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イザーク一家の引越しと再会

 イザークは屋敷を辞した後、自分の家に戻る。

 お腹に赤ん坊を抱えた妻のシシリアと、娘のセリアーナが心配そうに待っていた。


「貴方……お帰りなさい。今日は急に……」

「あぁ、宰相様の屋敷に、私的に伺ったんだ」


 今日は連休1日目だったのだが、呼び出された。

 最初は娘と図書館に行く約束があり行くのが嫌だったのだが、外交長官であるルーファスの命令というより、お願いだった為行ってきた。

 しかも……、


「シシリア、セリアーナ。お土産だ。お菓子を頂いた」

「お菓子?」


他に、一時金としてある程度のお金を頂いたのだが、これは黙っておく。


「あぁ。宰相様のお屋敷で、仕事の話があったんだ。その時に、これを下さってな」


 袋を開けると、見たこともないお菓子が入っていた。


「わぁ! 美味しそう!」

「食べていいぞ? 全部はダメだけどな」

「はーい! お母さん!」

「はいはい。じゃぁ、貴方お茶にしましょう」

「あぁ頼む」


 テーブルに向かい合って座ると、セリアーナが美味しそうなお菓子のどれを選ぼうか迷っているのを微笑ましく見て、帰る途中に行ってきたことを告げる。


「……仕事を辞める事にした。もう、伝えてきた」

「えっ……」


 目を丸くする二人に、苦笑する。


「大丈夫だ。露頭に迷うことはない。外交長官のルーファス様が、今、宰相閣下の屋敷に滞在しておられるんだが、そちらに勤めることになった。それに、通うのではなくて、家族で住んで欲しいともな」


 実は今住んでいる古い家は、冬には隙間風が入り、大雨の時には雨漏りもする。

 修復をしてはいるが、いつ壊れるかヒヤヒヤしていた。

 ありがたいことである。


「貴方……いつから引っ越しを?」

「あちらに伺ったら、早くて構わないそうだ。だが、近所にどこに引っ越すかは、余りはっきり言わないでくれとのことだ」

「まぁ……どんなお仕事ですの?」


 不安そうにシシリアが言うと、微笑む。


「俺は、宰相閣下ご家族の専門警護。セリアーナも勉強を教えて貰えるらしい。宰相閣下の屋敷には5歳と1歳の幼いお子様がいらっしゃるそうだ。聖女様……フェリシア様も静養されているそうで、余り信頼できない者は入れたくないが、何故かこの間見た俺を気に入ったとかで……な」

「まぁ! 貴方! 本当? 良かったわ……良かった。それに噂で聞いたけれど、フェリシア様も助かったとか……あ……」


 幼馴染みの夫婦を思い出す。

 しかし、涙を隠し、


「セリアーナ。お菓子を食べましょうね。そして明日、準備をしましょう」

「うん! パパ! ママ! 一緒に食べよう?」

「あぁ、そうだな」


イザークは娘にクッキーを食べさせながら、妻と微笑む。




 そして数日後には荷物をまとめ、迎えにきた馬車に乗って裏口からではあるのだが、広大なお屋敷に入っていった。


 すると、一介の従者になるはずのイザーク一家を待っていたのは、


「ようこそ……」

「……っ」


イザーク夫妻は目を見開く。

 泣きぼくろはないが、幼馴染みによく似た人物……。


「私は、バルナバーシュ。君達は、私に似た存在を覚えているのかな」

「あ、貴方は……アイツの……父親……?」

「いや、遠い親戚なんだ……会いにきたんだけれど……遅かった」


 唇を噛み、うなだれる青年に、嘘は感じない。

 悲しむ夫を支えるアマーリエは、イザーク夫妻を見る。


「イザーク殿、そしてシシリアさん、セリアーナ、ようこそ。私はアマーリエです」

「あ、アマーリエ様!」


 国王の血の繋がりのない義母であり、宰相アルフレッドの母。

 前王妃だった美女。

 その美しさは衰えることなく益々、美しいと言われている。


「良かったわ。貴方のお話は伺ったことがあるの。騎士団に入れる実力を持ちながら、その誘いを蹴って街の為に尽くしてこられた。来て頂けるなんて、本当に嬉しいわ」

「そ、そんな……私は……」

「大げさではないのよ。本当に、貴方のように強い意志を持つ騎士はこの王都に少なく、そして、こちらに滞在されているラインハルト卿も地方で必死に、私財を削っているの……何度も申し上げたのだけれど、陛下や……一部の者は、懐を温めるのに必死だから」


 ため息をつく。


「母上。折角の場所でそんな話を……。イザーク殿、そして奥方、お嬢さんもどうぞ」


 アルフレッドの言葉に、イザークは、


「申し訳ありません。宰相閣下。私は、こちらに雇われた身ですので……」

「仕事は一週間後からだから、その間は客人として滞在をしてくれるかな? ……って、こら! アルフィナ!」

「おとうしゃま! かくえんぼ! アユフィナ、おとうしゃまの後ろ、かくえゆの!」


ツインテールの、セリアーナよりも幼い少女が、アルフレッドに駆け寄りそのマントの中に潜り込む。


「すぐばれちゃうよ? アルフィナ?」

「やだぁ〜! ユールおにいしゃま来ても、アユフィナいにゃいの」

「お父さん、お客様案内するんだけど……」

「いちに、いちに、しゅゆの」


 可愛らしい親子の会話につい、イザーク夫妻は微笑む。


「仲がいいのですね。閣下……」

「アルフレッドで構わない。私は君をイザーク兄上と呼ぶから。こーら、アルフィナ。人の足の間をくぐらない。手が汚れるよ?」


 娘を抱き上げると、


「申し訳ない、兄上。この子が私の上の娘のアルフィナ。5歳。アルフィナ? このお兄さんが、今度お父さんやアルフィナの近くでいてくれるお兄さんとその奥さんと、お姉ちゃんだよ?」


3人に近づき、アルフィナの顔を見せる。

 赤銅色の髪とグリーンの瞳、そして……イザークの妹の面影がある。


「……セリナ……」


 イザークは呟き、シシリアは鼻と口を覆い、涙を流す。


 行方不明だったイザークの妹の遺児……遠目でしか見ることもできず、名前すら呼べなかった姪……。

 二人の死に打ちのめされていた時、棺をラインハルトとルーファスが、二人の棺を準備していたが、その後運び出されたそれの行方は解らず、その上姪もその痕跡すらなかったかのように居なくなって、二人は泣き続けた。

 しかし、5歳の割に小さいが、比較的元気そうで、


「おじしゃま、おばしゃまはじゅめましゅて。アユフィナでしゅ」

「はじめまして、アルフィナお嬢様」

「おじょーしゃま、ちあうの。アユフィナにゃの」


舌ったらずで幼い物言いが愛らしい。


「では、アルフィナ。おじさんはイザーク。アルフィナのお父さん達のお手伝いをするんだよ。よろしく」

「私はシシリアです。結婚前は王宮の下級女官でした。よろしくね」

「アルフィナちゃん! 私はセリアーナです。年は8歳です。よろしくね」

「イザークおじしゃま、シシリーおばしゃま、セリアーナおねえしゃま、お願いしましゅ!」


 その言葉に涙した夫婦はその後、屋敷……アルフィナの父アルフレッドに生涯仕えることになったのだった。

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