再会の挨拶に泣きぼくろ
馬車が到着し、姿を見せたのは枢機卿のアーティス。
そして、屋敷から姿を見せたのは、アマーリエとその夫、そして父親にそっくりな髪の青年。
「……アルフレッドは?」
「娘……久し振りにセシルやフェリシア達と、ピクニックですわ」
「アマーリエの孫を取るつもりないから、隠さないでくれない? 寂しいなぁ……」
「お兄様と私には、今ではもう、埋まりそうもない深い溝がありましてよ」
ツーンとそっぽを向く。
「だから、あの時は……」
「申し訳ないが、あの子は私の孫だ。こちらにいるベルンハルドは私の末の息子。アルフレッドの弟だ。私達6人、そしてフェリシア達も私達にとって家族。家族に手を出すようなら……」
バルナバーシュは、恐ろしい程美しい微笑みを浮かべる。
それは、年老いて頑固さが増した独裁者同然の父や、教皇の笑みよりも恐ろしいのは何故だろう。
「も、もう手は出さないよ! それよりも、聞きたいことがあるんだ。あの教会には馬鹿共しかいなかった! 神は存在の痕跡もなかった。で、神の力を探していたら、この屋敷から少し離れた、三つの屋敷のどこかに存在を感じたんだ。アマーリエは知らないか? 神が滞在しそうな場所は」
「三つの屋敷?」
「聞いたら、騎士団長の王都の屋敷、魔術師長の屋敷、外交官の……聖女フェリシアの実家の屋敷だと。だが、その屋敷の辺りから強い光を感じたんだ。だから、アマーリエなら知っているのではないかと思った」
「……で、その神の元に行ってどうするの?」
バルナバーシュは静かに問いかける。
「この国の混乱を、平穏に……」
「神が、そんなことを聞くと思うか? 逆に神は、試練という名目で残酷な仕打ちをする。お前の妹や甥、フェリシアがどんな目にあったか解らないのか? 私の息子も、私や孫も……お前が受けた仕打ちがどうとか、甘いと思わないのか?」
「なっ! か、神を……」
「祈りなど……飽きる程したものだ。漆黒の闇であったり、明るくとも辛いが、薄闇の中でどれ程望み、願い続けたか……絶望に苛まれたか……」
目を伏せるバルナバーシュに、どこかで見た面影が重なった。
アマーリエは、顔色が悪くなった夫の手を握る。
「貴方。大丈夫ですわ。私がおりますわ」
「ありがとう。アマーリエ」
「……お兄様。夫が調子が悪いの。もうやめて頂戴。ラインハルト殿に聞いてみて、返事を送るわ。今日は……許して欲しいの」
「……解った。失礼するよ。えと……貴方にどうか……妹や甥達をよろしくお願いします」
頭を下げ、アーティスは出ていった。
ゆっくりと歩いていると、甥が子供を抱いて歩いてくる。
「伯父上。今日は?」
「あ、アルフレッド! 違うよ? 教会のことを……あぁぁ! 違う、教国からじゃないよ? 気になったからで……居残って、お前達の邪魔はしてないよ!」
必死に訴える伯父に、苦笑する。
「分かってますよ。アルフィナ……アマーリエお祖母様のお兄さんで、アーティスおじいちゃんだよ。こんにちはって言おうね?」
父親にギュッと抱きついていたアルフィナは、振り返る。
「おじいちゃん? ……おばあしゃまのおねえしゃん?」
「違う違う。お兄ちゃん。どうしてそう思ったの?」
「……んっと、父と同じとこよに、ツンってあゆの」
アーティスの右目の下の泣きぼくろを示す。
「ん? 父?」
「えっ? 泣きぼくろ?」
「にゃきぼくよ?」
首を傾げるアルフィナの仕草が可愛いと、デレデレになる二人。
「えっと、そう言うんだよ。ホクロって言うんだけど。目の下にあるのを涙みたいだから泣きぼくろ。おんなじ位置だったのかな?」
「んっ。いしょー」
「へぇ……伯父上の変人な所は見ずに、ホクロに気づいたんだね……うちの娘は偉いなぁ」
「おとうしゃま、だいしゅき!」
「お父様も大好きだよ〜!」
アルフレッドは抱きしめる。
「アルフレッドに泣きぼくろはないよね? 何で……」
「あ、アルフィナ。伯父上……アーティスおじいちゃんには、一人で会ってはダメだよ? お父様やセシルお兄ちゃん達と、一緒じゃないとダメ、良いね?」
「あい!」
「あぁ、お利口」
デレデレの親子にため息をつくが、舌ったらずだがお父様とアルフレッドを呼ぶ幼児が、何故、父と呼ぶのか? 不思議に思いつつ、
「じゃぁ、私は。またね。アルフレッド、それにアルフィナ」
「バイバイ! お、おじいちゃん!」
手を振るアルフィナの笑顔に手を振り返し、帰っていった。
何故こんなに嬉しくなるのだろうと思いつつ……知ってしまったら、壊れてしまうと一瞬思ったのだった。




