婚約ほぼ決定
この一件で、アルフィナの周辺の警護を増やすことと、その警護には宗教に熱心すぎない存在をと、アルフレッドは母アマーリエとイーリアス達と話し合う。
まず、フェリシアとケルトの婚約を発表し、結婚を急がせることにした。
一応、公爵家などの高位貴族の婚姻は、婚約発表をして、短くとも約一年後に結婚であり、17、18歳の二人は丁度いい年頃になる。
フェリシアはニコニコと嬉しそうだが、ケルトは頬を赤くしてギクシャクとした怪しい動きをしている。
「あの、何で私がこんな格好を……」
「だって、ケルト、最近服をあつらえてないって、フレア姉上が嘆いてたから」
「そうなの! アルフレッド君、それにアマーリエ様! ありがとうございます! うちの子に似合うか分かりませんでしたが、本当に嫌味のない上品なバカ息子になりましたわ〜!」
「そこでバカがつくところが、フレアね」
コロコロと笑うアマーリエ。
フレアはため息をつきながら、
「黒いフードのついたマントを被った夫と息子が家の中でウロウロと、辛気くさいと思いませんか? もう、情けないというか、結婚もできないと思ってましたもの……しかも可愛いフェリシアちゃんを嫁! 嬉しいですわ!」
男ばかりでむさ苦しいと嘆いていただけあって、息子の嫁が嬉しくて仕方がないらしい。
ケルトの今日の衣装は、普段着ている漆黒ではなく、ダークブルーの生地に、シルバー系の装飾、髪を纏める飾りには恋人の瞳と同じブルーサファイアである。
こちらは、専門の仕立て職人に頼んでいる。
そして、フェリシアは柔らかいパステルピンクのドレスで、飾りはシンプルな揺れるブルーサファイアのピアスと髪は編み込み、生花が飾られている。
それが益々、フェリシアの愛らしさを増している。
だが、嬉しそうに笑顔で見上げるフェリシアに、照れくさそうに頬を赤くして肩を抱くケルトの視線は優しく、愛おしげでお似合いの二人である。
そして、父に抱っこして貰いながら、あむあむとサンドイッチを食べているのはアルフィナである。
今日は婚約発表とアフタヌーンティーを兼ねており、テーブルには3段重ねのティースタンドが置かれている。
「おとうしゃま、おいしーれしゅ」
「ジャムが美味しいからね。このジャムはここの料理長のお手製だからね。ん? あれ? きゅうりのサンドイッチは食べてないの?」
ジャムのサンドイッチを食べているアルフィナは、その前はスコーンにジャムとクロテッドクリームをたっぷりつけて貰い食べていたのだが、定番のきゅうりの挟んだサンドイッチに手を伸ばさない。
まぁ、無理に食べなくてもいいのだが、なぜか気になったのだった。
「……んと……ごあんにゃかった時、こりぇ、食べたでしゅ……エグエグしましゅ。シャクシャク……じぇも、んっと、くしゃい……」
「臭い……」
「多分、生臭いんだと思います。サンドイッチにする時にも、薄く切ったり味をつけたりしていますが、そのまま食べたんでしょう。きゅうりは完熟していないので青臭いんです。一本食べるというのも、アルフィナには辛かったんだと思います」
ベルンハルドは説明する。
「あぁ……そうだね。アルフィナには辛いね。じゃぁ、他のケーキとか食べようね」
4歳のアルフィナは、まだ幼くちゃんとマナーが出来ず、綺麗にご飯を食べられないので、父か祖母、もしくはバルナバーシュが食べさせるのだが、ムグムグと食べている姿は可愛く、ついつい与えすぎてしまう。
しかし少食のアルフィナは食べきれないのに、皆に貰ったからと無理に食べてしまい、後で腹痛で泣き出すことも多かった。
その為、セシル、ベルンハルドが様子を確認している。
そして、
「兄上。そろそろアルフィナは満腹ですよ?」
セシルはアルフィナの細い体の中でぽっこりと膨らんだお腹を示し、注意する。
「アルフィナいっぱい食べちゃったね〜」
「おにゃかいっぱい〜。みーちゃんもいっぱい〜」
細いが、最初連れて帰って来た頃の栄養不足と言う感じではなく、元気そうにちょこまかと動き回る。
「余り走ってはダメだよ?アルフィナ」
「あーい!」
「私が行って来ます」
セシルはアルフィナと手を繋ぎ、歩いていく。
「それにしても、野菜嫌い……」
「いえ、まだ4歳ですからね? それに、確か、それ、カラシ入ってますから、アルフィナにはダメですよ」
「あぁ、そうだった!」
自分の娘の幼さを思い出す。
賢いが、まだまだ甘えたり、わがままを言っても許される年頃である。
しかし……。
「……私、アルフィナにわがままって言われたことないんだよね? あれ買ってとか……あ、まぁ、外に出てないからだけど」
「と言うか、一応お伺いします。アルフレッド様は、どんなわがまままで許せますか?」
「えっ? んーと……おもちゃ買って? お洋服買って、宝石買って……」
「4歳児が宝石いりますか?」
ベルンハルドは呆れる。
「お父さん抱っこしてとか、遊んでじゃないんですか? それとか一緒に寝てとか。甘えさせたらいいと思いますよ。じゃないとすぐに大きくなって、お父さん嫌いとか……」
「それは嫌だ!」
「でも、可愛がると甘やかすは違いますからね? ……俺の妹は甘やかされて育ったから、我慢しない奴でした。わがまま放題で、気に入らないと侍女に手をあげたりするような……アルフィナはそんな子にならないと分かっていますが、可愛い素敵なレディになって欲しいですね」
ふっと微笑むベルンハルドに、その様子を見ていたその父バルナバーシュは、
「そう言っているけど、ベルンハルド。お前はどうなの? 年下のケルトが婚約だよ? お父さんに孫を抱かせてくれるのはいつ?」
「それよりも父上こそ、アマーリエ様と結婚は如何ですか? アマーリエ様は本当にお優しい上に芯が強く、それだけではなく賢く愛情あふれた方な上、三国一の美貌の持ち主です。父上には勿体無い方だと思われますが……」
「なっ……」
「まぁ……」
二人は顔を見合わせ、そしてお互いに頬を赤くする。
「そ、そんなお世辞はいいのよ。ベルンハルド殿。私はもうおばあちゃんですもの」
「それを言うなら、父は孫もひ孫もいますよ。私が末っ子ですが……お二人のお邪魔なら……」
「ダメ〜! 母上とバルナバーシュ殿が結婚するなら、ベルンハルドは弟。私、愚兄より弟が欲しかったんです! 母上、お願いします!」
「な、何を言っているの……私なんかが妻なんてバルナバーシュ様にご迷惑でしょうに」
「……」
バルナバーシュはふいっと立ち上がり、アマーリエの足元にひざまづいた。
「えっと……私も初めてだから、変な告白になるかもしれないけれど、貴方の優しさと強さに惹かれ、そして、アルフレッド達に注ぐ愛情の深さと、アルフィナに接する時の愛おしげな眼差しを、自分に向けて欲しいと思ったこともある。年齢も……いつまで生きるかも分からないジジイだけど、君を大切に思う。一生側にいて下さい」
「……私でいいですか?」
「貴方だからお願いしてるんだ。こちらこそ、私でいいですか?」
どちらともから手を伸ばし抱きしめた二人は唇を重ね、煽ったもののうまく行き過ぎた母と新しい父の婚約に、微妙な顔をするアルフレッドだった。




