ラインハルトの妻とアルフィナ達の護衛
ラインハルトの妻アルベルティーヌは、荷物を送ったものの、定期的に夫と息子から送られる手紙と、アマーリエからのお礼状などでは心配になり、義理の両親に勧められるまま夫達のいるアルフレッドの屋敷に向かった。
毎回アマーリエやアルフレッドや、夫の姉のサリサから、どこからと思われる程様々な物が送られてくるのだが、今回はお礼も兼ねて先に荷物、そして自分も馬車で後を追うように走らせた。
そして、アルフレッドの屋敷に到着すると、ラインハルトが久しぶりに会う愛妻を幸せそうに出迎え、二人の息子達もその様子を見守っている。
すると、アルフレッドが手を引いていたまだ幼い女の子が、キラキラとした瞳をしていた。
「ルティ……大丈夫だったか?」
「貴方……お怪我などは? お姉様もシアちゃんも……」
夫に抱きしめられ、気恥ずかしげに囁く。
「ルシアンが調子が悪いが、フェリシアは今のところ様子見だ」
「ルシアン様が?」
夫の幼馴染の一人の、ルシアンのことは聞いていなかったアルベルティーヌは真っ青になる。
「大丈夫だ。一時意識不明だったが、持ち直したんだ」
「ルシアン様……本当に、大丈夫ですか?」
「あぁ、中で待っている」
「そう言えば、セシルとユールは」
ハッとしたように息子達の名前を呼んだ母に、ユールが、
「そう言えばまで、思い出してくれなかったのかよ。母上は」
と呟き、即、セシルが後ろ回し蹴りをかまし、背後の薔薇の生け垣に突っ込んだ。
「あら? ユールはいなかったかしら?」
「まだ来ていませんよ。母上。それよりもお元気でしたか? お祖父様やお祖母様も……」
セシルは母親似の顔で微笑む。
「私は大丈夫よ? それより……あら?」
「オラァァ! 腹黒兄貴! 何しやがんだ!」
薔薇の棘で傷だらけのユールは兄に近づくが、逆に懐に入り込んだセシルは、襟元を掴み投げ飛ばす。
パンパンと手を叩き、
「馬鹿弟め」
セシルは知っている。
もし、ユールの口を封じなかったら、自分も巻き添えにして、父の恐怖の特訓である。
それだけは遠慮したい。
「あらあら……二人共仲良しね」
「そんなことは……」
「それに、アルフレッドくん。お久しぶりです」
「姉上も。お元気そうで……」
微笑むアルフレッドは、ぼーっとアルベルティーヌを見上げている娘に気づく。
そして抱き上げると、
「姉上。紹介します。私の娘のアルフィナです。アルフィナ? ラインハルトおじさまの奥さん……セシルやユールのお母さんのアルベルティーヌ様だよ」
「あ、あゆべゆてぃーにゅしゃま……あ、あゆべゆ……」
必死に名前を呼ぼうとするアルフィナに、アルベルティーヌは微笑む。
「アルフィナね?初めまして。私のことは、ルティと呼んでね?」
「ゆ……ルティしゃま?」
「ルティお母さんが嬉しいわね」
「ルティお母しゃま……だいしゅきでしゅ!」
頬を赤くする少女に、あぁ、可愛いと思うアルベルティーヌ。
アルフレッドは娘を抱かせると、アルベルティーヌは額と頰にキスを降らせる。
「まぁ、本当に可愛いこと。どうしましょう。セシルかユールのお嫁さんになって欲しいわ……」
「姉上。アルフィナはまだ5ー歳ですよ」
「あぁ……本当に可愛い」
「姉上〜!」
夫にエスコートされ、そのままアルフィナを抱っこしたまま歩き出す。
アルベルティーヌは、スレンダーなサリサやフレアとは違い、グラマーである。
しかし、妖婉さより温かく母性に溢れた優しいオーラに満ちている。
そのまま案内され奥に向かうと、
「アルベルティーヌ。まぁ、いつのまに娘が生まれたの?」
サリサの軽口に、アルベルティーヌは微笑み、アルフィナの頰に頰を寄せる。
「そうなんですの。可愛い娘ですわ」
「うふふ、後ろでアルフレッドくんが御機嫌斜めよ」
「本当に可愛い……本当に残念ですわ」
アルフィナを名残惜しそうに返したアルベルティーヌに、アルフレッドは、
「姉上……えーと、アルフィナ。お父様がいない時には、ルティお母さんとサリサお母さん、フレアお母さん達と一緒にいようね」
「あい! ルティお母しゃま達といましゅ」
少し話は変わる。
ルーファスは、バルナバーシュに頼まれ、死刑執行人の監視をしていた男を呼んでいた。
がっしりとしてはいるが、粗野な印象は薄く、清潔そうな身なりで現れた。
礼儀正しいが、おもねるようなことはなく、自然体である。
ただ一つ、喪章がわりに二の腕に漆黒の布を巻いている。
「申し訳ない。本当は、アルフレッド殿下の屋敷ではあるのだが、急に呼び出してしまった」
「いえ、大丈夫です」
左胸を当てて頭を下げる。
「ところで、閣下、如何されましたでしょうか?」
「……お願いがあるのだが、聞いてもらえるかな?」
「死ねと言う願い以外でしたら、現国王の暗殺でも結構です」
物騒な一言に、ルーファスは苦笑する。
「やめなさい。それをすると君が死ぬ。それよりも、命をかけなくていいから、私兵になってしまうけれど引き抜きたいんだ」
「引き抜き?」
「あぁ。君の腕を買いたい。一人の少女、もしくは幼い姉妹の護衛を頼む」
「護衛……ですか?」
眉をひそめる。
すると、
「護衛してもらいたいのは、アルフレッド殿下の娘、アルフィナ皇女とアンネリ皇女。まだ5歳ともうすぐ1歳だ。君には妻子がいるのだろう?アンネリ皇女には乳母はいるのだが侍女がいない。君の奥方についていてもらえると助かる」
「アルフィナ皇女……」
「そうだよ。先日、元いたこの屋敷の侍女の家族に暴力を振るわれて、家族に乳母達しか怯えているんだ。護衛を置きたいとアルフレッド殿下が言っていたのを聞いて、騎士団長のラインハルト卿が君を推薦した。一応、この屋敷内に君たちの家族の部屋と、毎月の給金はこちらに提示する額を支払いたいとのことだ。どうだろう?」
差し出された紙に書かれた額に目を見開く。
今働いている一年分より、月額の方が多い!
「考えてもらえないか?君には子供は……」
「8歳になる娘がおります。大人しい子で読書好きです」
「ではその子にも、アルフィナ皇女と勉強もいいだろうね。どうかな?」
「……かしこまりました。もう、国に仕えるのは飽き飽きしておりました。どうぞよろしくお願いいたします。私は、イザーク・ヴァン・ブラークと申します」
青年は頭を下げた。
その後、彼は職場を退職し、こちらにきたのだが、ラインハルトとセシルの猛特訓に付き合わされるのだが、それは別の話である。




