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【番外編】神に見捨てられた一族4

 その頃、刺青いれずみを入れられ、温情で痛み止めを貰った新しい処刑人の家族は、周囲をしきりに気にしていた。


「おい、親父! フランシスとうちの娘がいない!」

「本当だわ! 私達の可愛いナオミが!」


 嘘である。

 本当は堕ろすつもりだったが、金がなく堕ろせず出産したのである。

 その為、産着もろくなものがなく、時々フランシスが古着屋で購入していた。

 よくお腹が空いたと泣いていたが、ほったらかしで、老齢の侍女が孫に子供が生まれたからと乳を分けて貰っていた。

 とても痩せていてお腹が空いたとヒィヒィと泣くので、家族が手をあげることも多く、心配してフランシスが面倒を見に戻っていた。


「あのフランシスさんのせいよ! どこにいるの!」


 【0004】の刺青が彫られた女は、キャンキャンと叫ぶ。


「うるっせえ! おらっ、食料と当座の生活の為のもの、持ってきてやったぞ」


 隣に交代で駐在する監視の男達が、家に入ってくる。


「ありがたいと思えよ。差し入れだ」


 ドンッと古びたテーブルに荷物を置かれ、5人は集まる。


「何だ、これは!」


 【0003】の男が広げたのは、色あせたシワだらけのシーツ。


「シーツだが?」

「何だと! この我らにこのようなシーツで過ごせと!」

「そうだそうだ!」

「黙れ! シーツがあるだけマシだと思え!」


 一人が怒鳴りつける。


「隣の部屋とその奥の部屋が寝室だ。それと、この外はお前達の商売道具があるぜ。綺麗に磨き上げておくこった」

「ちょっと待って頂戴! 晩御飯は? アフタヌーンティーは? どこにあるの?」

「はぁ? 何言ってんだ? ここに肉に野菜にパンがあるだろうが! 先代は庭に畑を作って、それとリンゴの木が庭にあるから、収穫して自分たちで料理してたぞ。お前達もやれや」

「何故? 私は貴族なのよ! 祖父は伯爵だったんだから!」

「うるせぇ! ババァ!」


 バーン!


テーブルを叩く。


「てめえらはいつまでも、お貴族様だと思ってんだろうが、もう貴族としての戸籍もねぇんだよ。これからは、お前らはその刺青の番号で呼ばれるんだ! おい、【0001】」

「……」

「返事をしねぇか! この!」


 男は拳で【0001】の頰を殴りつける。

 その勢いに倒れると、


「親父に何をする!」


胸ぐらに摑みかかる【0003】をあっさりと殴り、倒れ込んだ腹部を蹴りつける。


「きゃぁぁ!」

「貴方!」

「パパ!」

「何をするの!」


 【0002】は、夫の頰を押さえながら振り返る。


「何をする? その台詞はこっちが言いたいぜ。お前らに殺されたここの前の住人は、俺の親友だった。その嫁は俺の妹だ。二人を殺しておきながら、何だ? その言い草は! てめえらは罪人なんだよ! 俺の親友は本当に善人だった! 生まれる場所を間違ったんだ! 二人はこの世に一つしか未練がなかった。でもその未練も救われるだろうさ……ただ、てめえらはすぐに死なせてやらねぇ! 生きたまま地獄を味わいな!」


 言いながら、ベルトに引っ掛けていたものを見せるように出す。

 それは細い鞭。

 しかも、所々に鉄のトゲがあり……、


「先代夫婦には一度もこれは使わなかったが、お前達には『お仕置き』や『躾け』が必要らしいな? まずは自分の身分をわきまえろ。ついでに言葉遣いも直せ、じゃねえとこれでそのガキから順番に『躾ける』ぞ?」


顎で【0005】を示すと、大人は真っ青になり、子供は泣き出す。


「うるせえ! この程度で泣くな! 今までお前達が、身分にあかせて周囲にやってきたことだろ? 何を今更、怯えることがある。おらっ」


 鞭を振るう。


「俺らも交代が近いんだよ! てめえらの為に時間を割いても金にならねぇ。早く片付けてしまえ。やれ。てめえらは罪人。つべこべ抜かしたら……これだぞ?」


 大人達は震え上がり、シーツを抱えそれぞれ指定された隣室に向かう。

 すると古いベッドとクローゼット、そして小さいテーブルだけである。


「あれは何だ?」

「薄っぺらい毛布しかないわ!」

「それに、ベッドが血まみれだ」

「あんなところで眠れない!」


 口々に言い募るが、鞭の一振りで黙り込む。


「おい、俺達は言ったな? 早く片付けろと。早くしろ!」


 もう一度、振るわれた鞭の音に逃げ出した。


「あぁ、めんどくせぇ……俺は帰る。用事がある……後は頼んだ」

「はっ、隊長!」


 口の悪い男は疲れ切ったと言うより、暗い表情で出て行ったのだった。


 ちなみに、これ以降も大騒ぎをする家族を黙らせ、ようやく交代したのは夜更けだった部下達は、近くの安い酒場に行き、どれだけ今回の罪人が愚かしいかを酒を手に愚痴るのだった。

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