奥に眠るは毒か薬か?
マゼンタは周囲の気配を確認し、バロンとメイは壁や天井、床を注意深くチェックする。
さほどせずユールとグレイが合流するが、マゼンタは集中する双子に向かって行こうとする二人に蹴り付け、
「喋るな! いい加減、大人しくしないとぶん殴るわよ? 一時的に喋らなくしてやるから!」
「なんでだよ!」
「メイは普通に見てるだけだけど、バロンは無意識に古代魔術の跡を辿ってるのよ。バロンは確か魔術の勉強してないんでしょ? 無意識とはいえあれだけの力出してたら、消耗するわ。力以上に、精神的にも……それを邪魔しないの!」
ギロっと睨む。
「さっきからあんた達は邪魔しかしてない! 本当にふざけるなら帰って! ……二度と顔見たくない!」
マゼンタは先に歩く双子に近づくと、ユールとグレイを見ることもしなかった。
「またやってる。ごめんね? マゼンタ」
「いいよ。もう諦めた。それより連れてくるんじゃなかった」
「まぁね」
メイは自分もおてんばだが、ふざける時はある程度分かっているし、オンオフすぐに切り替えないと命に関わることもある。
メイの父はラインハルトの遠縁であり、副団長でもある。
その子供として辺境騎士団に入り、戦場で生きてきた人間なのだから、気を抜いたらどうなるか分かっているはずである。
「あぁぁ……お兄ちゃんやユールさまといるくらいなら、アルフィナさまと遊びたいわ」
「そうそう。私も。あ、バロンのこと大好きよね。アルフィナさまは」
「うんうん! それにラインハルトさま大好きなんだよね〜? 私も、バロンも大好きなんだ。ラインハルトさまってかっこいいよね? 強いし、あの性格も」
「えぇぇぇ? ラインハルトさま?」
「あ、恋愛じゃないよ? 私とバロンを助けてくれたんだ。命の恩人!」
メイはニコッと笑う。
「それにアルベルティーヌさまって言う、素敵な大人に……あんな女性になりたいって思うもの。お二人はとても仲睦まじいのよ? お二人が喧嘩されるところ見たことないわ」
「そうなんだ……」
「うん、そう」
「あ、私もアルベルティーヌさま、好きよ? とてもお美しいだけじゃなく、女性らしい所作とか憧れるわ」
二人は顔を見合わせるが、すぐに、
「さぁ、気を取り直して調べましょうか」
「そうね」
頷き合い、マゼンタは術を、メイは目で、壁や床をじっと見つめるのだった。
しばらくして、
「あ、あった!」
メイの声にマゼンタは振り返る。
「えっ? 見つかった?」
「うん! ほらここ!」
「えっ……これは……」
「これは、百合でもないし、月下美人でもないわ」
胸をはるメイに戻ってきたバロンは、
「(ダリアだね。花言葉は裏切り)」
「う、裏切り?」
「(うん。ある国の皇妃と侍女のエピソードからだったかな。花びらが多くてもこっとしてるでしょ? 美しいからよく花壇には植えられてるね。他に、見つけたのはほら、ここにエリカ。こっちにはキンセンカ、ムスカリ、アリウム、ヒアシンス。ここにはアザミ。あのね、ヒアシンスは紫のものが悲哀、エリカは孤独。キンセンカは失望、別れの悲しみ。ムスカリも失望、無限の悲しみ、深い悲しみ、アザミは触らないで、厳格)」
「触らないで?」
「(アザミはトゲがあるからね。一応手を加えたら食べられるんだよ?)」
戦場体験をしているバロンは答える。
「で、今回この花言葉を信じればいいのか……悩みどころだよね」
「本当ね。3人で行けるかな」
「行けるわよ。で、バロン。奥はどうだった?」
「(うかがってたルートよりズレてる気がする。まぁ遠回りなんだけど……奥は何もなさそうと言うか、隠し扉っぽいね)」
「そうなのか……奥そこに行ける道はなかったの?」
「(ない……多分。でも、この花の中で一つが正しいんだと思う)」
バロンの言葉に二人は考え込み、そして、
「ダリア……じゃないかな?」
「そうだと思う」
「(じゃぁ行ってみようか)」
マゼンタはダリアの掘られた石を押す。
すると、すぅぅっと押し込まれ、ドン、ドンっと周りの石が動き始める。
「カラクリ?」
「そうみたいだね」
「(気を抜かないで! 何かあったらダメだから)」
「分かった! マゼンタとバロンは周囲に注意して」
メイは壁の変化をじっと警戒しつつ見守っていた。
出たり入ったりする壁は、こちらに近づいてくるようなら逃げるべきだと思っていたが、次第に広く奥に通じる道を構築する。
そして最終的にピタッと奥に向かう隠し扉を生み出し止まった。
「これでいいのかしら? それに私たちが入って閉ざされたら怖いよね? 戻って来れなくなるもの」
「あ、これ持ってきた」
「何を?」
「兄さんの剣。兄さん、破壊好きだからね。ヒビ入ってるからいいでしょう」
「(えっ? いいの?)」
バロンは口をパクパクさせる。
「いいのよ。この扉が閉まらないように立てかけときましょう。ある程度役に立つはずよ」
3人はメイが背負っていた剣を鞘ごと突っかい棒にした後に、それを避けながら入っていく。
そして周囲を警戒しながら進んで行ったのだった。




