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これから、どうすればいい?

 そしてこちらは、ユールとグレイの幼なじみコンビ。

 ユールは兄の怒りが一番怖いが、グレイは父とセシルが怖い。

 その上に、可愛い弟妹に嫌われるのはもっと怖い。

 どうすればいいのか……。


「どうしよう……」

「何が」

「あぁぁ……バロンとメイに嫌われたら、生きていけない……」

「はぁぁ? そこまで落ち込むか?」

「お前は分かってないんだぁぁ! どれだけバロンとメイが可愛いと思ってんだ! 俺のバロンとメイは可愛いんだぞ!」


 頭を抱えうめく。


「あぁぁ……あれだけ怒ってるってことは、最低でも1ヶ月は無視に闇討ち、メイに告げ口されて親父の修行だ……セシルにもすぐに伝わって嫌味が延々と」


 単純だがグレイは、長期のお仕置きが大嫌いである。

 忘れたいのにぶり返されるその鬱陶しさ……いや、そう思っているのを見透かされるのを未だに理解していないからセシルと父の制裁が下るのだと、いい加減理解してほしいと優しいバロンは思っているのだが……。


「今から追いかけても間に合うのか……置いて帰ったら地獄のシゴキ、待ってたと言ったら親父の罰ゲームだ」

「……どっちも嫌だな」


 顔を見合わせる。

 そしてどちらともなく、


「ぶん殴られる前に、大人しくついて行くか……?」

「そうだな……」


ノロノロと歩き始めたが、すぐに二人は足の裏に何かを察し、前に飛び越えた。

 振り返ると、床に敷き詰められていたレンガが突然隆起する。

 いや、レンガを固めるモルタルや土砂、粘土が水のようになり噴き上がったのだ。

 噴水のようになったそれは入り口を覆い隠し、時々レンガも舞い始めるため、戻れなくなっている。


「な、なんだ? これは!」


 ユールは叫ぶが、グレイは咄嗟に下げていた短めの剣を抜き周囲を確認すると、もう片方の腕でユールの腕を掴み走り出す。


「ユール、動け! これは多分悪霊だ! 地上にあげては大惨事になるぞ! マゼンタ達に合流しよう。武器を持って走れ!」

「分かった!」


 逃げる……いや、名誉ある撤退……マゼンタ達に合流すればなんとかなるだろうと言うのが作戦かどうかわからないが、二人は逃げる。

 すると、その『悪霊』は数が増えたのか、力を操ることに慣れたのか、隆起と陥没を繰り返し、一ヶ所に二人同時ではなく、個別に陥れようとし始める。


「くっそぉ! こいつら馬鹿にしてるだろ! あぁぁ、隙というか弱点が分かれば……」

「悪霊に弱点あるのか? あいつら物理攻撃喰らうはずがないだろう?」


 至極真っ当なことを告げるグレイに、


「うるさい! おわぁぁ!」


噴き上がる土の水(?)からうまく逃げられたと思った瞬間、レンガが足に当たりユールはバランスを崩す。


「おい、ユール!」


 グレイは腕を伸ばしユールを肩にかつぎ、走る。


「おろせ!」

「うるさい! お前、もう少し兄貴見習えよ! ここが戦場なら判断が遅れると率いてる部隊全滅だぞ! ラインハルト様だって、お前ほど無謀な真似はなさらないぞ!」

「おろせって!」

「俺だっておろしたいわ! お前のように重いの誰がかつぎたいか! でもな? 俺もセシルに馬鹿にされるほど迂闊だが、お前はふざけんなよっていうくらい馬鹿だ! 下見て走れよ! 一応俺は、親父に騎士団長をサポートするために教育されてきた。セシルは怪我もあるが元々参謀タイプなんだよ。参謀っていうのは軍を見て、戦場の場所やその土壌、天候、敵が騎馬隊か歩兵、弓などの遠距離攻撃か魔術師団を持っているか状況把握して、あれこれ指示するんだよ。ここではお前は将軍。ならふざけてる俺が力不足だが参謀として判断、指示するしかないだろう?」


 しばらく走り、そして警戒し迷路の角の向こうからそっと見ていたメイが、


「何やってるの?」


「メイ! 後ろ何かきてないか?」

「兄さんたちの後ろ? また何か見つけたんじゃないでしょうね?」


 嫌そうに顔をしかめられ、ユールを下ろしながらグレイは首を振る。


「触ってない! 絶対触ってない! だけど、突然この地面が噴き上がったんだ」

「噴き上がった?」

「うん、げぇぇ……」


 引き離したと思っていたあれが、ほんの十歩ほど先に現れたのを見て、眉を寄せる。

 体力を使ってユールを担いできたのに、それが全部パァである。


「どうしたの? うわぁ……これはツチノコね。厄介だわ」


 マゼンタがこちらを見つめ、まるで天敵にあったかのような顔になる。


「ツチノコの肉は魔術師にとっては魔力回復になるから、喉から手が出るほど欲しいものなのよね。でも、すぐ加工しなきゃ腐るし、私の火の力じゃ攻撃難しいの。すぐ名前の通りすぐ土に逃げ込むから」

「持ってる雷弾とか大地弾はダメなの?」

「雷弾でもいいけど、痺れがとれたらすぐ起き上がるわ。敵がどのサイズかレベルかで違うもの。人間かそれ以下で作ってるから、これじゃ数時間ね」


 あっさりと告げるマゼンタに、奥の道を探すのに集中しているバロン以外はだらだらと汗をかく。


「そんな強力なの持ってるの?」

「人間が死なない程度よ? 死んじゃったら自白できないでしょ? それに死なせたら教会の教義に反するのよ。一応これはアーティスさまに教わってたし、これもほとんどはアーティスさまが作ってくださったの。私は数個ね。大地弾は購入したの。高かったわ」

「えっ……どれくらい?」

「そうね? 前にラインハルトさまに頂いたお茶の葉が50グラムでこれが数個ね。一応、ティースプーン一杯の茶葉が一般のひと家族の生活費2週間分よ」


 その一言にますますドン引きする。


「マ、マゼンタ……」

「あぁ、安心して? 旦那さまと執事長さまにちゃんとご相談して、今回使った分はお金をいただけるの。でもラインハルトさまがユールやグレイが何かしでかしたら、二人のお小遣いで払ってもらうって言ってくださったわ」

「俺の小遣い? 嫌だぁぁ」

「今度武器を新しく買うか、研ぎ直すかしようと思ってるのに!」


 マゼンタの言葉に二人は絶望する。

 ここで疲れて、その上自分たちの小遣いまで取り上げられたらやっていられない。

 それに、騎士団長の息子のユールも月の小遣いは、学生並みである。

 何ヶ月分をマゼンタに渡すことになるだろう?


「仕方ないでしょ? 筋力は毎日鍛えてこそだけど、魔力なんて生まれつきもあるけど、それを使いこなすための集中力と知識と想像力が必要なのよ? あぁ、騎士や剣士を馬鹿にしてないわ。体力とセンスも必要ですものね?」


 マゼンタは素っ気なく言うと、ツチノコを見る。


「これを倒してお金に換えたらタダにするわ。一頭でも元がとれるわ」


 その言葉にユールは大事な小遣いを死守するために、ポケットから出した雷弾と色違いの大地弾を握りしめたのだった。

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