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この間ループ中の二人は……

 ところでこちらは、教会の中で口づけを繰り返す新郎新婦。




 口づけは最初は甘く感じたが、次第にそれは気持ちが悪く、吐き気をもよおすものとなってきた。

 何故なら、自分達は同じ時間を繰り返すが、その周囲は時間が移り、最初に自分達が嗤っていた悪役令嬢のフェリシアの家族や、騎士団長に大人しいだけの叔父が魔術師長と幼馴染のケルトや小さな女の子を抱えて去った。

 それと共に、マリアの家族も騎士達に捕らえられて去っていった。

 そして、祝ってくれていたはずの貴族たちが急に白けたようにぞろぞろと出て行き、その場にいるのは教会の枢機卿と神父達と修道士、修道女……。

 しかも、


「なぁ、いつまでいるんですか? この方々」


騎士にも見まごう立派な体躯の修道士は、ぞんざいな物言いをする。


「殿下……教会はもう閉じるお時間です。お帰り頂けませんか?」


 枢機卿は、椅子に座り疲れたように言う。


「うるさい! お……」


 俺だって、やめたいんだ!


と言おうとするが、再び紅の落ちた唇に自分の口を近づける。

 マリアの方も、自分の自由にならない体に嫌悪感を覚えているのか、


「な、何であたしはずっとここで、汗だくで鼻水出してる男とキスしなくちゃいけない……」


と早口で文句を言うが、再び強制的にキスが繰り返される。


「な、何だと!それを言うならお前こそ、化粧がまだらでそばかすが見えてるぞ!」

「鼻毛の出ているあんたより……もう嫌ぁぁ」


 必死に抵抗しようとするマリアに再びキスをした。


「た、頼む……これを何とかできないか……」

「お願い! 何であたしがこんな目に!」


 だがそれは、枢機卿たちの前では、新婚夫婦の喧嘩にしか見えない。

 それに……。


 神父の一人は、言い合いをしながら行為を繰り返す二人に冷たく言い切った。


「それは神のお怒りかと思います。神は平等に人を愛されますが、特に敬虔で優しく心の澄んだ方を特に聖人、聖女として特別に愛されます。近年、聖人聖女は滅多におられませんでしたが、昨日、貴方様方の命令で処刑されましたフェリシア様は、聖女として孤児院の慰問、街の活性化などの為に中心街を抜けた地域の道路の舗装、下水道の整備など仕事を考え、貧しい民に対しての支援に熱心でした」

「私の家も元は貧しく、飢え死に寸前で炊き出しをして下さったフェリシア様とケルト様に救われました」


 両手を組み合わせ、祈るように修道女は涙を流し、その後ろでは、


「俺の村は魔物に襲われ、騎士団を率いた団長のお二人の息子とフェリシア様が助けに来てくれた。最近まで交代で騎士の方が来て下さっていて、今は騎士団を退団された方が住まわれるようになったんだ」

「それは、なんて素晴らしいんだ! 私の叔母は、冬の寒い時に道で足をひねって動けないでいるところを、遠方の街の視察から帰られていた宰相閣下とフェリシア様、魔術師長の令息がわざわざ降りて下さって、手当てをして下さった上に、馬車に乗せて送って下さったんだ」

「何だって? 宰相閣下とフェリシア様方が! そんな雲上の方の馬車に、気軽に?」


 まだ下位の修道士の言葉に、皆が驚く。


「あぁ、嘘じゃない。お菓子やパンに温かい飲み物を下さって、あの道でずっといるなんて寒かったでしょう、温まって下さいねと毛布まで。それだけじゃない。家に送った後、近くの医師を手配して、叔母だけじゃなく、体調の悪い村の者の診察をお願いして下さったと。それだけでもありがたいのに、お金は全て宰相閣下が払って下さったとか。フェリシア様も村の子供たちと遊んだり、料理を作られたり……村の命の井戸の水が減っていることを心配して、一時的にしかならないけれどと、水の魔石をと井戸に投げ込んでくれたらしい」

「それは……本当に聖女様だ。そんな聖女様を……」


 嫌悪感を二人に向ける。


「……言ってはいけないだろうが、フェリシア様よりも死んで欲しい相手がいるよな」

「確か、ケルト様や魔術師長様も、意識がないまま運び出された。ご無事だろうか……」

「本当に……神よ……何故、神はフェリシア様が愛おしいと身許に置かれたいと思われたのでしょうか……」

「私達にとっても聖女であり、心優しい一人の女性だったのに……」


 自分達を見る視線の冷たさに、


「貴様ら! この王子である俺を馬鹿にす……うぐっ」

「あんた達! 王妃になるあたしに対しての言動! 許さないわ! 覚えてなさい! ぎゃぁぁ!」


キスを冷ややかに見る神殿に仕える者達。


「枢機卿様。この者達を移動しても構いませんか?」

「この神殿から出すがいい」


 頷いたものの、修道士たちが近づこうとすると、壁があるかのように近づけなくなる。


「何故、もう少しで近づけるのに……」

「こんな不気味なものを置いておくのか……?」

「えぇい! 早く退けぬか!」


 枢機卿が声を荒らげた時に、ステンドグラスが光った。


『我が、この者達にふさわしい場所としてここを選んだのだ。移動することは許さぬ』


 広がる声に、他の者は恐れ多いと指を組み合わせ頭を下げた。

 枢機卿は座ったまま青ざめブルブルと震える。


 神の声である。


『枢機卿……この者達を見たくないのなら、我の移った神殿に移れば良いのだ』

「移った!」


 神父や修道士たちの声が重なる。


『こんな穢らわしい者を迎え入れた枢機卿……懐に何を入れた? そなたの顔は見たくない。ここで、愚か者に尽くすが良い』


 その声に、枢機卿はガタガタと震えた。


「か、神様! わ、私は……私を許して下さいませ! お許し下さい!」


 その絶叫を聞く者は、キスを続ける者達しかいなかったのだった。

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