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【番外編】神に見捨てられた一族

 娘のマリアが王子と恋仲になり、そして王子の婚約者フェリシアを罪に陥れ、処刑台に送った。

 王子と恋仲になったと聞いた時、喜び、そして寵姫でも良いと煽ったのは悪かったと思う、しかし、自分達はなぜ……。


 今、古ぼけた石積みの家の中……。

 先程何故か二つの棺が運び込まれ、奥に消えていった。


 そして目の前で行われているのは……。


「痛い痛い!」

「ぎゃぁぁ! やめて! 何故こんなものを!」

「ウワーン! お母さん!」


 悲鳴をあげるのは長男夫婦と孫。

 目の前で行われているのは、刺青を腕と頰に彫り込まれている。

 自分達はもうすでに行われ、それぞれ腕に【0001】【0002】と彫られている。


「何故……こんなことに……」

「だから俺は言ったじゃないか! 親父!」


 粗暴な一家だったが、一人常識人で実家から出ていた次男は、呼び出され冷たい目でこちらを見る。

 彼は、小さい頃から親の所業や兄妹の行いを引いてみていた。

 見栄を張るのが馬鹿らしいと、小さい頃から読書をし、街の知恵者に話を聞き、大伯父に歴史を教わり、成績が落ちない限りは返済のない奨学金を得て寮のある学園に進学した。

 そして、ソコソコの成績を修め、卒業後官吏として就職をと思っていたのに、家族の悪評で就職できず、街の商店の倉庫管理と計算の仕事を得た。

 安く家も借りられ生活してみると、逆に貴族という型に捕らわれることがどんなに馬鹿げているかと思い、将来は絶対に家と縁を切ろうと働いていたのに、今日捕らえられたのである。


「俺はあれだけ言ったぞ! 俺はフェリシア様を知っている。あの方は本物の聖女で、レディ、王妃となれる存在だと。だから、マリアはあの方に敵わない。そんな意味のないことはやめろと!」


 まだ未婚の次男の腕には、長男夫婦の最近生まれて間もない娘が抱かれていた。

 次男と姪にはまだ彫られていない。

 次、自分の身に起こることを、待つしか出来ないのである。

 ただ祈るのは、わがままに育った甥はともかく、この腕の中に眠る姪にはあまり痛みがないことを……。

 罪のない無垢な赤ん坊をこんな目に遭わせる、愚かな妹や両親、兄夫婦に怒りさえ湧いてくる。


 すると、ザワザワとした物音と共に、ラインハルトとカーティスが姿を見せる。

 次男は立ち上がり頭を下げる。

 二人はキョトンとする。


「失礼だが、君は誰かな?」

「申し訳ありません。私はマリアの次兄でフランシスと申します。この子は姪でナオミです」

「フランシス……?」


 ラインハルトは幼馴染を見る。


「カーティス、馬鹿一家は長男とあの娘だけじゃなかったのか?」

「いや……私も知らない……ん? あれ? ちょっと待って、君はフランシス・ビョルグ……?」

「お久しぶりにございます。今回は本当に申し訳ございませんでした。フェリシア様の死を求めたのは、私の家族です」


 頭を下げる青年に困惑する。

 フレドリックの学生時代の同学年だった青年である。

 身分差はあるが、フレドリックとも仲が良く、賢い子だと思っていたのだが……。


「君は……あの処刑の場と結婚式にいなかったね?」

「はい。仕事がありました。学校を卒業してすぐ家を出て、街で勤めております。そこで呼ばれ参りました」

「……何て事だ」

「カーティス様。ご心配は結構です。悪いのは私の家族ですから。ですが、まだ幼いこの子に辛い目に合わせることになるかと思うと心が痛みます……いえ、お忘れ下さいませ」


 深々と頭を下げる。


「えっと、フランシスだったか? こちらに来てくれないか。そのナオミだったか? 子供も一緒にだ」

「はい、騎士団長閣下」


 意見に反しては姪に危害が及ぶ事を理解していたフランシスは、二人の後を追う。

 奥の部屋に入り、そこには数人の騎士が、棺に1組の男女を納めていた。


「……この方々は……」

「処刑執行人の夫婦。カーティスの娘のフェリシアを断頭台に送るようにお前の妹達に命じられ、断罪しか術はなく絶望して命を絶った。後継者はいない。その為、お前の両親や兄夫婦は処刑執行人の任を命ぜられた」


 夫婦の亡くなった後の表情は安らかで、服を着替えさせることは騎士達には出来なかったので、二人を棺に納めた後、毛布や持ってきたのか花などを飾っている。


「悪いが、棺を運び出してくれ」


 ラインハルトの命令で立ち去ると、カーティスと二人であちこち探し始める。


「何をしていらっしゃるんですか?」

「……いや、ちょっと……何かないかと思ってね。残った人間はいないし……」

「何かと言うと……あれ?」


 フランシスは自分の触れた壁にスイッチがあり、押してしまった。

 すると、足元に階段が現れた。


「うわっ! 申し訳ありません!」

「いや、探していたのは多分これだ。入ってみるか……」

「一人は無理だ。ラインハルト。申し訳ない。フランシス、ラインハルトと一緒に中に入ってくれるか? 君の姪も一緒に。私はこの部屋を探してみようと思う」

「はい……」


 子供は重いが、その方がいいかもしれないと思いかけると、ラインハルトが、


「貸せ。俺が抱いといてやるよ。赤ん坊は重いからな」


とヒョイっと抱き取る。


「あの、ロウソクとか……」

「魔術師から明かり玉を借りてきた」


 懐から出してきたものに唖然とする。

 明かり玉は普通3cm程のものだが、ラインハルトのものは5cmは超えている。

 しかも掴み出したのですら、3つ……そのうち1つを惜しげもなくフランシスに投げる。


「これを持ってろ。後ろから何か来ても困るだろう」

「ありがとうございます」

「じゃぁ行くな」


 そう告げると歩き出した。

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