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枢機卿と元聖女のはずの毒舌兄妹

 婚約指輪を選び、そして、パーティの準備をしていたアマーリエ一家の元に、客が来たとイーリアスが困惑した様子で姿を見せる。


「アマーリエ様。大旦那様……お客様にございます」

「まぁ……どなた? あ、セシル殿、アルフィナをどうぞよろしくね? フェリシア達のところに連れて行ってあげてね?」

「はい。行って参ります。アルフィナ、行こうね? 確か、この前貰ったぬいぐるみと遊ぼうね?」

「あい、いってきましゅ」


 少しずつ練習をして、最近綺麗にお辞儀ができるようになったアルフィナに、バルナバーシュは微笑む。


「アルフィナは、本当に日に日に淑女になっていくね。お祖父様はさみしいな……」

「おじいしゃま、だいしゅきでしゅ。行ってきましゅ」


 セシルとアルフィナを見送ると、然程時間も立たずに案内されてきたのは、


「まぁまぁ……腹黒兄上、お久しぶりですわ。枢機卿よりも、その悪どい性格でもっと色々お似合いのお仕事がありましたでしょうに……」


 オホホホ……


扇を広げ笑うアマーリエに、アーティスは、


「おやおや、元聖女の可愛い妹が、兄にそんなことを言うようになったんだね……歳をとるのは悲しいものだね」

「うふふ……枢機卿の癖に愛人がいて、子供と孫もいる色ボケジジイが……」

「あはは……一応、正式には父上や兄上、弟の庶子となっているよ」

「まぁ、何人いらっしゃるの? お兄様の子供、前は7人はいらしたわよね? いい歳をして又新しい愛人でも見つけたの? 嫌だわ、母国の枢機卿がエロジジイ! それよりも知っていて? お兄様。この国の枢機卿は身分と金と女好き……だから、この国の枢機卿は神の怒りを買ってしまったそうなのよ。アソシアシオン教皇も、あのフェリシアをすぐに助けなかった……それを問いただしたいものですわね」


痛烈な妹の一言に黙り込む。


「そ、それは……一応こちら側からすると、この国の枢機卿が教国に伝えてなかったんだ」

「あら? でも一月も、あの子は閉じ込められていたのですよ? 私共が何とか枢機卿だけではダメだと、異国に使いを送っても、返事がありませんでしたわ。フェリシアも私達も日に日に追い詰められ、苦悩する日々を送ってきたのですわ! それなのにお兄様は手紙を送っても返事を下さらなかった! 私達とフェリシアの家族の絶望分かりまして? お兄様も、お父様達も神の怒りを受けるべきですわね!」


 妹がきっと何か言ってくると解っていたが、このように怒りと悲しみ、逆恨みを一気に受けるとは思わなかった。


「えっと……」

「言い訳など結構です。それに、今更来られても迷惑ですわ! お帰り下さいな。もうお会いしたくありませんの」


 そっけないと言うよりも、嫌悪感を露わにした妹に、


「えっと、お前が再婚をすると聞いたのだが……そ、それに聖女フェリシアが婚約したと……」

「……」


プイッとそっぽを向いたアマーリエは、ベランダに出て行く。


「伯父上……申し訳ありませんが、お帰り頂けませんか? 母はフェリシアを本当の娘のように思っています。それなのに伯父上からも、アソシアシオンからもサーパルティータやエメルランドからも何も返答がなく、本当に痩せてしまう程嘆いたのです。今更来られても、母だけでなく、私やルーファス兄上、ラインハルト兄上達は不信感しか覚えないのです」


 甥のアルフレッドの、躊躇いがちだがきっぱりとした一言に黙り込む。

 様子見を決めたのは教皇……自分達は従っただけ、しかし後味の悪い事件だった。


「それに、伯父上……知っておられますか? この国の正教会には枢機卿はおりますが、神はおられません。神はお怒りで、ここにはいられないと」

「えっ……」

「それに、正教会の修道士、修道女、神父達は統制が取れておらず、先日、敬虔な信者だった我が屋敷の侍女に命令し、突然この屋敷に現れ、使者も、連絡も無くこの辺りまで入ってきたのです。そして、このイーリアスの部屋や庭などを荒らし回り、本当に、アソシアシオン教会を訴えようかと思っているところです」

「そ、そんなことが!」

「はい、フェリシアを連れ出そうとしていました。私は、フェリシアの体調が落ち着くまで、こちらで静養をと勧めただけなのです。それなのに、私がフェリシアを監禁していると」


 アルフレッドは元々おっとりとした、ニコニコと伯父に笑う少年だったのだが、母に似たのか芯の強い青年に成長したらしい。


「ですから……母を怒らないで下さい。私も力が足りず、妹のように思っていたフェリシアの命が目の前で失われた時の衝撃は……」


 思い出したのか、俯き片手で顔を覆う。

 すると、パタパタと足音が響く。


「おとうしゃま! アユフィナのおとうしゃまを、いじめちゃめーなの!」


 ちょこちょこと走ってきた幼い少女は、アルフレッドに抱きつくと、


「おとうしゃま、いい子いい子にゃの」

「アルフィナ! どうして戻ってきたの? セシルと遊びに行っておいでって……」

「おばあしゃまが、えんえん……してたにょ……おとうしゃまもいじめやえた? アユフィナが、いじわゆなひちょに、めーいうにょ!」


たどたどしい口調だが、少女の体から、アーティスは見たこともない色のオーラが広がるのを感じた。

 白やピンク系統は癒し系……体力や術力回復だが、今、少女から大きく広がるのは淡いブルー……つまり……。


「その子供が、新しい聖女……」

「違います! 私の娘です!」

「何をいう! そのオーラの大きさは、前に見た聖女フェリシアよりも大きく、色は珍しい! そのオーラの元を調べて、聖女として教育させなければ! お前はその力の意味は分かっているのか! 聖女を独占することの意味を!」

「聖女聖女と、五月蝿いです! 伯父上!」


声を荒らげるアルフレッドに驚く。

 アルフレッドは娘をぎゅっと抱きしめる。


「この子は私の娘です! 聖女じゃない! これ以上幼い私の子を取り上げるとか、実験道具のように見るのなら……」

「……アマーリエの兄だからと黙って聞いていたが、自分勝手な男だな。その上教会を理由にして、妹の家族を壊すのか?」

「なっ……」


 今まで静かに見守っていたバルナバーシュは立ち上がると、一歩二歩と近づく。


「昔から教会というのは俗物どもの集まりと分かっていたが、生涯独身の枢機卿に愛人に子供孫とはな、さすがはクズ集団だ」

「なっ! 何を!」

「枢機卿が色欲に溺れ、そのものが教会の説法で、色欲こそ重き罪なりとよくも言えたものだ。もう二度と顔を見せるな! アマーリエとアルフレッド達子供や孫は私が守る」

「何を! 神の裁き!」


 得意の雷攻撃を声にしたが、代わりに、


「光の階段……聖女の怒り」


と返され、光の束の目くらましと、アーティスの口の中に紫の飴を投げ込む。

 ついでに口から吐かぬように、押さえ込まれている。

 口の中に広がる激痛に倒れ伏し、呻き声をあげる。


「あ、が……こ、れは……」

「早く解毒剤を飲まないと三日三晩苦しむよ。で、もう二度とこないで欲しいね。イーリアス。この客追い出して」

「はっ」


 バルナバーシュは冷たい目で、婚約者の兄を見送ると、アルフレッドとアルフィナの頭を撫で、


「アマーリエのところに行ってくるよ」


と囁き出て行ったのだった。

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