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神を探す……アーティス

 私には一時の遊びと言うか、その時の愛だけだった……しかし、彼女には命を生み出し育てて、代々の職務を多分全うしたのだろう……。

 残酷な命令を聞くしかない一族。

 産んだ息子の手を血で染める程……苦しいものはない。

 それでも、そう生まれた一族のさがを、アーティスはある程度理解していた。


 自分は本来王子で、枢機卿にならなければ他の兄弟のように他の国に婿となって、諜報員同然となり、情報を父や王太子の兄に送り続けることになっていた。

 ある程度賢い者だけである。

 賢く立ち回れないなら、自国の跡取りのいない貴族の元に養子に入るか、娘しかいない家に婿に入るかである。

 王女の場合も同じで、他国に嫁、もしくは自国の高位貴族の嫁になる。

 恋愛結婚などご法度である。


 ただ、アーティスは妹同様癒しではないが、祈ることで聖女程ではないが雷を落とすことができた。

 ただそれだけだ。

 国王である父の力と国の力と、そつのない言葉と自分の周囲の情報を漏らさないようにしているだけである。




 腹痛が落ち着き、今日は食事を控えると告げると執事達に用意して貰った宿屋の一室に篭り、声を殺して涙を流した。

 自分の生き方がどんなに甘ったれていたか……そして、失ったものの大きさ……。


「……っ……!」


 ベッドを殴りつけ、泣き続ける。


「神は……何故……愚かな私や、傲慢で未だに罰の意味を理解しない、この国の王や王子、この地の枢機卿を生かし、代わりに誠実で優しく真面目な彼らを、救って下さらなかったのか……! 不敬だとわかっていても! それでも……」


 神に聞きたかった……。


 見たことのない我が子とその母……その一族を地獄に叩き落とすような……。

 神は、民を平等に愛するのではないのか……。

 神とはなんだ……。

 神は……。




 ハッとする。


「この国の教会には神がいなかった。ではこの国を神は見捨てたのか? いや、見捨てたのなら、聖女フェリシアやあの幼い聖女はいないはず。でも、いると言うことは、神はこの国を見守っている……」


 身体を起こす。


「神を探そう。この国には神がいる。そして神に祈ろう……この国の繁栄を」


 涙をぬぐい、ベルを鳴らすと、姿を見せた執事と側近がハッとした顔をするが、


「あぁ……あの教会の様子が衝撃でね……」


 苦笑する。

 涙をもう一度拭こうとするが、執事が慌ててタオルを取り出す。


「ありがとう……申し訳ないけれど、明日からこの国の中を移動しようと思っている。しばらく、この国に滞在することを教皇猊下に伝えて貰えないだろうか?」

「枢機卿。それはどんな理由で?」


 側近の修道士の問いかけに、


「あの教会には神がいなかった。でも、この国は崩壊していなかった……まぁ、国王の後継者問題は除いてだけれど……もしかしたら、神は別の場所に留まられているのかもしれない。神を探してみたいと思う」

「神をですか!」

「この国に教会がないとなると、神が滞在される場所がないことになる。その場所を探して、神に伺ってみたいと思っている」

「それは、アマーリエ妃にお伺いされては……」

「いや、自分で探してみたいんだ。アマーリエには言わないで欲しい。もう休むよ。お前達も休んで欲しい」


 着替えを手伝って貰い、夜着に着替えると、そのまま横になった。




 明日から、神を探そう……そして、恋人と子供の冥福を……。

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