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親子の再会と別れ。

 アルフレッドはキャスリーンの手を取り、ゆっくり歩き出す。

 周囲を見回していたキャスリーンは、次第に青ざめる。


「ねぇ……アルフレッド様……ここは……」


 石造りの門は遺されているものの、鉄でできた柵は全て失われ、門もない。

 そして花壇と所々大きな木々が立っていたが、花壇の花は枯れて、木も全て切られ、切り株しかない。

 踏み固められた土は乾ききり、キャスリーンの靴では滑ってしまうだろう。


「こ、ここは本当に……あの教会なの?」

「……そうです。神の怒りに触れた者のみがいます。そして、ここの枢機卿はお参りに来る人々のお金を懐に入れ、そのお金で信じられないような額の利息を取り、金貸しをしていたそうです。それに……」


 ドレス姿のキャスリーンをエスコートしながら、階段を上っていく。

 違和感はあったものの、登りきった場所で息を飲む。


「……教会の建物やステンドグラスがないわ……」

「一般の者が、自分の家を修復する為に、板やベンチ、扉も全部持って行きました。国の者が悪いのではありません。一部の貴族や商人に財が集中し、一般国民が貧しい暮らしをしているのです。私達も何とかしていたのですが、焼け石に水。その上、度々街に下りては癒してきたフェリシアを……」

「……」

「フェリシアは生き返ったことは皆知っていますが、怒ってしまったのですよ」


 床板を剥がしていた男達は、ハッとした顔をする。

 国王は嫌われているのだが、宰相だったアルフレッドとその後ろの外交大臣で聖女の父のカーティス、騎士団長のラインハルトは敬意を持っている者が多い。


「宰相閣下! も、申し訳ありません! お許しください!」


 真っ青な顔をする男達と、その手伝いに来ていた小さい子供を抱きしめる母親らしき女性。

 膝をつき震えるようにして頭を下げる。


「構わないぞ。それより、私達が本当にきちんとしていれば……」

「君達、急いで去りなさい。見なかったことにするから」


 ラインハルトとカーティスが優しく言い聞かせる。

 その横で、母親が庇おうとしているが気になっているのかこちらを見る、幼い子供達……。

 アルフレッドは怖がらせないように微笑みながらゆっくり近づき、腰を落としてポケットからお菓子を差し出す。

 アルフィナが大好きな飴とクッキーである。


「はい、食べる? 美味しいよ?」

「いえ、いえ! 申し訳ありません。そのような……」


 母親は首を振るが、三人の子供は母親やアルフレッドを見ると、恐る恐る近づき、飴を手にする。


「あ、ありがとう! お兄ちゃん!」

「クッキーもどうぞ。お母さん達と食べてね?」


 袋を渡すと、目をキラキラして、中を開けて覗き込む。

 その姿を、キャスリーンは微笑んでみている。

 元々実家の兄妹には子供が多く、叔母として可愛がっている。

 無邪気な子供達は大好きである。

 恋人の優しい微笑みにキャスリーンも嬉しくなる。


「皆、私達は見なかったことにする。だから、早めに切り上げなさい。いいね?」


 カーティスは男達に言い聞かせると、大きく頷く。

 そして、荷物を片付け去っていく数家族を見送る。


「お兄ちゃん、お姉ちゃん、おじさん! バイバイ!」

「お菓子ありがとう!」

「またね!」


 子供達は大きく手を振る。

 キャスリーンは手を振り返した。


「気をつけてね?」




 見送った後、四人は奥に進んでいく。

 もう骨組みと床だけしか残っていない廃墟に、何故か掘っ建て小屋のようなものがあり、薄汚れた抱き合う男女と、その足元で口や周囲に紙の束を詰められた老人が手を伸ばしている。


「……誰か! ……お、叔父上ではないか! 頼む! 助けてくれ!」


 アルフレッドは一瞬眉をひそめる。

 キャスリーンをかばうように一歩前に出ようとしたが、ラインハルトとカーティスが、


「お久しぶりです。まだ式は続いているのですね。殿下」

「よくお似合いですよ。殿下」

「お、お前らぁぁ! フェリシアを出せ! あいつが俺を呪ったんだ! あいつは聖女じゃない! 悪女! 魔女だ!」

「うるっさい!」


男性達の間をかき分け姿を見せたキャスリーンは、手にしていた扇を畳み王子の顔を叩く。


 パーン!


と素晴らしくいい音がすると、王子の顔がみるみるうちに腫れ上がる。


「なっ! 何をする! 痛いではないか!」

「痛くしてあげたのよ! 感謝しなさい! 貴方のような甘やかされた子供程、鬱陶しいし矯正は難しいの。言い聞かせても聞かないなら、もう一発!」


 閃かせた扇で王子の横の小娘を叩き、ついでに、王子に回し蹴りを叩き込む。


「な、何よ! 何で私が!」

「馬鹿をしつけしないと! 誰もしなかったから、こんなに育ったんじゃない? だから叩くのよ。言い聞かせても反省しないなら、拳で言い聞かせるしかないじゃない」


 扇を広げ、コロコロ笑う。


「痛いのよ! ぎゃぁぁ! もう嫌ぁぁ!」

「俺だって嫌だ!」

「反省しなさいな、馬鹿! あぁ、これはね? 鉄扇なのよ。薄〜く伸ばして細工も美しいでしょう?」

「女……! 王子である俺に!」

「オホホホ……! 私は王女ですもの。それに貴方は、もう王子じゃなくてよ?」


 キャスリーンは告げる。


「貴方の悪行が他国にもアソシアシオン皇国でも知れ渡り、アソシアシオン皇国からも貴方達の名前は削られ、皇国からこの国に貴方と言う存在はいないものとされているのよ? それにその子の家族も皆、同じ。もう貴族譜から削られてしまっているわ。貴方達を助けてくれる人間なんて、もういないわよ」

「何っ? そんな筈はない! 俺は、この国で唯一の王位継承者だぞ! そうだ! 母上の国に……えと、どの国だったか……」

「エメルランドは……私は、お前のようなクズを息子と思えないし、助けるつもりはないわ。父親と共倒れして頂戴」

「……えっ? お前……」


 キャスリーンは表情を凍らせ、スッと立つ。


「分からないの? もう一度言いましょう。私は、エメルランド国王王妹キャスリーン。この国の王に嫁いで、お前を生んだけれど、前王に襲われそうになり、義母であるアマーリエ様に救われ母国に帰った。お前の父親はパルミラや他の女と遊んでばかり。前王も同じ。アマーリエ様達のおかげで国は成り立っていた。でももう終わりね」

「は、母上ですか? 母上!」

「私、二人の娘はいても、息子はいないわ。それに、お前のようなクズに母と呼ばれたくはないわね」

「な、な……母上は私を捨てた癖に、よくもぬけぬけと!」


 その叫びに一瞬、表情を陰らせる。


「追い出したのはこの国で、お前の父親と祖父、そしてパルミラ! キャスリーンに罪はない!」


 アルフレッドはキャスリーンを守るように抱き寄せる。


「なっ……叔父上と不倫関係とは! お前達こそ、父上や俺を裏切り……」

「何が裏切りだ! その前にお前達がこの国を! 国民を裏切ったんだろうが!」


 ラインハルトは身に帯びていた剣の鞘で、王子の鳩尾と首筋を思い切りぶん殴った。


「グハッ!」

「まだ言うなら、この剣を抜いてもいいが? お前達は神によって罰を与えられた。不死の呪いだ。何度も蘇るか試せるな?」

「きゃぁぁ! 私は関係ないわ! 私はこの男に利用されただけよ! 嫌ぁぁ!」

「何を言う! お前が、フェリシアのことを色々言ったんだろうが! お前こそ!」


 二人は言い争う。

 その横で、元枢機卿の男に近づいたカーティスは、口に押し込められていた借用書を抜き取り、散らばったものを確認すると、


「これは、アソシアシオンに届けよう。で、あちらから出して貰おう。この国が貧しくなったのは、あちらから派遣されたお前らのせいだからな」


 よだれが付いている部分は触らないように包むと、


「アルフレッド、ライン、それにキャスリーン様。こんなクズを見ていても仕方ないでしょう。帰りましょう。目的は果たしましたよ」

「そうですね。兄上。キャスリーン。帰ろう。子供達が待ってるから」

「そうね……二人に会いたいわ」


 二人は手を繋ぎ、ゆっくりと歩き出す。


「裏切り者! クソババァ!」

「うるさい! これでも口にしてろ!」


 ラインハルトは、アルフィナと自分の息子が作った毒ポーション数個ずつを三人の口に押し込めると、仕事をやり遂げたとばかりに、カーティスと共に去っていった。


「な、なぁぁ! 苦い! あぁぁぁ!」

「嫌ぁぁ! 吐き出したい……」


 叫び声と悲鳴がポーションが効力を失うまで続き、ますますこの教会は呪われていると言う噂で持ちきりとなったのは言うまでもなかった。

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