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ベルンハルドとフレドリック

 墓地から戻ると、アンネリは、日当たりのいい暖かな部屋の初めて見る小さな箱のようなベッドの中で、スヤスヤ寝入っていた。


「あら、やっぱりあったのね? イーリアス」


 家令のイーリアスとその弟のジョンは、ベビーベッドとゆりかごを示し、


「左様です。坊っちゃまの使われていたベッドとゆりかごです。それに、ベビーウェアもありましたので、赤ん坊の頃は男女もあまり変わりがないので、出してみたのですが……」

「あら、思った以上に流行遅れではないわね。逆に可愛いわ。アンネリに着せちゃいましょう。新しく仕立てる間でも」

「こ、これ以上ですか!」


絶句するベルンハルドに、アマーリエはくすくす笑う。


「ベルンハルド殿? 赤ちゃんは頻繁にオムツだけでなく着替えをするのよ。あって困るものじゃないのよ」

「そうなのですか……」

「それに、可愛い子には似合う格好をして欲しいのよ。ベルンハルド殿もそうよ? 髪が赤銅色、瞳は緑なのに、くすんだ色はダメだわ。仕立てを頼む間に合う服を。ジョン、お願いだからバルナバーシュ様とベルンハルド殿に似合う服を、探してちょうだい」

「大丈夫です。奥様。もう幾つか選んで、お部屋にお運びしております」


 ジョンは穏やかに微笑む。


「バルナバーシュ様、ベルンハルド様、こちらでございます。アンネリ様はこちらで見ておりますので、ご安心下さいませ」

「ありがとう」


 フレドリックは友人に、


「ハルドのは俺が選んでやるよ」

「……シンプルなものを頼む……」

「お前はバルナバーシュ様の息子なんだから、それなりのものを着て貰うからな」

「お前の無駄な所に熱意があるのが面倒だ」

「ほらいくぞ」


ベルンハルドは連れて行かれるのだった。




 連れて行かれた先で、数人の侍女にサイズを確認されて、サイズの合う服を出して貰うが、ベルンハルドが今まで身につけたことのない、上質の布で仕立てられた服が積み上がっていく。


「フ、フレドリック! ……これは……」

「一応、家やルシアン叔父上、ラインハルト叔父上の屋敷から持ち出したものだよ。この屋敷にはこんなドレッサールームが幾つかあって、女性用が二つとここが男性用と、儀式用だね」


 服を選んで、自分とさほど背の高さは変わらないものの、猫背のベルンハルドに、


「背中丸めない!」

「うわっ! ちょっと待ってくれないか。何だ。こんな派手なものは……」

「この後、昼食会だ。その時に着ること。さっき、アルフィナの両親の葬儀だったんだ。暗い色だとアルフィナが思い出す。あの子は年齢より賢いんだ」

「年齢……あの子は幾つなのかな?」

「最初は、賢いから6歳位だろうと言っていたんだ。本人は年齢を知らなかったからね。でも、君の父上が4歳だと教えてくれた」


フレドリックは友人の体に合わせ頷く。


「これがいいな。ハルドの髪と瞳は鮮やかだけれど、控えめだからなぁ……ねぇ、副女官長、どうかな?」

「そうですわね……髪を整えて頂いて、こちらでよろしいかと。その次、夜の晩餐会の時にはこちらをご用意させて頂きますわ」

「へぇ……シックだけど、上品でハルドに似合う。いいね、これは。副女官長ありがとう。ハルド。この方が、アマーリエ様の側近中の側近、副女官長のセラ殿。この屋敷の正女官長はアルフィナのばあやのミーナ殿。セラ殿は元々アマーリエさまの母国出身で、若い頃から傍についておられたんだ。ミーナ殿はアルフレッド兄さんの乳母でもあるから」

「副女官長様……」


 セラは微笑む。


「副女官長で結構ですわ。ベルンハルド様。何かありましたら女官長も私達もおりますので、お気軽にご相談下さいませね」

「よろしくお願い致します」


 友人達に手伝って貰いながら着替えをしたベルンハルドは、上質な服は軽く、そして柔らかいのだと思い知る。

 そして、ピアスの穴を確認し、奥から持ってきたジュエリーケースから、プラチナの金具のアクアマリンのピアスと髪飾りを出す。


「こちらは如何でしょう? 髪が見事な赤銅色ですし、金ですと飾りが負けます。プラチナでしたら優しいお色ですし、アクアマリンは今のお洋服に映えましょう」

「そうだね。指輪は今度商人に来て貰うからその時に」

「こ、こんな宝石身につけられないよ! 無くして怒られる!」

「気にするな。多分これは昔、アルフレッド兄上が使っていたものだ。借りる位問題ないだろう」

「……絶対、この透明度と大きさ……高いに決まってる」


 商店で働いていただけあり、見る目のあるベルンハルドは青い顔をする。


「アルフィナは、妹のフェリシアの昔の飾りを嬉しそうにつけていたぞ。『おねえしゃまにもやいましゅた! お花でしゅ!』って。フェリシアも妹がいないし、ちょこまかついて歩くアルフィナが可愛いんだろう。髪を編んだり、飾りを選んだり楽しんでいたな」

「はぁぁ……お昼でここまで疲れるとは、生きていけるかな」

「お前はバルナバーシュ様の息子だから、それなり以上を要求されるぞ。以下だと悲しむだろう。マナーレッスンも早めに始めた方がいいだろう。それにまだお前、自分の自覚ないな。男爵家どころかバルナバーシュ様の嫡子だぞ。貴族を束ねる宰相閣下である、アルフレッド兄上の屋敷に招待された客人……この屋敷は国王夫妻も入れない」

「えっ? 何で?」

「……国王の現在の寵姫は、元アルフレッド兄上の奥方。不倫して正妃様が怒って母国に帰られたんだ。一応バカ王子は正妃様との子供。正妃様の一族が寵姫の家を取り潰したから実家はないし、ここの貴族も、わがまま放題で身分関係なく命令している寵姫を嫌って寄り付かないからね。この家にいた頃はあった部屋は、アマーリエ様の命令で取り壊したらしい」


 自分の下の妹もわがままだったが、国王と寵姫の関係もやばかったのか……遠い目になる。


「まぁ、ハルド。そこらへんはうちの父か、アルフレッド兄上が教えてくれるだろうから、まずは、服も整えたし行こうか」

「あぁ、副女官長。ありがとうございます。では行ってまいります」


 丁寧に頭を下げたベルンハルドは、友人を追いかけ出て行った。

 セラは微笑み、


「ベルンハルド様は、本当に礼儀正しくて真面目な方ですわね。お針子にお願いして、サイズ調節を頼みましょう」


言いながら、選んでいた服をまとめていったのだった。

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