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微笑みの裏にある棘

 子供達はフェリシアとアルフィナのことに集中していたが、親の世代……ルーファスとラインハルト、ルシアンとアルフレッド、そしてアマーリエにバルナバーシュは、国王との対立の続きと、諜報活動をする者からの情報を持って集まり、その情報を見ていた。


 自分達の敵が多すぎること……この国がいかに腐っているか、そして、教会を支配する教国とアマーリエの実家サーパルティータ王国、そしてあのバカ王子の母后の母国エメルランド……それだけでも頭がいたい。

 その上、


「どこから出たんだ。アルフィナを送れ……だと?」


アソシアシオン教国からの便りに、息を呑む。

 その内容は……、


「『一度殺され、蘇った聖女フェリシアと、まだ幼い聖女をこちらで預かる。これは神のお力である。お陰である。数日中に教会に赴き、二人を枢機卿に預けるように』何だ! これは!」


ラインハルトは激怒する。


「教会は何もしなかったじゃないか! それなのに、教会って何だ!」

「神のお力で全て起きた奇蹟にしたいんでしょ。うちは絶対に出さないよ」


 一回奪われたルーファスは腕を組む。


「一回フェリシアを教会に連れて行って、利用され続けた。その後は何もしてくれなかった。それに、あの素晴らしい彫像もどきがあるんだ。絶対に絶対に行かせないよ」

「何でアルフィナの事が分かったんだろう……」


 考え込むアルフレッドに、


「この屋敷に教会との内通者がいるんじゃない?」


あっさりとバルナバーシュは答える。


「あ、一番怪しいのは私やベルンハルドかなぁ……」

「いやいや、それは思ってませんから」

「と言うか、どうやって通じるんです」


 苦笑する。


「それよりも、この街の教会が半分以上信者や神父、修道士や修道女を追い出したそうです。別の街に行くか、もしくは教国に移るか、この国が保護するんだけど、自分達がこんな目にあったのは、聖女を奪い取った者達のせいだ。聖女を返せとか……言い張るとか」

「誰が返すか! もうこりごりだ!」


 ルーファスは怒鳴るように叫ぶ。


「フェリシアは私の娘だ!もう手放さない!」

「もう嫁に出したら?」


 ルシアンの言葉に、ルーファスは真顔で、


「じゃぁ、お前の息子の嫁によろしく」

「えっ……えっと、どっち?」

「ケルトだケルト! ヨルムは幼すぎだろ!」


ラインハルトは突っ込む。


「そっか……って、息子に嫁〜? えっ? うちの子幾つだっけ?」

「16だろうが! うちのユールは一つ下、セシルは18だ!」

「……大きくなったんだねぇ……」


 しみじみと呟く幼馴染に頭を抱える。


「……アルフレッド……この一本栓の抜けた阿呆を何とかしてくれないか」

「……それより、ラインハルト兄上! フェリシアがケルトと婚約したなら、うちのアルフィナはどうしたらいいんですか! まだ4つの子です! 何とかして下さい! あんなに可愛い子を手放せません!」


 必死に訴えるアルフレッド。


 最近単語を教えて、読み方やそのものを見せたり、意味を覚えさせている。

 今は花の名前で、この前は生き物だった。


 まだ幼いので舌ったらずだが、それでも、単語を覚えたと走ってくると偉い偉いと頭を撫でるのだが、嬉しそうに笑う姿が可愛くてたまらない。

 親馬鹿というのは何で生まれるんだと思っていたが、自分が親になって理解したのは、可愛い娘を溺愛して何が悪い! と思うことである。


「絶対にフェリシアやアルフィナからは、目を離さないようにしよう」

「特にアルフィナは好奇心が旺盛だから、セシルとか必ず側にいさせよう」

「そうですね」


 頭を抱える親達の様子を伺う存在があったのを、バルナバーシュとアマーリエは気がついていたのだった。




「あぁ、聖女様お二人はここにいるのね」

「フェリシア様はお優しい方だ、きっと分かって下さるとも」

「それに確か4歳とか……そんな子供、簡単に手に入れられるとも」


と、歩くのは修道女と修道士達。

 彼らを案内するのは、屋敷に仕える者の中で敬虔な教団を信じる侍女である。


「こちらです」


 そういった侍女が、扉をノックする。


「どなたですか?」

「あ、女官長」


 扉が開くと、女官長ミーナとその夫のジョン、そして家令のイーリアスが立っている。


「あの、お嬢様は……」

「貴方は、きちんと私の話を聞いていましたか?」

「えっ……」

「お客様をご案内することを、誰かに相談しましたか? ここは旦那様や大奥様、お嬢様の住まう地域です。誰にも言わず、なぜ案内するのです! 居間に案内なさい!」


 厳しく告げると、修道士の一人が嘘くさい笑みで、


「申し訳ない。これは私達が、信者である彼女に頼んだことなのです」

「信者でも何でも、この屋敷の中では、主人一家や主人のご友人方に快適に住んで頂くことが我々の仕事です。その仕事を放置した者は仕事を放棄したのと一緒です。で、貴方は何をしているのですか?」


修道士達を無視し、若い侍女に説教をするミーナ。


「えっと、えっと……すみません! 私は良いことかと思いまして……」

「今すぐ下がりなさい! 旦那様や大奥様にも伝えず、このようなところまで、何故連絡もなく見ず知らずの人間を案内するのです! お帰り頂きなさい。でなければすぐに辞めて貰います!」

「女官長様!」

「まぁまぁ、女官長でしたか? 今回は私共も緊急に参りましたので、お許し頂けませんか? それにこちらのお嬢さんが聖女かもしれないと噂で聞きましたので、確認に……」

「今すぐ下がりなさい」


 イーリアスが低い声で告げる。


「ここはこの国の国王の弟君の屋敷で、サーパルティータ王国王女のアマーリエ様の住まいです。下級の修道士程度がヘラヘラ笑いながら、居住空間に入ってこれると思うのか? 今、優しく言っている間に、回れ右をして帰れ」

「それに、ここに案内したお前は、不審者を旦那様方の住まい空間に案内しましたね? 今日中にここを辞めて貰います」


 ジョンは冷たい目で伝えた。


「この屋敷に勤める、つまりそれは宗教よりも主君を選び、忠誠を誓うこと。それをできないなら、修道女になりなさい。今すぐ出て行きなさい!」

「そ、そんな! この方々は聖女様方にお目にかかりたいと……ご挨拶をされたいとのことでした。フェリシア様のこともご存知で、アル……」

「お黙りなさい! お嬢様の名前を軽々しく呼ばないようになさい! それにお嬢様は宰相であるアルフレッド閣下のご長女です! お嬢様はまだ幼いのですから、許可を得ることは難しいのです。旦那様や大奥様、もしくはイーリアスか私達に相談もなく勝手に案内するなど、ここに仕える者としてありえないこと!」

「女官長の言う通り。お前は出て行きなさい。そして皆様もお帰り下さい。二度とお越しにならないようによろしくお願い致します」


 警備の者を呼び、そして元侍女と3人を追い出すように命じたのだったが、この4人が警備の目を盗み逃走するとは思わなかったのだった。

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