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急転直下……と言うか、アホはアホだけにこれしかできない。

 アルフィナは去っていく大伯父を振り返り、


「父……」

「どうしたの?」

「にゃんでもにゃいでしゅ。おとうしゃま。抱っこ!」

「はいはい。アルフィナは可愛い〜!」


アルフレッドは抱きつく娘の頭を撫で、内心絶対にアルフィナを手放すものかと誓う。

 不安げなそして、困惑したように大伯父を見つめていた……しかも、小さいホクロの位置を見つける程見ていたのは……。


 伯父の実の孫……伯父が戯れに手を出した女性達の一人が、アルフィナの祖母だったのだろう。

 縁は異なもの……とも言う。




 そのまま、家族の部屋に行くと、イチャイチャとする両親と、諦めたのかアンネリを抱っこしているベルンハルド。


 アンネリも大きくなって、寝返りが打てるようになった。

 もうすぐズリズリと這いずったり、それからハイハイを始めるかもしれない。

 ベルンハルドは、姪から目が離せないと思っている。

 しかし、アンネリにも乳母にその子供達……つまり乳姉妹がおり、成長には彼らが助けてくれるだろう。


 それよりも、


「あ、兄上。それにアルフィナ。お帰りなさい」

「ただ今」

「にーちゃ! たらいまーの」


イチャイチャの両親も孫娘の前ではできないと慌てて、笑顔を作る。

 娘より年下の兄弟が生まれるかもなぁ……と思いつつ、アルフレッドはソファに座り、口を開いた。


「あの、父上、母上。お伺いしたいのですが、アルフィナは私の籍に入っていますが、ベルンハルドとアンネリの戸籍はどうなっていますか?」

「あっ!」


 ようやく思い出したような顔になる。


「駄目ですよ? 父上、母上。結婚適齢期のベルンハルドに、もうすぐ一歳のアンネリでしょう? 特にベルンハルドは、私の弟なんですから……ちゃんとうちの戸籍に入れて、身を固めて貰わなきゃ。アンネリは戸籍的には私の娘……アルフィナの妹にしておくべきかと」

「そうね……」

「あ、兄上! わ、私は兄上に買い被って貰える程の、勉強はしていませんよ?」

「大丈夫大丈夫。この間、寝込んでたルシアン兄上の溜まってた書類を、サッサとまとめたでしょ? 兄上が喜んでたよ」

「……くぬぬ……やっぱりあれは……」


 溜め込んでいた書類の整理を頼まれたが、速読を習得していたベルンハルドは、手はかかったものの全て采配し、面白がったカーティスも自らの行なっていることを教え始める。


「それだけベルンハルドの出来がいいんだよ。計算も早い、文字も読みやすい、それに解らないところは必ず聞いているでしょ?」

「『ホウレンソウ』って言いますよね? 報告、連絡、相談。それも最低限できないと、困りますよ」

「ほーら、秀才肌!」

「それが普通なんです!」

「うちの実兄……それすらできないけどね」


 アルフレッドは母と顔を見合わせて笑う。


「『ほうえんしょう』?」

「あぁ、えっとね? お仕事とかで、一緒に仕事している先輩に、『〜して戻りました。明日は次の書類から仕事をします』って報告する。『〜が届くのが夕方だそうです』って言うのが連絡。『〜がないのでどうしたらいいでしょうか?』って言うのが、相談だね」

「じゃあ、おとうしゃま。アユフィナ、明日しゃんしゅうべんきょーしましゅ!」

「算数? すごいね!」


 褒めると、嬉しそうである。


「じゃあ、アルフィナの筆記用具が必要だね。又買いに行こうか?」

「兄上。仕事をして下さい。父上や母上もしなくていいとは言いますが、ある程度私達の生活を出来るようにしておきましょう」

「ベルンハルド真面目だ〜! ねえ、お兄ちゃんやアルフィナと遊ぼうとか思わないの?」

「そ、そりゃ、遊びたいですよ! でも、私は兄上の弟として補佐として、勉強しなければ……」

「でもね?アルフィナの筆記用具と一緒に、アンネリのおもちゃ選ばない?そろそろつかまり立ちするしね?」


 兄の言葉に心が揺れる。

 実の兄は馬鹿だったが、アルフレッドは凛々しい上に優しく強く……尊敬した。

 大好きになった……そしてこの家族の一員になれて幸せだと思った。


「それに、ベルンハルドの身の回りのもの揃えたい! そう思いませんか? 母上?」

「そうね! ベルンハルドは旦那様に似て凛々しいし、装飾品もシャープなタイプがいいと思うの!」

「母上は……私を女の子の格好させましたよね……」

「オホホ! だって、男親に全く似てなかったんですもの。それとも似たかった? あの現在王の位にいるアホとそっくりよ?」

「それはご遠慮させて下さい。母上に似て、本当にありがたいと思っております」


 アルフレッドは正直に答える。

 兄と、自分を見なかった実父はそっくりで、甥も似ている。

 遺伝は恐ろしい。


と、話をしていると、ザワザワとし始める。


「申し訳ございません。主人方は忙しく、お会いできません」

「何を言う! 私は国王だぞ! あのババァとアルフレッドを出せ!」


 その言葉に、バルナバーシュは妻を抱きしめ、息子達もアルフィナとアンネリを抱きしめる。


「な、何と言うことを! 先代妃様……義理とはいえ、母上に!」

「母上はもう死んだ。あんなババァと一緒にするな! 母上は儚く美しい方だった。あいつは鬼婆だ!」


 その瞬間、扉が開き、バルナバーシュの手の中から何かが放たれた。


「グッ……うぅぅ?」

「クズが。口を開くな。品もないが、頭も空っぽが!」


 扉を開け、持っていたクッキーを口に投げ込んだらしい。

 まさにナイスコントロールである。


「私の妻に何を言った?」

「それに、貴様の母親は、浪費癖と浮気症のどこかの誰かにそっくりな女だったと思うがな?」


 カーティスは目を細める。


「お前の目は節穴だな。アマーリエ様は美しい方だ。それを見えないとは……」

「カーティス! 貴様!」


 手を伸ばそうとするのを、ラインハルトが振り払う。


「触るな! それに、アマーリエ様を侮蔑するなら帰れ!」

「貴様ら! 裏切ったか!」

「はぁ?私達は、お前に忠誠は誓ってないよ? 何、勘違いしてるの?」


 ルシアンはようやく歩けるようになったものの、杖をついての登場である。

 命を賭して術を使った代償は高くついた。

 ちなみに、まだ右半身が不自由である。


「それに私は、お前とその息子を許してないから。謝罪もない。フェリシアを殺そうとした。その上、何人もの命を奪った。お前を王として忠誠を誓うつもりはない」

「それに私達よりも、自分の愚かな息子のせいで、教会が廃墟と化したことを教会が怒っているんじゃねえの?」


 嗤うのはラインハルト。

 しかし、その姿にゾッとし、青ざめる。


「ば、化け物!」

「へぇへぇ……化け物ですか? この化け物が、隣国との境を守ってきた騎士団長だったんですよ? あんたがこの王都で金を散財している間に、私財を投じて国境の警備を充実させてきたんですが……金払って貰いましょうか?」

「そうですね。ラインハルト兄上。細かいものは後で構いません。大まかなものをまずは提出して下さい。お金は陛下が全て払って下さいますよ」

「何〜!」


 アルフレッドの嫌味に、国王は叫ぶ。

 すると、耳を押さえたアルフィナが、


「おとうしゃま、このおいちゃん、うゆしゃいかや、きやい! アンネリ、ねんねできにゃいでしゅ! しょれにおばあしゃまいじめて、アユフィナ、だいきやいでしゅ!」

「な、何だと!」

「おい、クソガキ! 孫は昼寝の時間だ! 騒ぐな! 今すぐ回れ右をして出て行け! 何なら、蹴り飛ばすぞ」


バルナバーシュは睨みつける。


「今はクッキーだったが、今度は熱湯にしようか?」


 ポットを受け取ったバルナバーシュは投げる仕草をすると真っ青になり、逃げ出した。

 その背中を見て、


「さすがはクズ。アホ王だね」


とバルナバーシュは呟いたのだった。

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