表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

73/123

【番外編】処刑執行人の人生5

 その日から、1人で黙々と静かに生きようと思った。

 仕事のない日には、ただ、祖父と母の遺品の整理をしていた。

 祖父の遺品の中には代々のご先祖の日記や、祖母の遺品。

 そして母の部屋に入った。


 母の部屋は狭かった。

 しかし、その部屋は整えられていて、ベッドの横に小さな引き出しがあり、それを開けると、見たこともないビロードの箱を見つけた。

 躊躇いつつ、手に取り蓋をあけると、親指の爪程もあるサファイア。

 ブルーではない……ピンク。

 サファイアだと解るのは、中に書いてある柔らかいが男性の文字で書かれたメッセージカードが入っていたから。


『これは、母国でよく取れるサファイアの中で、君に似合うものを選んだ。

 君は私の大切な人。

 君は何も欲しがらない。

 売ってくれてもいい。

 君の為に贈る。

 アーティス・メルク・サーパルティータ』


「サーパルティータ……えっ……」


 祖父の部屋に戻る。


 そして、祖父の日記を調べ、自分が生まれる一年程前に、現在のこの国の王妃であるアマーリエが嫁いできた事が書いてあった。

 聖女であるアマーリエは、アソシアシオン皇国の枢機卿である兄と共に、この国にやってきたらしい。

 その兄はしばらくこの国に滞在して、妹の結婚式などの儀式などを見届けてから、帰っていったらしい。

 その枢機卿の名前は、アーティス。


 私は、祖父や母に髪と瞳以外、顔立ちが余り似ていないと思っていた。

 確か、前にイザークが連れてきて魔術師長の屋敷に祖父が送っていったアルフレッド皇子は、アマーリエ王妃にそっくりと有名で……。


「そんな……何で……母さん」


 蓋を閉めた箱を握りしめて、涙を流す。


「何で、何で……!」

「……キール」


 声に振り返ると、親友が立っている。


「い、イザーク……」

「どうしたんだ?」

「……」


 持っていた宝石箱を差し出す。

 高級なビロードに怯みつつ、蓋をあけると、中にはイザークには見ることもない大粒の石のついた指輪。

 絶句するが、カードを見ると、


「えっ……この人、お前の親父?」

「……サーパルティータ帝国の第二皇子で、アソシアシオン皇国の枢機卿。アマーリエ様の兄……」

「えぇ? お前、知らなかったのか?」

「知らない……だって、母さん、一度も……」

「おい! これ持って、行こう!」


腕を掴む親友を見る。


「どこに?」

「このメッセージカードが本当なら、お前は隣国の皇子の息子だぞ! この国のアマーリエ様の甥! お前はこんな生活しなくていいんだ」

「……何言ってるのさ。私が生まれて何年? 母さんを愛してるなら探してる。探してないんだから、それだけの関係だったんだよ。私が行っても怪しいだけ。こんなものいらない。売っても怪しまれる。どこかに捨ててしまおうか……」

「待て! お前が捨てるなら、俺にくれ!」


 手を伸ばそうとするのから避ける。


「俺にくれ。売ったりしない!」

「あ、シシリアにあげるの? いいんじゃない?」

「アホ! シシリアにお前からのもんやるかよ! 俺が預かっとくんだ」

「いらないから売っていいよ」


 涙をぬぐい部屋を出ていったキールに、イザークは、


「お前に、母さんやじいちゃんのことを忘れろって言わない。でも、俺達と一緒に生きようと思って欲しいんだ。頼むから……自分から不幸になるな。お前は幸せになるべきなんだ」


祈る。




 イザークの妹のセリナは、キールが好きである。

 キールはセリナが不幸になって欲しくないと、最近避けている。

 本当は、キールの一族の仕事では反対したい。

 でも、親友のキールなら、大事な妹を任せたいとも思う。


「……キール……笑ってくれよ。あの頃のように……」


 初めて会った頃は無表情に見えた。

 けれど、キールの母が、


「ごめんなさいね。あの子、お友達がいないから、私達のような喋り方なの。あれでも嬉しくて照れてるのよ。静かについてきて?」


と奥に行くと、顔を真っ赤にしているキールがいた。


「えっと……ど、ど、どうしよう。いいよって言えばいいのかな。ありがとう? これからもよろしく? 今から戻って……あぁ、でも、イザークに嫌われるかな?」


 悩んでいるキールは年相応で、街の悪ガキから妹達や年下の子供を庇うイザークからすると、本当に真面目で大丈夫かと心配する位で……そんなキールが大好きで心配だった。


「キール……これは、預かっとくから……お前が本当の父さんに会える時まで……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ