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悪党の無駄なあがきと幼い少女と鮮やかな飴

 騎士団長ラインハルトとその部下達が、花嫁の親族やその取り巻きを捕らえ、引きずっていく。

 行き先は当然、王宮である。


「なっ! 何をするんだ! 私は王太子妃の親族! 我らを戒めるなど!」

「罪人を戒めて、何が悪い!」

「私達が罪人だと言うのか! 貴様! ただの騎士の癖に!」


 騎士団長ラインハルトと魔術師長ルシアン、宰相のアルフレッドの一族は、フェリシアの父の外交官のカーティス一族よりも世代は違うが、それぞれ王族の血を引く公爵家である。

 貧乏男爵がタメ口を聞くのですら、本来、問答無用で手打ちでも許される。

 それすら分からない……流石はあの愚かな王子の選んだ花嫁を育てた家である。


「たかが騎士? ……一代男爵の身分で、よくも父や我々にそのような口が聞けるな? 身分制度の意味が分からないと見える」


 せせら笑うのは長男のセシル。

 ラインハルトは、


「分からんから、娘に王子を色仕掛けで落とせと軽々しく命じられたんだろう。元々こいつは自分ではなく叔父が功績を残し、子供のいなかった彼の養子として爵位を得た、元は放蕩し放題、軍務にも出ず、家を追い出された馬鹿だ。この男の実兄は砦の一つを任せられる隊長に抜擢され、次は功績が認められ一代ではなく、領地と子爵位を与えられると言うのに、賢兄愚弟と言う言葉そのものだな」

「なっ! 我らを侮辱するとは、王太子をひいては国王陛下を侮辱すること!」

「では、国王陛下の従弟の娘を陥れて、我らの意見を聞かず、ギロチンで殺すなど、公爵家の令嬢に対して行うべきではない。それも分からないのか!お前達も同じようにされたいか!」


威厳を持った声で言い放つ。


「貴族の死には、自害か毒を与えること。民衆の面前でギロチンで殺すなど認められていない! それこそ屈辱でしかないのだ! それを促したのが、お前の娘だと分かっている! 男爵家の娘が、王族の血を引く公爵家の令嬢によくも言えたものだ!」

「さ、差別だ!」

「それは差別と言えない! 我らはこの国の為に忠義を尽くし、戦場に立ち、フェリシアの一族は外交官として他国との交渉を続けていた。魔術師長の一族は魔術を国の為にと魔術専門書を製作した。宰相の一族は代々王立アカデミーの学長として、貴族や賢い子女の教育に力を入れている。あぁ、そうだろうな。国の為に尽くした父上達と、ただ財産を食い尽くすのみのゴミと一緒にするな!」


 セシルは言い放つ。


 弟のユールは父に似てがっしりしているが、セシルは母に似た柔和な顔立ちで貴公子のような雰囲気だが、実際は父も手に負えないほど苛烈な性格をしている。

 弟の幼馴染のフェリシアとケルトは妹や弟のように思っていて、二人を失ったショックと怒りで、本性が現れている。


「黙ってついてこい! 文句は言わせない」

「何だと! 私達は悪くない!」

「フェリシアを死に追いやった者が、自分の保身とはな」


 セシルは汚いものを見るような目で吐き捨てる。


「セシル。私は先行する。後は頼む」

「はい」


 頷く。

 先を急ぐ父を見送ったのだった。




 馬車で先に到着した宰相のアルフレッドは、毛布で包んだアルフィナを抱いたガイと共に、自らの執務室の横にある居間に向かう。

 城内では重苦しい雰囲気があり、優しく賢いフェリシアの死に、錯乱したのか分からない王子の暴挙に戸惑っている。

 問いかけてくる、結婚式に行かず中立を宣言するが、本当は迷惑を被るのが嫌な貴族たちは国王にすり寄っていたらしく、アルフレッドを見て近づいてくる。


「どうでしたか? 宰相閣下」

「……今日の式について知りたければ、私に聞かずとも自ら教会に向かえば良い。私は疲れているんだ。休ませてくれないか」


 眉間に深いしわを寄せたアルフレッドは、追い払うように手を振る。

 そして自室に入ると、上に羽織っていた正装を脱ぎ捨て、自分用の一人掛けソファに座り込む。

 ガイはアルフィナをその隣のソファに座らせ、主人の服を拾いかけると、ノックの音が響く。


「うるさい者は入れるな」

「分かっております」


 ガイは扉に向かう。


「あ、あの……お、お、お父しゃま」

「あ、なぁに?アルフィナ」


 たどたどしく『お父様』と呼ばれ、一気に機嫌が良くなる。

 ちなみに『お父様』と呼んであげてくれと囁いたのは、この部屋までアルフィナを抱いていたガイである。


「あの、お父しゃま。だ、大丈夫で、しゅか? お疲れでは……ない、でしゅか?」

「そうだね……友人親子の安否に、フェリシアのことはショックだね。でも……あぁ、そうだ」


 すぐ近くの引き出しから取り出したのは、キャンディの瓶である。


「アルフィナ。これを食べよう。疲れた時には甘いものがいいと言われて置いているんだ。お父様は沢山食べられないし、一緒に食べて欲しいな」


 瓶のキャップを開けるとピンク、イエロー、オレンジ、グリーン、ホワイトの飴が一つ一つ包まれていた。


「わぁぁ……綺麗! えと、ほ、本当に……」


 飴は、高級なお菓子である。

 黒い飴はあったが、色付きの飴は小さい一個でも高かった。

 しかも、沢山入った瓶入り。

 何度も買い物に行った時に前を通った高級なお菓子のお店の窓際に、キラキラしたそのキャンディの瓶が飾られていた。

 値札にびっくりした位である。

 そんなものを貰っていいのだろうか……。


「全部食べてもいいって言いたいけど、今日は一個ね。何色かな? ピンクにしよう」


 包まれたキャンディをアルフィナに手渡す。


「わぁぁ……お父しゃま! ありがとうございましゅ! 大事に……」

「今食べようね? じゃないと、毎日溜まっちゃうからね」

「ま、毎日下さるのでしゅか?」

「そうだね、約束するよ。毎日飴を一個ずつ必ずあげる」


 アルフィナは受け取った飴の包みをゆっくりと外し、そして甘そうなトロッとした色の飴を口に含んだ。


「……あ、甘〜い! 丘で採れるベリーの味に似てましゅ!」

「あぁ、よく分かるね。これはベリーの味の飴だよ。作り方はよく知らないけれど、とても美味しいでしょ。お父様もこの味が好きなんだよ」

「旦那様、お嬢様。邸から参りました」


 扉から入ってきたのは、三人の女性と一人の男性。

 それぞれ荷物を持っている。


「あぁ、よく来たね。アルフィナ。紹介するよ。アルフィナの乳母のミーナ。その夫のジョン、二人はエリとリリ、アルフィナ付きの侍女だよ」

「お嬢様、ミーナでございます。こちらは夫のジョン、エリとリリはお嬢様付きの者です。何でもおっしゃって下さいませね」

「えっ……お、お父しゃま……」

「ミーナとジョンはガイの両親でね。私の小さい時の養育係だよ」


 ぴょこんと飛び上がるようにして、立ち上がった痩せた少女が、


「は、初めましゅて、ミーナしゃま、ジョンしゃま、エリしゃま、リリしゃま。私はアルフィナと言いましゅ。どうぞよろしくお願い致しましゅ」


とぎこちなく頭を下げる。

 その様子にミーナは、


「旦那様! 私ども、お嬢様のお着替えをさせて頂きますわね」

「よろしくね。アルフィナ。言うことを聞いて着替えておいで」


四人に連れられていくアルフィナを見送ったのだった。




 扉が閉ざされ、隣室の休憩室と奥には簡単なお風呂がある為、そちらに行ったらしいと確認したアルフレッドは、


「門の辺りが騒々しいが……」

「はい、騎士団長閣下は先に到着致しましたが、御令息……ご長男のセシル様が罪人を集めてきたそうです」

「あぁ、あの。それにこの王宮には獅子身中しししんちゅうの虫がそこら中に……先祖が見たら、嘆くだろうな……」


紅茶がテーブルに置くガイに、


「ありがとう。虫を徹底的に排除する……それが虫に食い尽くされ、虫の息の国王であっても同じ」


と言い切った。


「これは……フェリシアの死を止められなかった私達の償い……冤罪で殺される者がなくなるように。アルフィナのように、家族を奪われることがなくなるように……」


 アルフィナは自分の子……自分が守るのだと改めて誓ったのだった。

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