は少ないけれど強いじいちゃんや、美味しい料理を作る母さん、それにハーブを教えてくれるキールが大好きでした。幼馴染だったシシリアも、途中から一緒に行くようになって、そのハンカチの刺繍はおばさんの作ったものです。私達の集めたもので、ポーションのボトルとか布を持って行ったんです。そうすると、瓶代を少しでも安くあげたいじいちゃんが、薬草を詰めて売りに行けるようになって、手先の器用な母さんは刺繍や染色をセリナやシシリアに教えたり、ポプリ入れを作ったりして……。俺はキールとハーブを摘んだり、畑を耕したり……そんな日が続くと思ってたんです」


イザークの目からつつーっと流れ落ちた。


「じいちゃんはだいぶん年だった。とても疲れていたんです。でも、じいちゃんはキールを処刑執行人にしたくなくて、あの日、失敗してしまった。アマーリエ様は直接はご存知ではないでしょうが……」

「えぇ……聞いています」


 青ざめた顔ではあるものの頷いた。


「じいちゃんは集まってきた群衆に石を投げられ、木の棒や持っていた斧で……手足は引きちぎられ、ひどい……姿でした。それだけじゃなく母さんは、じいちゃんに逃がされたものの、男達に取り囲まれ、顔はボコボコに殴られ変形し、服をズタズタに引き裂かれ……」


 冷静沈着の家令達も青ざめ、息を呑む。


「キールは母さんを追いかけていて、母さんを襲う暴徒を躊躇いなく斬り捨てました。そして、2人の葬儀をすると、私達と距離を置いたんです。2人のお墓はあの敷地内です。そして、アマーリエ様。どうか、その指輪を持ち主の方に返して頂けませんか? そして、おばさんが最後に遺した言葉を伝えて下さい」

「この持ち主の方は……なんと言われていたの?」

「キールが聞いたそうです。『アーティスさま、申し訳ありません……』申し訳ありませんの後の言葉は、聞き取れなかったそうです。でも、キールは『父親に会いたくない。父親はいない! 自分は神を信じない。自分が信じるのは先祖。先祖を苦しめた人も許せない! 神に仕える父親なんてクソ食らえ!』と言っていました。母さんは苦笑というか哀しげでした」

「セリナはキール兄さんが好きで、追いかけて行きました。何度か追い返されたそうですが、それでも……。私達は先に結婚しましたが、その後2人も……そして、アルフィナ様が生まれて……幸せになるはずだったのに!」


 シシリアは泣きじゃくる。


「キール兄さんは、なんで生まれてきたんですか? あんなに私達みたいな邪魔だと思う子供にまで遊んでくれて、抱っこやハーブティを淹れたりお菓子を作ってくれて、優しくて、大好きなお兄ちゃんでした。お母さんもおじいちゃんも! どうして! キール兄さんのお父さんは!」

「シシリア……」

「いらないなら産んで欲しくない! 私みたいにゴミ捨て場に捨てられる位なら、産んでくれなんて言わない!」

「ゴミ捨て場……」


 イザークは妻を抱きしめ、苦しげに告げる。


「……私が、まだ母が生きていた頃、ゴミ捨て場を探してお金になるようなものをと思っていたら、シシリアがいたんです。シシリアは養女先で酷い目にあって……途中で逃げてきて、私達はキールの家族が処刑執行人だと聞いても気にならなかったのは、キールの家族は本当に優しかったからです。私達の理想の家族でした。だから……キールとセリナがここに眠っているのだと思うと……嬉しい……です。ありがとうございます……」


 夫婦は抱き合い互いの顔を隠すようにすると、しばらくすすり泣いたのだった。

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