アルフレッドとキャスリーンの報告
アルフレッドはアルフィナを抱き、キャスリーンと共に両親の元に向かう。
アマーリエはキャスリーンを可愛がっていたが、結婚を許してくれるか心配でもあったからである。
部屋に案内されると、この間までズリズリと腹ばいで移動していたアンネリが、超高速ハイハイで移動していた。
そして、やってきた父や姉の顔を見て、
「きゃぁぁ! パー! ねーね!」
と大喜びをしている。
「アンネリ? えぇぇぇ! もうこんなに、移動できるの? すごいね?」
腰を下ろしアルフレッドが褒めると、父の膝によじ登ろうとする。
「ちょ、ちょっと待って、アンネリ。パパはお姉ちゃんを抱っこしてるからね?」
「うにゃ!」
嫌!
と言いたげに頬を膨らませるアンネリに、アルフィナは、
「おとうしゃま、アユフィナ、歩けるの」
「ダメダメ! 今日、お父さんはアルフィナを抱っこしたいの」
「じゃぁ、アンネリ。ママと行きましょうか?」
キャスリーンは手を差し出すと、アンネリは機嫌が直ったのか、キャスリーンに抱きつき、甘える。
姉のアルフィナは甘え下手だが、アンネリは甘え上手である。
二人が顔を見合わせ微笑む。
その様子を見守っていたアマーリエとバルナバーシュは、
「アルフレッド? キャスリーン。いらっしゃいな。お茶でもどうかしら?」
「アルフィナもお菓子はどうだい?」
「ありがとうございます」
子供達を抱いた二人に、覚悟を決めたのだと特にアマーリエは内心嬉しく思い夫を見る。
侍女たちが主人達にお茶、子供達にはジュースとお菓子を並べ下がっていく。
扉が閉ざされると、アルフレッドは、
「アルフィナ? 何が食べたい?」
「んーと、んーと……パンケーキ!」
「じゃぁ、アンネリも一緒がいいわね?」
キャスリーンはシロップをかけてナイフで切ると、アルフィナとアンネリの口に入れていく。
「……いち〜!」
「おいし〜ね? アンネリ」
「良かったわ。もう一つ食べる?」
キャスリーンは嬉しそうに食べさせている。
そして、ソワソワとしていたアルフレッドは、両親を見る。
「あの、父上母上、ご相談……ではなく、報告をしたいのですが……あ、ベルンハルド!」
ベランダからおずおずと姿を見せた弟に、微笑む。
「きてたんだね!」
「お邪魔じゃありませんか? 兄上」
「そんなことないよ! こっちこっち!」
空いている椅子を示され、腰を下ろすと、キャスリーンが、
「はい、どうぞ。あーん」
「えっ?えっ?」
差し出されたフォークの先にはパンケーキ。
うろたえるベルンハルドに、バルナバーシュは噴き出し、
「キャスリーン。ベルンハルドが困っているよ」
「そうそう。からかわないの」
「あら、からかってないわ。だって、前にお菓子を美味しそうに食べられてたから、近くで見てみたいと思って」
アルフレッドは苦笑する。
「あとでもじっくり見られるよ。それよりアンネリとアルフィナが小鳥の雛みたいだよ」
「あら、本当。ちょっと待ってね」
パンケーキをベルンハルドに押し込むと、新しく小さめに切り、二人の口に運ぶ。
きゃっきゃと喜ぶ二人に微笑むキャスリーンの横で、
「えと、改めて……父上、母上、ベルンハルド。私は、このキャスリーンと結婚したいのです。いえ、許可を得るのではなく……反対されても結婚します。どうか、お許し下さい」
真剣な眼差しで両親を見る。
「私は……男に生まれたことを、ずっと母上に申し訳ないと思って生きてきました。女性だったら嫁ぐ時に、母上を連れて大手を振って王宮から、もしくはこの国から出ていけると……でも、私は男で、当然同性を好きになるはずもなく、ただ男として生まれたからには王子として、そして王位継承権を持つ者として国民や国の為に生きようと……そう思ってきました。陛下を支えようと……でも、最初に出会ったキャスリーンを見て心が揺れました。どうして初めて好きになった人が、陛下の王妃になる人なのかと……しかも押し付けられた女は下品で、母上の部屋を物色したり、結婚している兄上方に色目を使っていて、本当に気持ちが悪かったのです……ドレスを選ぶのに、母上やキャスリーンならこんなドレスが似合うと思えるのに、あの女の選ぶドレスの下品さに反吐が出ました。何故、こんなのと一生一緒になんて言わされるのかと、神を恨みました」
兄の激しい言葉にギョッとするベルンハルドに、キャスリーンはニッコリとパンケーキを差し出す。
「陛下とあの女が浮気をしていると言うのはすぐに分かりました。内心喜びました。これで離婚ができる。キャスリーンを思っていられる……そう思いました。母国に帰って再婚していても……それはそれで辛くても、目の前でキャスリーンに近づけない距離より良かった。初恋だと若気の至りだと忘れようと思った。でも、再会して……忘れられない自分に気がついたんです。お願い致します。父上母上。どうか、私のわがままです。許されないのは分かっています。でも、キャスリーンと結婚を……祝って下さいませんか? アルフィナとアンネリの母を、この家に……お願いです」
頭を下げる二人……キョロキョロとしたアルフィナは何かあるのだと思ったのか、一緒に頭を下げている。
オロオロするベルンハルドの前で、両親は苦笑する。
「あのね? アルフレッド……私は貴方のせいで、不幸になったとは全く思っていないわよ? 逆に貴方を生んで、こんなに優しく強い子になってくれた……それにベルンハルドも私の可愛い息子よ? 自慢の息子達。なのに、許さないとか、幸せになってはいけないなんてこと、言わないわ。それに、本当はキャスリーンに会った時、本当に貴方達はお似合いだと思ったもの……」
「そうそう。年齢より大人びているアルフレッドを、年相応に振り回す……扱う人間は少ないと思うよ? その一人のキャスリーン程、お前にぴったりな女性はいないね。私もアマーリエに聞いた時そう思ったし、今もそうだと思うよ」
「父上、母上!」
「あ、そうそう」
立ち上がったバルナバーシュは、引き出しから何かを持ってくると、二人の前に並べる。
二つの宝石箱である。
「これはね? 私の読んだ歴史書にあったのを覚えていたんだ。開けてごらん」
義父に促され開けると、一対の指輪がある。
しかも、一列に7つずつの石が並び、だが派手ではなく可愛らしい。
「こちらの小さい方の指輪はキャスリーンに、石は左からRuby、Emerald、Garnet、Amethyst、Ruby、DiamondとSapphire」
「えっ?どう言う……」
「頭文字を読んでいくと『REGARDS』。『REGARD』とは「敬愛」の意味。最後に複数形だからSがつくんだよ」
「REGARD RING……」
「そう。こちらの方はアルフレッドに『DEAREST』のリング。Diamond、Emerald、Amethyst、Ruby、Sapphire、Emerald、Turquoise。こちらは『最愛の』と言う意味が込められているんだよ」
二人はうっすらと頬を赤らめる。
「ち、父上も母上も教えてくれなくてずるいですよ……」
「ふふふっ、旦那様が考えてくれたのよ。それに、可愛い娘に心に残る気持ちを贈りたかったの。受け取ってくれるかしら?」
アマーリエの言葉に、キャスリーンは瞳を潤ませる。
「お父様、お母様……ありがとうございます! 本当に……お二人の娘になれて嬉しいです」
「私もよ。キャスリーン」
幸せな家族がまた一つ生まれたのだった。
『REGARD(S) RING』
歴史的に見ると
イギリスのヴィクトリア朝の頃から始まったもので
婚約指輪に使われたもの。
ヴィクトリア女王の時代に流行して
現代にもこの考えが受け継がれています
石は左からRuby
Emerald、
Garnet、
Amethyst、
Ruby、
Diamond
とSapphire
複数形であるサファイアを除く場合もあります。
リガードリングのように
宝石の頭文字で言葉を表現するリングは
他にもあり
「DEAREST RING:最愛の人への指輪」
が有名です
こちらは、
Diamond:ダイヤモンド
Emerald:エメラルド
Amethyst:アメシスト(紫水晶)
Ruby:ルビー(ダイヤモンドより次に堅い硬玉の中で真紅の色のみがルビーと言う。似たような石にスピネルがあるが硬度が違う。黒太子のルビーと言う有名な宝石があるが、それもスピネルである)
Emerald:エメラルド
Sapphire:サファイア(ルビーと同一鉱石のコランダムで、混じる鉱石の違いで色が変わる。レッド以外の全てがサファイアと言われるが、一番高価なのは、矢車菊のブルーと呼ばれる濃い青色である。)
Turquoise:ターコイズ、トルコ石とも言われる、青い空の色の石。透明度はないが美しい。
ターコイズは高く、その上、他の石に着色して売る業者もいるので、もしくはTopaz:トパーズをはめ込む場合もある。
となっています。
DEARESTはdearの最上級型
最も大切な、愛おしい人という意味です。




