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お兄ちゃんと一緒に絵本を読むのです

 今日はアルフレッドとセシルたちが忙しいので、祖母のアマーリエとバルナバーシュ、ベルンハルドとアンネリと五人で過ごすことになった。

 アルフィナは来週からマナーレッスンが正式に始まるのと、一緒に読み書きも教わる予定である。


 しかし、ベルンハルドに、


「ハユおにいしゃま。このご本読んでくりゃしゃい」


と一冊の絵本を差し出してお願いした。

 その本は、自分が読めた廃れていく言語ではなく、ルシアンとカーティス、そして父に読んでみてと言われて読んだ本である。


「いいよ、読んであげる。こっちで読もうか」


と、明るいベランダ側の絨毯の上に座ると、アルフィナを膝に乗せて本を広げた。


「じゃぁ……『むかしむかしある国に、心優しい王子さまがいました。王子さまにはまだお妃さまはいませんでした。王子さまに美しいお妃さまを迎えて貰おうと大臣たちが考えました。金の大臣は金の髪の豊穣、美徳、尊敬を集める令嬢を勧め、銀の大臣は銀の髪の若く心を安らげる令嬢を勧め、銅の大臣は銅の髪の情熱的な恋を夢見る令嬢を勧めました』」

「……おうじしゃま? おじいしゃま、ちあうの? おにいしゃま? しょれにね? 金と銀とロウの大臣……」

「えっと、おじいちゃんは、えっと、アルフィナにとっては父上がおじいさまだよね? で、ここに書いているのは王子さま……ちょっとまってね」


 さっと差し出したリリから受け取ったペンとメモで、書いてみせる。


「この上の文字が『おじいさま』、こちらは『王子さま』。ちょっと文字が違うんだ。でも、アルフィナはすごいね。おじいさまって知ってるんだね。その上、大臣なんて4歳で覚えてないよ。偉い偉い」


 泣きそうなアルフィナの頭を撫でる。

 ベルンハルドはまだ未婚の青年だが、実家はつまらなかったので小さい頃から家族が下賤と忌み嫌う、近所の一般の家の子供たちと遊んでいた。

 その方が性に合ったし、隠し事もしなくて済むのと、その姉妹になる女の子に対しても平等に仲良くしていた。


「それに金と銀と銅……これは金色はアマーリエさまやフェリシアさまのような色で、銀はイーリアスさんの髪、銅というのは私やアルフィナ、おじいさまの髪と同じ色だよ。ロウ……は、えっとね、ロウソクあるよね? あのロウソクを作るものかな。銅はしばらく火にかけても固いけど、ロウはすぐに溶けるからそれも違うね」

「……ふわぁ……ハユおにいしゃま、しゅごい! おにいしゃま。わやわにゃいでおしえてくえりゅ。やしゃしいにょ!」


 ぎゅーっと抱きつく。


「それよりも、アルフィナは賢いね? お兄ちゃんはビックリだよ。それに、一回聞いたら理解できるなんて……お兄ちゃんの知ってる子とは正反対だ」

「おにいしゃまのお、おきしゃきしゃま?」

「違う違う。えっとね、お兄ちゃんより年下の子で……でも、アルフィナよりも年上だね……だけどね、意地悪でいばりんぼで、そんなに高い身分じゃないのに、自分はお姫様だって。言うことを聞かないとお兄ちゃんたちをぶったり、友達に石を投げたりね、やめろって怒ったら父親に言いつけて、お兄ちゃんはその子のお兄ちゃんに殴られたり、その家に仕えてる親がいる友達は食事抜きとかね」

「……! いじわゆでしゅ、ひどいでしゅ……」


 目に涙を溜めた……嫌な思い出があったらしいアルフィナの顔に気がつき、慌てて抱きしめて頭を撫でる。


「あぁ、ごめんね、ごめんね? お兄ちゃんが、怖いこと言って……」

「しょのお姉しゃん、いじわゆ……おにいしゃま、いい子いい子にゃのに」

「……ありがとう……アルフィナに言われると、お兄ちゃん嬉しいよ」


 じんわりと胸が暖かくなる。


「じゃぁ、アルフィナ……この絵本の続きを読もうか?」

「はいでしゅ」


 この後、説明しつつ読みながら、


「王子さまは選んだお姫さまをお妃に迎え、幸せに暮らしました。めでたし、めでたし。終わり」


と読み終え、本を閉じると、アルフィナは目をキラキラさせる。


「おうじしゃま、しあわしぇ、しゅごい!」

「そうだね。王子さまとお姫さま……うーん、ケルトどのとフェリシアさまみたいな感じかな?」

「ケユトおにいしゃまとおねえしゃま!」


 きゃっきゃと喜ぶアルフィナに、クスクス笑いながら、


「あらあら、ベルンハルド殿はとても教え方が上手なのね。私も良く分かったわ。あぁ、アルフィナ、良かったわね?」

「ふふふっ、仲が良い兄妹みたいだね」


ソファに座って、アマーリエとバルナバーシュがお茶を飲んでいる。

 いつのまにか、アンネリはお休みの時間だったのか部屋を出ている。

 ミルクの時間だったらしい。


「いらっしゃい、アルフィナ」

「あい! おばあちゃま」


 抱っこされたまま、ソファに連れて行ってもらい、アマーリエとバルナバーシュの間に座る。

 ベルンハルドは父の横に座ると、父親の冷めたお茶を、新しいものにとエリに頼む。

 今日はアルフィナの侍女達が、この部屋で幼い主人を見守っている。


「ベルンハルドさまもどうぞ」

「ありがとう」


 受け取り、ゆっくりとお茶を口にすると、


「このお茶は、風味が違うね? カーラ産のお茶に似ているけれど、癖の強い香りや苦味がない」

「まぁ、お詳しいのですね。ベルンハルドさま。そこまで細かく解るなんて……実は、このお茶はお嬢様とフェリシアさまとが、2人でお茶に話しかけていたのですわ。『おいしくなぁれ』『おとうしゃまがにこにこになりましゅように』という感じで、そうすると味が変化していって、皆びっくりしましたの」

「そんなことが……」

「お菓子もお二人で作りたいと言いますの。お二人がきゃっきゃと楽しそうですと、旦那さまや皆様も嬉しそうで……お嬢様がここに来られてから笑い声が増えました。ベルンハルドさまやバルナバーシュさま方もいて頂いて心強いと思っておりますの」


ポットを手に微笑む。


「これからもこんな楽しい日々が続いて欲しいですわ」

「……そうだね。私も、その為にも努力したいと思うよ」


 もう一口飲むと、マフィンを美味しそうに食べているアルフィナに笑いかけたのだった。

花言葉とともに鉱石にも言葉があるようで、

金は豊穣、美徳、尊敬、その代わり金は、欲望を持つものを集めるとも言われます。

銀は若さ、そして、悪魔払い、清める、心を安らげる。

銅は情熱的な恋

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