大人たちもホッとして、軽口を言います。
こちらはラインハルトとカーティス、そして、ラインハルトの次男のユール。
ラインハルト親子は馬に乗り、カーティスは馬車でカーティスの屋敷に戻ると、ルシアンは寝たきりで、妻のフレアが甲斐甲斐しく食事を口に運んでおり、ヨルムが元気になった兄とフェリシアとの間でニコニコと笑っている。
ヨルムは兄より酷い言い方をすると頭が回り、子供らしくない所もあるので、兄は一月ぶりに会えたフェリシアの具合はどうか心配していて、声をかけたいと思っているのに、それを全てヨルムに潰されているのだが、口下手なので黙り込んでお茶を飲んでいる。
何となくと言うよりも、まさしく命がけでフェリシアを救ったと言うのにこの仕打ちに心底、親友が不憫になったユールは、
「おーい、ただいま! フェリシア、ケルト。体はどうだ? それより、ヨルム。ケルトもフェリシアも万全じゃないんだ、俺と遊ぼうぜ」
とお邪魔虫を回収し、腕に抱えると、
「フェリシア。一月のこと話したくないと思うけど、牢でお前が会った……ネックレスと髪を受け取った子供が、お前が助かってよかったって泣いてた。それと、ケルトとルシアン叔父上が助かったのは、ネックレスとお前の髪とその子の力だ」
「えっ……あの、牢で会った?」
「あぁ。あの子もお前と同じ聖女だ。今はアルフレッド兄さんの娘になってる。元気になったら、ぜひ会いたいそうだ」
「アルフレッドお兄様の?」
「……あの子の……アルフィナの両親は、お前の死後に命を絶った。アルフィナだけ遺され、泣きながら両親とお前を殺した男を殺してやると教会にな。親父が助けて兄さんが娘にって引き取った。ケルトやルシアン叔父上を心配して、助かりますようにって祈ったんだ」
フェリシアとケルトは顔を見合わせる。
それにフレアが、
「そう言えば……ルシアンとケルトの上に淡い金の髪の束が見えて、それより濃い色の光が広がったのよ。あぁ、あの光は……二人が助かったのはフェリシアとそのアルフィナのお陰なのね……会ったら、お礼を言わなくては……貴方もケルトも聖女様に救われたのよ。……私は余り、教会の欲深い所好きになれないけれど、フェリシアとそのアルフィナが聖女だと言うのは信じているわ」
「えっと……奥さん……グイグイ、スプーン押し込まないで〜! 食べるから! ちゃんと元気になるからぁ!」
今回の事件で完全に嫁の尻に敷かれる結果になったルシアンは、しっかり者の妻に謝る。
ルシアンは長男と同じで不器用で口下手タイプだが、真面目すぎて仕事に集中してしまう。
夫が命を捨てようとした息子を救いたかったのは分かるのだが、それでも自分達を忘れていたことに少し怒りを覚えているフレアは、
「あら、ごめんなさい。貴方、仕事に集中していつもちゃんと食べないから……」
「い、今は手足がよく動かないけど、元気になったら三食ちゃんと食べます! だから許して!」
「本当ね?」
「うん! 約束する! ……でも、生のキャロットだけは……」
生野菜が実は大嫌いなルシアンは、涙目になる。
「あら、忘れていたわ。じゃぁ次からは、火を通したスープにしましょうね」
「うんっ!」
「じゃぁ、ヨルム。兄ちゃんと遊ぼうな? 叔父さん、叔母さん、ケルト、フェリシア、後で?」
ユールはヨルムを抱いて部屋を出て行った。
ラインハルトとカーティスは、その様子を笑いを堪えつつ見守っていたが、
「フェリシア、ケルトも無理はしないんだよ」
「そうだぞ、フレアも疲れたら休むことだ。一応、アルフレッドの屋敷に向かう方がいいかと思うが……」
「……そっか……本当に申し訳ないけれど、アマーリエ様とアルフレッドに匿って貰う方がいいよね。うちの屋敷は……」
ルシアンは自分以外は鬼のように強い一族を思い出し、大丈夫だと納得する。
「でも、カーティス兄さんのこの屋敷は?」
「もうほとんど荷造り出来ているから、先、荷物を送るように手配させておいたよ。ラインハルトとルシアンの屋敷程、ここは頑丈じゃないからね」
カーティスは周囲を見回す。
「まぁ元々、ここは聖職者で還俗した4代前の当主が作った屋敷だから、当主が休日に祈りを捧げる教会を作って、その周囲の住まいは外観は質素でしょ? 攻められても防御は無理だよね。私が力が残っていれば防御魔法するけど、もうすっからかん! ごめんね〜」
あはは!
と笑うルシアンに、カーティスは真面目な顔で問いかける。
「ルシアン、魔法は使えるようになるのかい? 元気になったら」
「……無理じゃないかな。ケルトは兎も角」
首をすくめる。
「結構禁呪と言うか、生命力も持っていかれる魔法だったから……一回で、かなりふらふら状態だったし、皆から……フレアは泣きながら私が生き返ったって言ってたから……もう無理だと思う。でも、それでもいいと思ってる。魔法は使えなくても……フレアもいるし、ケルトとヨルムもいるからね」
「貴方……!」
「心配かけてごめんね。フレア」
抱きついてきた妻を、よしよしと撫でる。
「でも、ここにこのままいたら、兄さんたちが退去できないでしょう? 私達も、アマーリエ様の元に向かっても良いかな? 私もケルトも戦力外だけど」
「当たり前だ。残るって言っても連れて行くさ」
ラインハルトは笑う。
「まぁ、今日すぐに行くのは無理だ。調子が良くなってからだぞ」
「そうそう。荷物と一緒に運んであげるよ」
カーティスは笑う。
「えぇぇ〜荷物! もうちょっと大事に運んでよ! 兄上!」
「あははは……」
「うふふふ……」
幼馴染や妻達にも笑われ頬を膨らませるが、次の瞬間笑い始める。
一月前から失われていた笑い声が、屋敷に戻った瞬間だった。




