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お兄様達とクッキーを食べるの大好きです!

 ぐずぐずとしている少女を抱いたセシルは、空いていたソファに座ると、にっこりと笑う。


「小さいお姫様。さっき、君のお父さんが言っていたと思うけれど、お兄ちゃんはセシルって言うんだよ。こっちのお兄ちゃんは聞いてると思うけれど、お兄ちゃんの弟のユール。さっき来た伯父さんの子供なんだ。お姫様のお名前、お兄ちゃん達にもう一度聞かせてくれるかな?」


 ヒックヒックしゃくりあげていたアルフィナは、顔を上げる。


「お、お兄しゃま、ア、ル……アユフィナ……アルフィナでしゅ……」

「アルフィナだね。アルフィナは何が好きかな? 今度お兄ちゃん達が、プレゼントするよ?」

「プレジェント?」

「うーんと、お菓子とかね? 今、髪を結んでいるリボンとか、絵本はどうかな?」

「お、お父しゃまが、飴を毎日くれるのでしゅ」


 瓶を示す。


「じゃぁ、リボンかなぁ。ピンクも可愛いけれど、瞳が綺麗だから、同じ色……それかブルーも素敵だね」

「失礼致します。お嬢様、セシル坊っちゃま、ユール坊っちゃま。お茶とお菓子をお持ち致しました。お嬢様はジュースですよ」


 ミーナが、ニコニコとワゴンを押してくる。


「ジューシュ?」


 キョトン?


首を傾げる仕草が可愛らしく、セシルもユールも表情が緩む。


「果物を絞ったものに、ミルクとメープルシロップを混ぜたものです。甘いですよ」

「わぁぁ! ば、ばあや、ありがとう!」


 手を伸ばそうとするのを、ユールが先にグラスを取り、


「こぼしたらいけないから、俺が持つよ。ゆっくり飲んで」

「ありがとうございましゅ。……お、美味しい〜でしゅ!」


目をキラキラさせる少女。

 テーブルに置かれたお菓子の皿から、セシルがクッキーを取り、


「アルフィナ。クッキーだよ。食べる?」

「た、食べましゅ!」

「はい、あーん」


その言葉に誘われるように、口を開ける。

 セシルはその様子に、小鳥の雛みたいだなぁと思いつつ、食べさせる。

 もぐもぐと口を動かし、動かし……動かし……。


「アルフィナ……お口の中のものごっくんしようね?」


 口の中のクッキーが美味しかったのか、その余韻に浸りたいのか口を開けない。


「アルフィナ、お口開けて。ほら、まだ残ってるクッキー食べようね」

「あ、あしゅた……」

「食べ残しのクッキーは、明日にはないよ? 今日食べなきゃ」

「だ、だって……今日は飴とクッキー……いっぱい……」


 お父様に、毎日飴を貰える。

 それだけでも嬉しいのに、ジュースにクッキーなんて今までの生活じゃあり得なかった。

 特に、こんなに甘いジュースなんてなかった。

 酸っぱい柑橘を、お水で割る位である。

 幸せな夢が、なくなって欲しくない……。


「お嬢様。今日のおやつは旦那様から、お嬢様が食べたいだけ食べていいとのことですよ。今日は特別だそうですわ。それに、坊っちゃま……お兄様達とお話しなさって下さいませ」

「た、食べていいにょ? ばあや」

「晩御飯が食べられる位にして下さいね。坊っちゃま方、お嬢様が食べ過ぎないようによく見ていてあげて下さいましね」


 孫を可愛がる祖母のようにアルフィナに言い聞かせると、二人に頭を下げ下がる。


「はい、アルフィナ。クッキー食べようね」

「あいっ」

「何か、リスみたいだな……」


 両手でクッキーを握ってカリカリ食べている姿に、ユールは呟く。


「可愛いからいいの。ユール。ジュースを飲ませてあげて」

「はい! アルフィナって、小さくて可愛いな」


 男兄弟にとって一番近い少女はフェリシアだが、アルフレッドの娘のアルフィナもこれから二人にとって近い存在になる。

 小動物系のアルフィナは、本当に素直で無邪気で可愛い。


「あ、口の周りが汚れちゃったね」

「ありがとうございましゅ。お兄しゃま……お兄しゃまも食べましゅか?」

「うん、じゃぁ、あーん」


 ユールが口を開けたので、慌ててクッキーを口に運ぶ。


「あ、ずるい。アルフィナ、お兄ちゃんにも、あーん」

「あーんでしゅ」


 セシルにも運び、


「セシルお兄しゃま、ユールお兄しゃま。美味しいでしゅか?」


こてんっと首を傾ける姿に、二人は頬を赤くする。

 邪気がないと言うのも少々問題である。




 玉座の間に向かいかけたアルフレッドとラインハルトは、後ろから急ぎ足でやってきたカーティスに気がつく。


「カーティス、お前! 娘は!」

「それに、ルシアンは……」

「フェリシアも、ルシアンもケルトも無事だとも。だが、もう納得いかないことが多い! それに、フェリシアにどんな罪があるんだ! 私の娘が何をした? それに国王も、私の娘であるフェリシアに何故ギロチンなど許可したんだ! 普通、毒殺か修道院だ……公爵令嬢であるあの子を引き回してあんな目に……それに許せない! 私達には処刑場に行け、結婚式に出席しろと強要しておきながら、自分は姿を隠す! 卑怯ではないか!」


 カーティスは、涙を浮かべながら国王に対し怒り狂う。


 愛する娘は息を吹き返し、取り戻すことはできた。

 しかし、自分たち家族、それにフェリシア自身の心にも、深く酷い心の傷が出来た。

 愛らしい末娘、妹を冤罪で、しかも裁判もなく民衆の前で処刑……首が落ちる姿は王子の命令で見せつけられたのだ。


 それなのに、国王は寵姫共々顔を見せなかった。

 こちらには強要したというのに……。


 アルフレッドは険しい目をする。


「私も不快だったよ、兄上。許せないと思った。それに、あの馬鹿の嫁って言う家の家族がね……」

「あぁ……」


 ラインハルトも、苛立たしげに眉を寄せる。


「確か……アルフレッドの連れて帰った子は……」

「……昨日、フェリシアの死刑を執行させられた執行人の娘……両親はあの後命を絶ったって。娘として引き取ろうと思って。それに、あの子にあのようなことをさせたくない」

「では、死刑執行人は……」

「それなんだけど……」


 アルフレッドは、ラインハルトとカーティスに耳打ちする。

 すると、


「あぁ、それはいいな」

「……自分の今までの行いを後悔するがいい」

「だから……アルフィナは」

「分かっている。あの子には幸せになる権利がある」

「そうだよ。私は、あの子の両親を恨んではいない」


カーティスは昨日、遠目で一度だけみた顔を思い出し悼む。


「あの者は命令を遂行するしかなかったのだ。如何に自らが命令を遂行したくないと思っても、拒否権はないと言うことがどんなに辛いことか……権力とは地位の低い者を痛めつける者ではなく、その力は国や民の為に利用すべきで、私は外国に行って思うのは国の代表者として見苦しくないように、恥をかかせたくないと思っているのに……」

「そうだな。私も部下の命を預かっている、だから部下には死んで欲しくないし、その為には何とか努力をしているつもりだ。だから……許したくない」


 三人は頷いた。

 一番年の下のアルフレッド……国王の弟は余計に、厳しい表情で歩き出したのだった。

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