アマーリエの幸せな日
今日はアマーリエとバルナバーシュの結婚式である。
朝からアマーリエは女性陣に取り囲まれ、清楚なドレスとベールと、アルフィナ達が朝摘んだブーケに微笑む。
成人した息子がいるとは思えない美貌の花嫁は、頰を赤くしている。
「本当に……こんなドレス恥ずかしいわ」
「アマーリエ様ですから似合うのですわ。本当に素敵!」
マーメイド風のドレスは、スタイルのいいアマーリエをより美しく見せる。
その横では、アルフィナも同じ布で、可愛らしいベールガール姿である。
ベールボーイは、少し年齢はいっているがケルトの弟のヨルムとユール。
こぢんまりとした結婚式である。
「おばあしゃま、きえい!」
「アルフィナも可愛いわよ」
「わーい!」
「アルフィナ。ダメだよ。ベールを綺麗に持っていくからね?」
ヨルムは怒ってはいないが注意する。
「あーい! ヨユムおにいしゃま」
「偉い偉い」
そしてこちらは、新郎のバルナバーシュ。
息子たちに服装を揃えて貰っている。
「何か……気恥ずかしいね」
「義父上……」
アルフレッドは微笑む。
「母をよろしくお願い致します。母は優しい人なので、自分のことより私達を優先して、自分の孤独を見せないのです。なので……」
「分かっているよ。それよりも……私は、お前とベルンハルドという自慢の息子を持てて幸せだ……これからもよろしく……」
二人の対照的な印象の息子達に微笑む。
ベルンハルドの腕には、今はぱっちりと目を開けて、ウニャウニャとお喋りをしているアンネリがいる。
「アンネリもご機嫌だね」
可愛い孫の頰をつつく。
「うきゃぁぁ!」
きゃっきゃと喜ぶ赤ん坊は、アルフィナと同じ布のベビードレスを着せている。
「じゃぁ行こうか」
会場は屋敷の庭……パーティ会場は色とりどりの花に飾られていた。
息子の手にひかれ、アマーリエはベールをかぶり、ティアラを乗せじゅうたんの上を歩いていく。
そして途中、バルナバーシュにその手を渡され、腕を組むと歩き出す。
庭の見晴らしのいい場所で、イーリアスが枢機卿の代わりに、瞳を潤ませ、
「バルナバーシュさま。どうか、奥様……姫様を」
と頭を下げる。
イーリアスとジョンの兄弟と、ミーナは元々サーパルティータから共についてきた、家族も同然なのだ。
「解ってるよ」
「今までありがとう。これからもよろしくね」
二人は微笑む。
丁寧に戸籍簿に記入して、周囲に見せると夫婦と認められ、その後、ジョンが差し出した冊子を二人で広げた。
そして、声を揃える。
「誓いの言葉」
初めて聞く言葉に立ち会う皆が驚く。
二人は顔を見合わせ微笑むと、続ける。
「本日、私達二人は、皆様の前でこの式を挙げられることを感謝し、ここに夫婦の誓いをいたします。
1、お互いの家族やここに集まってくれた皆様を大切にします。
1、いつも感謝の気持ちを忘れません。
1、笑顔の絶えない明るい家庭を築きます。
1、困難な時には二人だけでなく、アルフレッドやベルンハルドと相談し力を合わせて乗り越えます。
1、どんな時にもお互いを信じ支えあいます。
1、ケンカをしても次の日には仲直りします。
これらの誓いを心に刻み、これらは夫婦として力を合わせて新しい家庭を築いていくことをここに誓います。
聖暦1579年6月29日 新郎 バルナバーシュ 新婦 アマーリエ」
その誓いの言葉を知らなかった全員は目を見開き、そして、
「おじいしゃま、おばあしゃま。おめでとうにゃの〜!」
フェリシアの姉たちに渡された花吹雪をエイっと投げるが、近づけないので、ラインハルトが抱き上げ、そして二人に近づくと、
「アルフィナ。お祖母様に投げるんじゃなくて、ベールの上に降らせてあげような?」
「あい!」
「ちょっと待った!」
カーティスが止める。
「誓いの言葉の後の儀式を飛ばしてるぞ! ラインハルト!」
「あ、そうだった。アルフィナ。また後でしような? アルフィナのお目目はかくれんぼだ」
ラインハルトは目を隠すと、バルナバーシュは花嫁のベールをそっと取り、アマーリエの唇にそっと口付けた。
「おめでとう!」
「おめでとうございます!」
「お二人共お幸せに!」
それぞれの声に、
「息子達と孫がいるからね。でも本当に嬉しいよ」
花びらを浴びながら微笑むバルナバーシュに、アンネリとアルフィナの頰にキスをしたアマーリエは、二人の息子をそれぞれ抱きしめると、
「ありがとう、二人共。愛してるわ!」
と声をかけて微笑む。
瞳は潤んでいるが、幸せそうに微笑む母に、
「私も愛してます。母上。そして父上、ベルンハルド、これからよろしくお願いします」
「わ、私も、母上が私の母上だと思っています。どうか父をよろしくお願い致します。それに、アンネリを可愛がって下さってありがとうございます!えと、母上、あ、愛しています、大好きです」
「……私達の息子は本当に自慢の息子達ですわね。貴方?」
「私が嫉妬してしまう程、できた息子達だからね……私も、君に並んでも遜色がないように努力しよう」
バルナバーシュは涙をすするように、目尻に口付けたのだった。
この式は家族だけではあったが、本当に美しく素晴らしいものだったと、庭の外から覗いていた人々が感動したと言う。




