愚者は己の愚かさを理解できない。
アルフィナは、ラインハルトのマントをツンツンと引き、長身の顔を見ようと背伸びをする。
「おじちゃま、あんにぇ?」
「どうした?」
長身のラインハルトは腰を屈める。
すると、手を差し出す。
「おじしゃま、高い高いして〜?」
「ん? 高い高いか? いいぞ〜」
長身のラインハルトは軽々と抱き上げ、くるくる回る。
「きゃぁぁ! くるくる〜! おじちゃま、たのしーね!」
「楽しいか?」
「うん! しょれに、おじちゃま、ニコニコ! うえしい!」
「えっ?」
「おじちゃま、ニコニコ〜! しょれに、おじちゃまの髪、キラキラ〜!」
ぽふんっと、ラインハルトの胸の中に抱きつくと、
「あにょね? アユフィナ、おとうしゃまもおばあしゃまもしゅきだけど、おじちゃまもセシルおにいしゃまもだいしゅき! おじちゃまのお目目は、んと、夜、ねんねの時間になる前のしょらみたいにょ。きえいにゃのよ?」
「……そっか、綺麗か……嬉しいな。ありがとう。アルフィナ」
「おじちゃま、ぎゅー!」
「あはは! アルフィナは本当に可愛いな。セシルの嫁に……」
「ライン兄さん……」
低い声でアルフレッドが近づくと、娘を奪い取る。
「まだあげません! 全く、アルフィナ? 駄目だよ? お父様と一緒にいようね?」
「おとうしゃま! だいしゅき!」
「お父様も大好きだよ!」
「親バカめ」
「兄上にもお返しします」
ラインハルトも、二人の息子を可愛がっていて、特に愛妻に瓜二つのセシルを、小さい頃ずっと連れ歩いていた位である。
「あ、そうだ。うちの親父と母上、それに嫁から荷物が送られてきたんだが……」
「伯父上と伯母上と姉上からですか?」
「あぁ、まぁ、特産品の織物とか種だな。そして、セシル達が昔読んでいた絵本だ。アルフィナに読んで欲しいと、後で届ける。アマーリエ様方のものもある」
「ありがとうございますと伝えて下さい……あ、手紙は送りますが……」
「あ、アユフィナも、あいがと〜ごじゃいます。しゅるのでしゅ!」
アルフィナは手をあげる。
「いい子だな〜。アルフィナ」
ほんわかしていたアルフレッドの屋敷とは違い、息子がいるはずの教会に行った国王は、ほぼ骨組みだけの建物の中に野ざらしにされている息子達を見て怒り狂う。
「アルフレッドか! それとも、バ……先代妃か! こんな風にしたのは!」
「父上! 助け……て」
口付けをする息子達に、
「ふ、ふしだらな! その女を引き離せ!」
怒り狂い命令するが、騎士達でも二人を引き剥がせない。
「女は斬り捨てて良い!」
その命令に、剣を振り上げた騎士の前に、王子が移動する。
「わぁぁ! やめろ! やめてくれ!」
「女を……どうして、殿下が……」
何度も繰り返すと、パルミラは、
「陛下。これは難しいですわ。まずは、殿下達を雨風にさらさないようにすることにしませんか? そして、王子達が解放されるように調べましょう、ね?」
「そ、そうだな。待っているのだぞ?」
言いながら、心を残し王宮に帰っていったのだった。
しかし当然、王子達を解放するすべはなく、国王は周囲に八つ当たりして、周囲の者は次第に嫌気がさしてくるのだった。




