帰還
出入り口で憂鬱そうに待機していたユールとグインは、俯きながら隠し階段から姿を見せたメイとマゼンタに近づく。
「えっと、大丈夫か?」
「……な訳ないわよっ!」
メイが兄の襟元を掴み、力任せに締め上げる。
「な、なにがあったんだ? 敵が強かったのか? それとも……」
「木乃伊がいたの! 木乃伊がしゃべったのよ! 木乃伊が!」
「はぁ?」
実物を知らない二人は、顔を見合わせる。
涙目のマゼンタは、自分が出てきた階段を示す。
「信じられないなら、見てきなさいよ! 後ろからバロンが連れてきてるから!」
「連れてって……」
「私とメイは帰る!」
「そうよ! もう、兄さんとユールの失敗の尻拭いなんてしないから! 帰ろう? マゼンタ」
二人は足早に室内から出ていく。
「なんだ? あれ」
「わからない」
首を傾げる二人の前に、階段からひょこっと顔を出したバロンは、
「(兄さん、ユール。メイとマゼンタは帰った?)」
「あぁ。どうした? 怪我でもしたのか?」
近づき手を伸ばそうとしたグインは、硬直する。
童顔の可愛らしい弟の後ろから、信じられないものが顔を覗かせている。
「そ、それは……」
『なんじゃ……可愛い子ではないではないか。つまらぬ……』
「バロン! なにを持って帰ったんだ? そんなのポイしなさい! ポイ!」
『わしはゴミではないぞ! なにを考えておる! わしはれっきとした! 由緒正しい死人である!』
「骸骨に由緒もなにもあるかよ!」
メイ同様、リアルではない存在に引き気味だったユールは食ってかかる。
すると、
『可愛げのない坊主が!』
という言葉とともに、ゴーンッと頭部に衝撃が走る。
「いってぇ!」
『わしからの制裁である! 反省するがよい!』
「なんだって? 骸骨じじい!」
「(兄さん! この方、インマヌエル1世陛下)」
バロンは腰に下げていた剣を示す。
「(この剣が胸に刺さっていたんだ)」
「はぁ?」
『憎々しいのう……わしに力があれば……』
骸骨はため息をつく。
『そう言えば、これからどうするのかの? 息子の元に連れていってくれるのか? 可愛い子よ』
「(えっと、外……)」
「こんなの連れて帰ったら、親父と兄貴に殴られる!」
「そうだ。丁重にお帰りいただけ! バロン」
『こんなのとは何じゃ! 無礼な!』
骨がましい指を振りながら癇癪を起こす。
『わしは帰らぬ! この可愛い子についていくからの! そなたたちの言うことなど聞かぬからの!』
「バロン!」
「返してこい!」
間に挟まれていたバロンが堪りかねたように、キッと睨み付ける。
「(……兄さんもユールも、文句ばかり言うなら、自分たちが奥に行って!)」
「バロン!」
「(自分たちが何したの? 僕たち奥まで行って疲れてるの! 助けてくれるならともかく、文句ばかり言うなら絶交するから!)」
「バ、バロン?」
「(大嫌い!)」
兄の手を振り払い、部屋を出ていったのだった。
『……あぁぁ、可哀想に。可愛い子……一緒に行こう』
オロオロと骸骨は頭部だけのまま追いかけていく。
その非現実を信じられないユールは、
「あれ、どうするんだ……?」
と呟く横で頭を抱えうめく。
「バ、バロンに絶交された……」
「おい?」
「親父に殴られるより、メイに殴られるより、バロンに絶交される方が辛すぎる……に、兄ちゃんが悪かった! 反省してるから許してくれ!」
「おい、こら! このまま出ていくな! この隠し扉封印しなくちゃダメだろ!」
出て行こうとしたグインの肩を掴む。
「そんなのお前がやれ! 俺はバロンを追いかけないと!」
「うるさい! いつもいつもバロン、バロン、それしか言えないのか!」
「お前に言われたくないわ!」
二人は言い合いながらなんとか扉を閉ざし、建物から出ていったのだった。




