フェリシアと幼馴染とポーション
フェリシアは実は生き返って以降、自分が断頭台に向かう時の事を思い出し、うなされる日が続いていた。
あの時は絶望していた。
それに、あのワガママ王子によって家族が巻き込まれる……それに幼馴染のケルトとユールに被害が及んではと思っていた。
しかし、生き返ると、あの時の恐怖と我慢していた辛さと苦しみ、悲しみに心が苛まれ、目が覚めては一人すすり泣く日々が続いていた。
そんな日が続いた時、アルフィナが生み出した飴玉ポーションを口にし、その日から数日ゆっくりと眠れた。
どうしてだろう……それに恐怖感もさほど覚えない……。
穏やかな気持ちになる。
「どうしたの?」
ケルトとユールとお茶を飲んでいたのだが、首を傾げ考え込んでいたフェリシアは、顔を上げる。
「あ、ごめんなさい。実は……最近、眠るとうなされていたのだけれど……数日前……あのアルフィナがくれた飴玉ポーションを口にしたら、よく眠れるようになったの。夜に何度も目が覚めていたけれど、今はしっかり眠れるの。アルフィナは私にどんな魔法をかけたのかしら……」
「うーん……フェリシアが大好きだから、フェリシアが良くなるようにって思ったんじゃないかな?」
ユールは答えるが、その横で、
「魔法じゃないよ、浄化。フェリシアは癒しの聖女で、アルフィナは浄化の聖女」
ケルトは答える。
「僕達の使う魔法に、一時的に混乱とか起こすことはできるけど、それを正常に戻すのは魔法が切れた時だけで時間がかかる。でも、アルフィナはそういったものを消し去るとか、フェリシアが今言っていたような衝撃が強すぎて眠れないと言う状態を治す……楽になる力を持っているんだと思うよ。まぁ、能力的にもフェリシアの方が熟練されているし、強い。癒しの力は歴代の聖女の中でも抜きん出ているはずだよ。でも、アルフィナは浄化……特殊能力に近いと思うよ。余り聞いたことがないから」
「浄化……」
フェリシアは考え込む。
確か昔、教会に聖女として出向いていた時に……、
「あっ! 聞いたことがあるわ。聖人インマヌエル1世。この方は荒れ果てた戦場に癒しと浄化をもたらし、この国の初代国王になられた方。確か、ご自分のご長男にも同じ能力があられて、教会に預けられたけれど、破門され、行方不明になられたとか。次の国王は王女の夫君がなられたって。王女は癒しの聖女でもあったそうね。でも、本当は王子は王女の夫君との政権争いに負けたと聞いているわ」
「インマヌエル1世……ちょっと待って。確か術力の強弱はあるけれど、そう言った能力って受け継がれやすいんだよね……。だから王族……の血を引くとフェリシアのように聖女が生まれる。でも浄化は滅多に生まれないはずなんだけど……」
「アルフィナが、インマヌエル1世の息子の末裔だったりしてな」
ユールの言葉に二人はハッとする。
「もしかしたら……」
ケルトが宙から、一冊の本を取り出しページをめくると、指で示す。
「ここに書いてある。『インマヌエル1世、息子の能力を恐れ封じようとするが、封じ切れず息絶える。姉王女、父の暗殺の罪を咎め弟の家族を捕らえた。王女は夫を王とし、王妃として夫を支え国を安定させる』」
「……でも、これがアルフィナの先祖か分からないだろう? それに、政権争いとか。俺は歴史得意じゃないけど、その時代は平穏になりつつあったってしか習ってないぞ」
「だけどね? ユール? 歴史書ってのは勝者の残すものだ。都合の悪いことなど書く訳がないだろう?」
扉を開け、フェリシアの兄のフレドリックと共に姿を見せたのはセシル。
「兄貴!」
「まぁ、ユールに今更勉強を奨励しても意味がないけど」
「悪かったな」
「まぁ、ユールはお前と違って可愛いじゃないか」
「フレドリック……何か言った?」
セシルは睨む。
「それより、フェリシア。大丈夫か? お前は隠したがっていたようだが、父上や母上は心配していた。今は眠れるのか?」
「お兄様もご存知だったのですね……申し訳ありません」
目を伏せる妹の隣に座り、抱きしめ頭を撫でる。
「違うよ。心配だったんだ。それに、私達もお前を守ってあげられなかったと思って……本当に済まない」
「お兄様やお父様、お母様やお姉様方も悪くないです! 私が相談できなかっただけで……」
「でも、フェリシア……皆心配しているから、心に溜め込まないで相談してほしいな。兄としては、可愛い妹が辛そうな顔をしているのを見るのは辛いんだよ」
「はい、お兄様……ありがとうございます」
フェリシアの家族は、末娘で、可愛い妹のフェリシアを溺愛している。
特に、このフレドリックは未だに婚約者もいないが、その理由が、
「結婚相手に求めるのが、自分よりも両親と特に妹を大事にしてくれる人」
と公言しているからである。
家族はその通りと笑っているが、アルフレッドが心配すると、
「兄上の結婚を貶すつもりはありませんが、やっぱり大事なものを一番と言っておこうと思います。私はフェリシアが一番可愛いので、フェリシアが帰りづらい家にしたくないのです」
と宣言。
ちなみに弟も、実は同じようなことを言っているらしい。
「それにね? フェリシア。目の下にクマができていたよ。昔ならあり得なかった。それに、フェリシアの笑顔と笑い声が……」
「お兄様」
「すぐにとか強制しないよ。それより、無理に笑わなくていいよ。ゆっくりでいい、今まで我慢していたことを吐き出しなさい」
「……お、兄様……」
「それよりも、アルフィナが生み出すポーションがとても面白いんだけど」
クククッと笑う。
「面白いって?」
「ケルトに聞かなかったの? あの飴玉ポーション。白とピンクとブルーはフェリシアと一緒に作ったけれど、グリーンと黄色、紫のポーションはアマーリエ様とがグリーン、黄色はアルフレッド兄上、紫が出来たのがセシルだったらしいんだけど、当然、体力、魔力回復が白とピンク、ブルーは精神安定で、後はってルシアン叔父上に調べて貰ったら……」
「どうだったの?」
ユールの問いかけにケルトは顔を背ける。
「えっと……父さんに聞くと、紫が毒のポーション、緑が毒解除のポーション、黄色が体力、魔力回復……だって……」
「ど、毒! 何で?」
「ポーションは元々水薬って言う意味で、薬は基本飲みすぎたら毒になるから、毒のポーションもあるって言ってた……」
「……兄貴、毒だったんだな……毒舌だけじゃなくて、そもそも毒!」
痛ましげに弟に言われ、セシルは、
「うるっさい! そんなに言うなら、お前に抱きついて作って貰え!」
「ダメだよ。まだアルフィナは体調良くなってないから。面会謝絶でセシルは機嫌が悪いんだ」
「……兄貴、応援するからな……俺は。ロリコンでも気にしないからな」
「誰がロリコンだ!」
弟に怒鳴り返すと、別の椅子に座り、ムスッとしたままクッキーを食べ始めたのだった。




