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誘拐未遂

 この時、実はアルフィナは、大好きなばあやがいないとちょこちょこと歩き回っていた。

 一人だけ幼く、そして時々年の近い幼馴染達はお互いの内緒話をする。

 それを聞くのは楽しかったのだが、大好きなお人形のほつれたところを見つけ、ばあやに直してもらおうと思ったのだった。


「ばあや? ばあや、どこでしゅか?」


 キョロキョロと見回す。

 一応自分と父と祖母の部屋と、近いバルナバーシュとベルンハルドの部屋は知っている。

 最初に覗いたのは、ベルンハルドの部屋。

 ベルンハルドはフレデリックと同じ年だったらしく、仲が良く、今も先程の部屋でお話中である。


「……おじいしゃま、いましゅか〜?」


 次に覗いたのはバルナバーシュの部屋。

 バルナバーシュはとても勉強家で、ここは私室だが、書庫から借りてきた本が積み上げられているので、あまり入らないように言われている。

 崩れて、アルフィナに何かあっては困ると言う親馬鹿とじじ馬鹿の希望である。


 返事がないので扉を閉めて、そして一番近い祖母の部屋に行こうとすると、見知らぬ三人の大人と、何回か見たことのある侍女が見えた。

 侍女は普段、この辺りに来ることはない。

 ばあやが言うには、ここは祖母のアマーリエの聖域であり、家族と家族に付く女官と認められた侍女以外は客人しかいない。


「おばあしゃまのおかくしゃま? れも……」


 祖母や父に案内するのは侍女じゃなく女官と言う、服装も違う女官というお姉さん達……アルフィナの側にいるエリとリリも女官見習いだったのを緊急に女官として位が上がったのだと言う。


 人見知りであるアルフィナは、遠い所から見えないようにこそこそと隠れる。

 知らない三人は、そっくりの模様の帽子をかぶっている。

 見たことのある帽子……。


「……あ、キョオダンノシンジャ……母殴ろうとした……きあい。父にジゴクに堕ちゆってゆった! おとうしゃまは父と母天国にいゆってゆった……だかや、うしょちゅき。きあい!」


 アルフィナにとって、アルフレッドの言う事は分かりやすくて、それにアルフィナに必ず、


「いい子だね。アルフィナはお父様の大事な娘だよ」


と言ってくれる。


 褒めてくれる、笑ってくれる、抱きしめてくれる。

 アルフレッドは正しいのだ。

 だからここにいる。いらないと言われるまでいるのだ。


 と、


「お、お嬢様ではありませんか」


挨拶もしたことのない侍女が大声を出す。


 その声のトーンで、アルフィナは直感した。

 この女は敵!

 くるっと後ろを向いて走り出した。


「お嬢様! どうされたのですか?」

「どうしたんだ?」


 修道士の一人が問いかける。


「修道士様。あの方が、もう一人の聖女様ですわ」

「何だと! おい、追うぞ!」

「聖女様! お話を聞いて下さいませ」

「聖女様!」


 アルフィナはぎゅっと唇を噛み、てててっと走る。

 アルフィナは見た目は華やかだが、足はしっかりとした靴と元々小回りが利く。

 廊下をてててっと走り回り、一番近い祖母ではなく自分の部屋に行こうとする。

 すると歩幅の差と人数の差もあり、集まってきている。

 パッと考えを変えた少女はあるドアを開け、潜り込む。

 そこは、祖母アマーリエの側近のイーリアスの待機室らしい。

 机やティーセットなどが並んでいる。

 その隅に隠れるように扉があったので、次の部屋に行くと、綺麗な整えられた部屋にはシンプルだが使い込まれた上品な机とベッドがある。

 そして、潜り込んだのだった。




「ねえ? アルフィナはどこに行ったのかな?」


 アルフィナがいなくなったのを一番に気がついたのは、セシルだった。

 キョロキョロと周囲を見回す幼馴染達。


「アルフィナ? どこ?」


 声をかけるが姿がない。


「誰か? アルフィナ見なかったかしら?」


 丁度お茶を運んでいた若い侍女が、控えめに、


「お嬢様……あの、確か、抱いておられたお人形がを抱きしめて走って……いえ、早足で出かけられておられました」

「えっ?」

「あの子の部屋のある方角かい? それとも、外の方にかい?」


ベルンハルドは問いかける。


「奥でございますわ。『ばあや〜? どこでしゅか〜?』と時々止まって、女官長様を探すようにキョロキョロされてました」

「ハルド兄さん、アルフィナは詳しく部屋を知っているのかな?」

「そんなに詳しくはないんじゃないかな? 私もそこまで訪ねないし……」


 扉が開き、アルフレッドが姿を見せる。


「アルフィナ? お茶の時間だよ?」

「あぁ、兄さん。アルフィナが女官長を探して、部屋の方に戻ったそうです」

「えっ? 女官長はここにいるけど……」

「セシルぼっちゃま? お嬢様が何か?」

「あの、アルフィナが女官長を探して、部屋に戻っていたとか……」


 ミーナは顔色を変える。


「私とジョン、イーリアスはお嬢様のお部屋あたりにおりましたの。それから真っ直ぐ来ましたわ。お嬢様と会っておりません」

「えぇぇぇ! そんな!」

「じゃぁ、皆手分けして……あ、フェリシアとケルト、ユール、ヨルムはここにいるんだよ」


 言い聞かせ出て行こうとしたセシルだが、


「こんのぉ! ここをどこだと思ってんだ! 馬鹿が!」


と言う父の声とともに、吹っ飛んできたのは一人の男。

 もう一人はルシアンが両方の肩を抱え、ルーファスがぶん殴っていた。

 そして、逃げようとした修道女を捕まえて、持っていた扇で殴りつけたのは、アマーリエ。


「私の屋敷に勝手に入った者には、其れ相応の罰を与えるのが決まりなのよ? ついでに皆さん、忘れているようだからお伝えするわね? 私、元聖女のアマーリエですの。おほほ……フェリシアのように癒しではなく、戦闘に特化した者ですけどね」


 扇をベルトに挟み、拳で鳩尾に一撃で落とした。


「あらあら……この侵入者は何なのかしら?」

「申し訳ございません!」


 アマーリエ付きのセラの横で、女官長のミーナが頭を下げる。


「そこにいる侍女が連れてきたのですわ。お嬢様と会いたい、そしてフェリシア様にもと。ここは私室、勝手に入れるものではない。帰って頂きなさいと。他の者に頼んだのですが、まいてこの中をうろうろしていたようです。もしかしたらお嬢様がどこかに……申し訳ございません! 私どもが捕らえて、連れ出せばよかったのです。私の責任ですわ」

「責任とかそう言うのは後でいいのよ。あの子はどこに行ったのかしら……」


 アマーリエは心配そうにし、ミーナはセラに支えられ立ち上がる。


「こちらから外に出るのは本当に難しいかと……どこかの部屋に逃げている可能性が」


 言いかけたミーナが、聞いたこともない叫び声を聞く。


「わ、私の、私のコレクション……コツコツと買い揃えて来たのに! あぁぁ……殺す! お嬢様が無事じゃなければ、切り刻んでくれる!」

「兄さん! 落ち着いて」

「私のコレクション……ここまで集めるのに、どれだけのお金をつぎ込んだか、思いを込めたか……フハハハハ……死にたいらしいな! 侵入者が!」


 扉の奥に入ると、普段は平常心、無表情のイーリアスが完全にブチ切れモードで、暗器を取り出して投げる。

 それは次々に帽子に刺さり、最後に侍女のヘッドドレスの紐を切り、落としたのを見て、


「ひ、ひぃぃぃ!」


 四人は腰を抜かす。


「この部屋に入ったのはお前達だな?」

「ち、小さい聖女がいるはず……」

「ここのどこにお嬢様がいる! しかも私の長年のコレクションのティーセットの棚を倒した……許されないね。これは教会に頼んで弁償して頂くよ。あぁ、この屋敷をめちゃくちゃにした代金も、全て教会とその母体の教国に払って頂こうか」


 新しい薄手のナイフを両手で握り笑う。


「今のうちに言うがいい。お嬢様はどこだ? すぐに言え! でなければ……」


 シュンシュンシュンシュン!


と言う音とともに、4本は寸分違わず、彼らの頰や髪、ヒゲ、服の裾を切り裂いた。

 青ざめる4人に、微笑む。


「この程度で怯える位なら、この屋敷に侵入するな! おい、そこのガキども! もう一度言う! お嬢様をどこにやった!」


 すると、その間に捜索していた弟のジョンが、この場所からは見えにくいが兄の寝室に入っていき、声を上げる。


「お嬢様……」


 慌ててアルフレッドとアマーリエ、バルナバーシュとミーナが駆け込み見た光景は、イーリアスのベッドの中で熟睡し切っているアルフィナ。

 大好きなお人形を抱っこし、毛布に潜り込み、丸くなってクークーと眠っている。


「……多分、逃げ回ってここに来て潜り込んだら、疲れもあって寝ちゃったんだね」

「お嬢様……」


 涙ぐむ妻を抱き寄せるジョン。


「旦那様……大奥様……私どものせいでこのようなことに……申し訳ございません。私どもは責任を取り、お嬢様付きから……」

「やぁぁ……」


 ベッドから声が聞こえる。


「ばあやとじいやがいい。近くいい! 抱っこしゅゆの。ばあやとじいやじゃにゃいとやぁぁ!」


 ベッドを這い、ミーナに抱きつく。


「ばあや、あゆふぃなのばあやにゃの。ばあや。おにんぎょちゃん痛い痛いにゃの。痛いの痛いの飛んでけ〜して? ばあや、飛んでけーして」


 祖母や父にも甘えるが、乳母はほぼつきっきりで成長を見守る。

 最低でも10歳までは側についていて貰う乳母に甘えることを覚えたのは、ミーナとジョンが夜泣きするアルフィナを抱いて、泣き疲れて眠るまで見守ってくれるから。

 母親がわりである。


「お嬢様……怪我はありませんか?」

「んっ! みーちゃんが怪我にゃの」

「それは大変ですね。痛いの痛いの飛んでいけ〜しましょうね」

「うん! ばあやだいしゅき」


 涙目の乳母に抱きつきそのまま寝入ってしまったアルフィナに、周囲は安堵し、そして教国の図々しさに怒りを覚えたのだった。


 捕まえた四人は 警備の者と魔術師を呼び、今までの記憶を奪い、そして道を解らなくして追い出したのだった。

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