アルフィナの言葉遣いと生き様について
アルフィナの外見年齢のわりに、言葉遣いが幼すぎることをアルフレッドは少し心配していた。
亡くなった両親のことは父と母などはっきりとした口調で喋るのに、普段喋ると舌ったらずで本当に幼いお子様である。
心配でアルフレッドは、カーティスやルシアンに相談した。
すると、ルシアンは、
「じゃぁ、簡単に調べてみればいいじゃない」
とあっさりといった。
「調べるって……」
「アルフィナが何を知っているか、何が知らないかを見せてみるんだよ。怖がるようなものは出さないで」
「それはいいな」
カーティスが色々準備するというので、それを頼んだのだが、一緒にルシアンに頼んだのを後悔したのは後の祭りである。
当日、アルフィナを連れたアルフレッドはルシアンの部屋に行き、真っ青になる。
何故、ここにこんなグロいものを並べるのだ?
もっと可愛いものを揃えて欲しかった!
そこにあるものは難しい書物に可愛い絵本、不気味な人形と可愛らしいお人形に、ナイフに男の子が遊ぶパチンコとかブーメラン、知育玩具の文字並べに数字並べや積み木などである。
「アルフィナ。聞きたいことがあったんだけど、文字読めるかな?」
首を傾げ、そしてたどたどしく、
「ちょ、ちょっとでしゅ……」
「じゃぁ、この絵本は読める?」
「えと……『むかしゅむかしゅ、あゆとこりょに、ここよやしゃしいおじいしゃまがいましゅた。おじいしゃまにはきつつきしゃまはいましぇん。おじいしゃまにきつつきしゃまをさらおうと大臣たちがかんがえましゅ。金の大臣は金の紙のきつつきしゃまをしゅしゅめ、銀の大臣は銀の紙のきつつきしゃま、ロウの大臣はロウの紙のきつつきしゃまをしゅしゅめました』」
「はい、よく読めました。偉い偉い」
内容が幾ら常識外れでも、幼いアルフィナが頑張って読んだ絵本である。
褒めることが一番正しい。
しかし本来、心優しい王子がいてお妃がいないので、大臣たちはお妃を迎えようと金の髪のお姫様、銀の髪のお姫様、銅の髪のお姫様を探し、どのお姫様が良いでしょうかと問いかける物語だが、王子様がお祖父様になっている点ですでに間違っている。
その上、お妃がキツツキ……しかもさらうと言う、だんだん話がずれている。
髪の色が、紙になるのもご愛嬌で済むのだろうか……。
心配になりつつ、
「じゃぁ、アルフィナ。ここにあるおもちゃなんだけど、アルフィナにあげようと思っているんだけど、どれが良いかな?」
と聞くと、即、パチンコと自分の身長の半分はあるブーメランを手にした。
青ざめるアルフレッドに、ルシアンは問いかける。
「これはどうして?」
「獲物を狩りましゅ。おとうしゃまとおばあしゃまに、美味しいお肉を食べてもやうでしゅ」
血の気が引くアルフレッドにカーティスが、
「えとね? アルフィナ? お父さんが真っ青になってるよ? アルフィナは可愛いから。それにこのお家には猟を担当する人がいるし、ニワトリを飼ったりしているからね? アルフィナは使わなくて良いんだよ。遊ぶものはどうかなぁ?」
「んっと……じゃぁ、これにしましゅ」
お人形……しかも不気味な顔の人形に、アルフレッドは、
「あ、あのね、アルフィナ。こ、こっちのお人形はどうかな? こっちのお人形はフェリシアお姉ちゃんが、可愛いからって選んでくれたんだよ。このお人形は、お洋服の着せ替えができたり、フェリシアお姉ちゃんたちと一緒に遊んで貰えるよ?」
「あしょんで?」
キラキラと目を輝かせる。
「お祖母様が可愛い布があるから、アルフィナとお揃いのお洋服とか作ってはどうかって。こっちの不思議な顔のお人形は、魔除けのお人形で、別の場所に置かれるものだから、この可愛い方にしようね」
「あいっ!」
ホッとする。
素直な娘でよかった……。
「あ、それと、叔父さんは、この積み木とか数字の書いたこれをあげるね」
ルシアンは示す。
「これは、まだ遊んだことはないと思うけれど、叔父さんの下の息子のヨルムが遊んでいるんだ。砂場で遊ぶ時には、お互い山を作っておいて言葉が出来上がると、相手の山を攻撃……」
「やめろ! それは遊びじゃない! そんな攻撃ゲームは無しだ!」
カーティスが慌てて口をふさぐ。
「攻撃効果は消して、文字の読み書き、計算勉強だけにしろ!」
「はーい。残念だなぁ……」
「それに、アルフィナ? お人形と遊んでおいで。確か、お祖母様がおられるから、お人形の着替えについて聞いてごらん?」
「あ、あい! おじしゃま、ありがとうございましゅ。んと、だいしゅきでしゅ!」
ニコッと笑う無邪気なアルフィナに、
「えっ? アルフィナ! お父様は?」
「だいしゅきでしゅ! おとうしゃま。昨日抱っこありがとうございましゅ」
アルフレッドは娘を抱き上げ、頰にキスをする。
「アルフィナ。今日はお祖母様と寝るかな?」
「あい!」
「じゃぁ、セシルお兄ちゃんがお迎えに来てるから、行ってらっしゃい」
「あい、行ってきましゅ!」
人形を抱っこして手を振ると、てててっと扉の側に向かい、セシルに抱っこして貰うと、もう一度父達に手を振って出て行った。
見送っていた3人は、顔を見合わせため息をつく。
「……まずは言葉を教えること、文字を教えること……数字は明日確認して……」
「それにしても……お妃がき、キツツキ……王子様がお祖父様! ……すみません! カーティス兄さん!」
「面白がるな! きちんとした勉強が出来なかったんだ。ここまで読めたんだ、偉いで良いんだ。アルフレッドはちゃんと褒めた。偉いぞ」
「いえ、理解は多分できていないんだろうなぁと……『キツツキ』って、もしかしたら、両親が使っていた隠語じゃないかと……『迎える』が『さらう』なのも、髪の毛が紙なのも……ちゃんと言葉を教えてあげないと……多分、あの子は言葉自体教わってないのと、私達の喋る言葉の発音も聞いたことのないのだと思います。必死に真似ているつもりでも舌ったらずになる……育った環境が影響を与える……その意味がよく分かりました」
目を伏せて、そして、
「言葉をよく話して、理解して貰う……絵本を毎日読んであげたいと思います。このお話もちゃんと……」
「そうだね」
アルフレッドは父親として幼い娘の幸福な将来を、祈るのだった。




