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聖なる教会とエメルランドの王妹

 話は少し戻る。

 ベルンハルドの誕生日の前、ラインハルトやルシアン、カーティスは、アマーリエとバルナバーシュに呼ばれていた。


 アルフレッドは弟達に愛娘達を預け、庭で遊んでいるのを両親の座るソファの隣の一人用の椅子に座って見つめていた。

 はいはいをしているアンネリは、姉のアルフィナを抱っこしているセシルに嫉妬して、パンツを引っ張っている。


 アルフィナは一人で寝るのが嫌らしく、時々アルフレッドやセシル、ベルンハルドやイザークに構って欲しいというようになった。

 セシルは時間があると、アルフィナの部屋に赴き、嬉しそうに抱っこしている。

 アルフィナが人に甘えられるようになったことは、嬉しくて仕方がない。

 お茶を飲みながら、アルフィナのこれからを考えていたアルフレッドは、カップをソーサーに置き、テーブルに乗せた。


 ラインハルトは大柄な体で、車椅子に座るルシアンを軽々と抱き上げソファに座らせる。

 ルシアンもだいぶん動くことができるようになったが、杖をついて歩くのもまだまだ難儀している。

 カーティスはルシアンの膝に毛布をかける。


「どうしました? アマーリエ様、バルナバーシュ様」

「あ、あのね……先日、私の兄で教会のアーティス枢機卿がここに来たでしょう?」


 言葉が重く、告げていいものか悩んでいると言いたげである。


「そうでしたね。で、悩まれているのはどのようなことですか?」


 問いかけるカーティスの横で、ルシアンはウトウトし始める。

 昔から、彼は幼馴染の中で一番マイペースで、最近はリハビリに運動や魔術以外の知識を勉強するようになり、疲れると寝入ってしまうらしい。

 ラインハルトがソファにもたれさせる。


「実は……枢機卿が、3人のこちらの屋敷を見せて欲しいと言われたの」

「は? うちの屋敷ですか?」


 ラインハルトは首を傾げる。


「そんな枢機卿に気に入られるような、家じゃないと思うんですけどね」

「お前の屋敷が一番広いじゃないか」

「それよりカーティスの屋敷は美しいし、芸術的価値は高いな。俺の屋敷は、庭というより訓練場が幾つもあるだけだ。それよりルシアンの屋敷は魔術書や色々あるだろう?」

「うちは、魔術書や道具とかで足の踏み場もないよ……フレアが毎回掃除してくれてるけど……自分でも頑張って掃除しないとね」


 あくびをしながらルシアンが、目を開ける。


「すみません。アマーリエ様、バルナバーシュ様……今日、ケルトとフェリシアが作っていた畑に行って、杖で歩き回ったので」

「まぁ、杖でそんなに歩けたの? 素晴らしいわ」

「本当だね。私達は気にしないよ。それより、アマーリエの兄は君達の屋敷、特にカーティスの屋敷の教会を見せて欲しいと言っていた」

「教会に?」


 3人は顔を見合わせる。


「脅しですか? またフェリシアやアルフィナに……」

「いえ、それはありません」


 アルフレッドは口を開いた。


「……伯父上は、アルフィナの実の祖父です。アルフィナが言いました。母上。伯父上はここに、泣きぼくろありますよね?」

「えぇ、あのほくろね。兄上ったらあの顔で女性を食っては捨て、初夜権と言うのを振りかざして次々に若い娘を落としてきた……クズよクズ! 聖職者のくせに、分かってるだけで7人の子供がいるのよ! まぁ、父や長兄を始めとする人も変わらないけれど! 許せないわ! 女の敵ね!」

「……アマーリエ……お願いだから、成人しているとはいえ、息子の前で言うものじゃないよ」


 バルナバーシュはたしなめる。


「だって……私の思い出したくもない式の時に付いてきて、女性に手を出していたのよ。あの兄様が珍しく彼女に本気になっていたのだけれど、私、その方に会えなかったのよ。その上、兄様の前から姿を消したらしくて、荒れて帰っていったのよね。ザマァ! と思ったわ」

「ザマァ! もやめなさい。アルフィナやアンネリが悪い言葉を覚えてしまうよ」

「そ、それは嫌だわ。ごめんなさい!」


 アマーリエは慌てて謝る。

 アマーリエにとって、夫と二人の孫とお腹の子供は、二人の息子と共に宝物である。


「アルフィナの父親は、伯父上と同じところに泣きぼくろがあったそうです」

「そういえば、イザークの幼馴染は私に似ていると……」

「そう言っていたわね……って、えぇぇぇ! それじゃ、アルフィナはサーパルティータの正統な皇女になってしまうわ! そんなの困るわ!」


 真っ青になったアマーリエは夫と息子、そして息子同然の3人を見る。


「どうしましょう……私も聖女だけれど、力のない聖女だったから、アソシアシオン教国の命令でここに嫁いできたの。お兄様は枢機卿で、父も長兄もアソシアシオンに影響があればいいと思っている傲慢なところがあるから……」

「まぁ、あまり言いたくないけれど、君の親や兄弟は馬鹿揃いみたいだね」

「そうね。正妃である義母は良い方だったのだけれど……よく言われたわ。陛下……父のことね……の命令で貴方を娘として育ててきたけれど、貴方は賢い子なのに、息子達はあれで娘は散財して、注意しても聞きもしない。陛下も民の皆が汗水たらして働き納めた税を何だと思っているのかしら……とおっしゃっておられたわ。エメルランド出身だったの。つまり、アルフレッドの義理の姉……キャスリーンの大叔母にあたるのかしら……あの子も賢い子だったけれど、私はあんな風に扱われるあの子に帰りなさいと言ったのよ……でも、残して息子の教育にと言うのも、辛いでしょ? 好きでもない男とイヤイヤ結婚して、生まれた子供は、うちのアルフレッドのように賢くて可愛い子なら兎も角、美形と思い込んでいるブッサイクな勘違い夫にそっくり。その上愛人は作るわ、金遣いは荒いわ……帰りなさいと言ったわ。後悔はないわね」


 アマーリエは冷静になったのか、息子を見る。


「お兄様は気がついているの?」

「いえ、アルフィナは何となく気づいているというか、実の父親や母親を思い出してしまうのか、不安がっているようです」


 アルフィナが調子を崩したのは、あの後である。

 伯父を一方的に責めたくないが、娘が心配である。


「あの……ところで、私達の屋敷の件ですが……」


 カーティスの言葉に、慌てて居住まいを正す。


「……ご覧になりたいのでしたら結構です。私の屋敷のものを奪うようなことがないなら。そして、ありもしない罪をなすりつけるようなことがないならば……」

「そうですね。俺も結構です。まぁ、武具や防具が多いのと広いだけですが」

「汚いですがどうぞ。まぁ、私の屋敷は、むやみに触ると爆発しますから注意して下さいと伝えて下さい」


 3人はあっさり許諾する。




 そして、翌日に、アマーリエから兄の元に、便りが届き、


『三つの屋敷の当主殿に許可を得ました。封印を解きますのでお入り下さい。解除の鍵はこの封書です。出ると閉ざされます。三つの屋敷分、三回出入りできます』


と書かれてあった。

 妹や、屋敷の当主達に感謝しながらアーティスは準備を始めたのだった。




 そして、エメルランドでは、


「……本当に情けないことです! お願いですわ! 私をあの国に!」

「何故だ? 救うのか? 息子を」


兄王の言葉に、王妹キャスリーンはオホホホホ……と笑う。


「あんな息子いりませんわ! 私、あの子を息子と思ってませんもの……産みたくて産んだわけでも、あの男を夫になんて思ってませんでしたもの!」


 冷たい言葉は息子の愚行、元……まだ離婚していないので夫である国王の行動に、腹を立てていた。

 そして、今度こそ離婚を申し立てて、許可を貰うのだ。

 それだけじゃない……。


「おい、キャス。一言言うが、お前はお転婆で王女らしくない王女で、年齢も黙っていれば……だが、アルフレッド殿が幾ら好きでも、元義理の姉弟だ。特にそう言う倫理観がしっかりとしたアマーリエ妃様は、キャスを可愛がっていてもアルフレッド殿の奥方にお前を選ばないだろう」


 兄の忠告に唇を噛み締めたキャスリーンは、涙を隠すように後ろを向き、


「分かっていますわ! あの結婚式の前日出迎えて下さったのは、夫ではなく、アマーリエさまとアルフレッド殿でしたもの……あの歓喜の後の絶望は……ではお兄様」


扇を広げ歩き始める。

 その背を見送り、


「あいつも本当に不幸だな……一目惚れしたのは年下の義弟。アマーリエ妃様はキャスを実の娘のように可愛がって下さったそうだが、この恋愛は許されないと諭された……でも、もう齢も重ねた。あの偽りの夫と縁を切り、幸せになって欲しいものだ」


と呟いたのだった。

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