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神のいない教会……アーティス

 アーティスは、出る時に解毒剤という丸い飴を貰い、何とかフラフラと馬車に乗り、教会に向かう。


 本当は妹の屋敷にいるつもりだったが、自分より力のあるバルナバーシュという妹の婚約者に相対したくないと言うのが事実であり、妹を泣かせ、その上幼い聖女に嫌いと言われた時、自分が穢れているような気がした。


 自分は元々正妻腹の王子で、王位に近かったのだが、妹のアマーリエ程ではないもののある程度力があった為、小さい頃からアソシアシオン教国に送られた。

 嫌だと言っても、それはひるがえされることはなく、聖書を読み、式典、祭典、神の声を聞くふりをする練習から始まり、成人をすれば、自国や異国、そして、教国の女性の初夜権を行使することになり、何人もの女性と関係を結んだ。

 それが教会の当たり前のことだった。


 初夜権しょやけんというのは、一部の地域で、住んでいる女性が結婚する時に、夫よりも先に第三者と行為を行い処女であることを認めて貰う……それを行うのが地域の領主や教会の枢機卿などだったりする。

 これは、中世ヨーロッパなどでも行われていたという記録がある。

 ちなみに夫婦がそれを拒むと多額のお金を払わされるか、食料を収めなければならなかった。


 その為、こちらが行われ、アーティスはそれが当たり前だと思い、そしてその中から気に入った新婦を愛人とした。

 基本、教会では結婚はできないし、異性と関係を持ってはいけない為、愛人は夫の元におり、呼び出しては関係を続けたこともある。

 しかし身分違いや、飽きた時にはあっさりと捨てた。

 それが、元王族のアーティスには当たり前だったのだ。

 生まれた子供は一応自分の子供かもしれないが、枢機卿という立場もあり、父や兄弟の子供として預けた。




 そう言えば、アマーリエが嫁いだ時にここに来ていたが、ある女性がしばらくアーティスに侍った。

 彼女は赤銅色の髪と、エメラルドの瞳……たいそう美しい顔立ちだったが、名前を聞かなかった。

 アマーリエのひと通りの挙式や儀式を終えた後、別れた。

 だが、後日男の子が生まれたと聞いた。

 その子供は多分、アルフレッドとさほど変わらない年だが、探すこともできないだろう……あの見事な赤銅色はそう滅多に生まれない……きっと……。


 馬車の中で飴を口にすると、嘔吐と腹下しが襲っていたがすぐに楽になった。

 そしてしばらくして、何度か会議の時に出向いた教会を見て唖然とした。


「……執事。これは本当にあの、教会なのか?建物は荒れ果て、庭も草木が枯れている」

「こちらがこの国の教会でございます。枢機卿様」


 入り口で降りたアーティスはボロボロの花壇、花の手入れもせず、水も撒いていないとわかる。

 そして、小川が干からび、橋を渡ると、建物の板が剥がされ、骨組みだけの建物になってしまっている。


「ど、どういうことだい? これは……」


 二階の床板を剥がしていた男は、


「あぁ、この板は俺たちの家の為の板なんだ。悪いが、取らないでくれよ」

「ここは、教会では……」

「呪われた教会だよ。あんた知らねえのか? ここは、聖女フェリシア様を殺した王子とその恋人が結婚式で天罰が下り、ほらそこで永遠に口づけをする罪を繰り返してるんだ。そんで、そっちのおっさんは枢機卿で、金や女や博打で色々やっててさぁぁ、罪を受けたんだよ。ザマァだよな、あはは!」


 バールで剥がしながら、その先で、示すのは雨風にさらされたひと組のカップルとその側で、膝をついている枢機卿。

 しかも枢機卿は教会の金を使って、貸金業を行なっていたらしく、彼の口に借用書を挟み、手に握らせ、凄まじい姿になっている。


「だ、誰か! 私を助けてくれ! この国の王子だ! 助けてくれたら、父が金をくれるだろう! 父の後を継ぐ私も、お前に地位を!」

「うるっさいな! このクズが! 俺はある女を探しているんだよ! おい、赤銅色の髪とエメラルドの瞳の美しい、私前後の女性はいないか? 赤銅色は珍しい! もしくは、まだ三十路にならない青年は知らないか?」


 アーティスは声をかける。

 すると、


「先代の処刑執行人がその姿だ。珍しい赤銅色の髪と濃い瞳だった。でも残念だったな」


苦悩に満ちた顔で、一人の下級警備職の男は答える。


「その男は、聖女フェリシア様を殺した罪の重みに耐えきれず、妻と命を断ち、今は新しい処刑執行人がいる……」

「そ、んな……」


 ただ、体の関係だった……しかし、彼女を忘れられず、時々妹の元に来るついでに探していたのだ。

 彼女との間の子供は……死んでしまったというのか……。


「その青年の名前は! その子の名前は?」

「ねぇよ。処刑執行人はNo.か、性別で呼ばれるんだ。墓もねぇ。いなかったことにされるんだ。それを決めたのはあんた達教会と、この国の王の先祖だろ?あんた達が決めたことの癖に良く言えるもんだ」

「……っ!」


 衝撃を受ける。

 自分達は……どれ程の傲慢さを持って、弱者を虐げてきたのだろう。

 お金より、もっと大切なものがあったというのに……。


 妹に拒絶され、子供とその母を失いそれで益々……孤独感が増した。


 力が抜けたように座り込む。

 そして、祈るように神のいない像に頭を下げた。


「私は……穢れている……教会もそうだ。聖女フェリシアだけでなく、アマーリエにも死なせた子供達にも謝らなければならない。そして、神に罪を告白しよう。それでこの男達のようになっても仕方がない。それだけのことをしてきたのだから……」

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