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【番外編】双子のメイド〜瓜二つの双子

エリとリリの話です。

本当はヘタレ執事ガイとリリを書きたかったです(笑)

 王弟であり、若くして宰相の地位に就くアルフレッドの屋敷で、アルフレッドの上の娘アルフィナには瓜二つの双子のメイドがいる。

 姉がエリ、妹がリリである。

 一度見ただけでは覚えられない程、背丈も体格も顔もほぼ一緒で、髪も金髪なのだが、ただ一つ違うのは瞳の色である。

 エリは青、リリは青紫である。




 エリとリリは地方のとある貴族の家に生まれたらしい。

 だが、その地域は迷信深く、双子や紫の瞳の子供は魔物だと伝えられており、しかも、生んだ母親が産後すぐ死んだこともあって、父親ではなく祖父母にあたる夫婦が孤児院に押し付けて去っていったらしい。


 らしいと言うのは、その孤児院では子供の出入りが多く、それに見目のいい子供はすぐに何処かに行くことが多かった。

 院長は、その孤児院で働く者に、子供達の養子先が見つかったと言っており、貧しいその地域は、仕事を失っては生きていけず、皆口をつぐむことが多かった。

 実際、その孤児院は名ばかりで、他国に奴隷として売られたり、貴族の口にも出来ない慰み者として送り出され、そしてその金は、孤児院の院長とその地の領主達の懐に入るのだった。


 そして、エリとリリは普通の子供達より目鼻立ちが整っており、肌も白く愛らしかったので、院長達は磨き上げて奴隷市に出す日を待っていた。


 だが、それを前もって調べ上げていたアルフレッドと騎士団長のラインハルト達が、孤児院と奴隷商人達を一気に制圧し、売られそうになっていた女性や子供達を保護した。

 その時に、無表情で鳥籠型の檻に押し込められていた双子を見つけたのが、アルフレッドの乳兄弟で執事見習いのガイだった。


 二人は抱き合い、目は生気にかけ、心を閉ざしていた。


 鍵を壊し、扉を開くと、


「おいで。君達は自由だよ。お兄ちゃんと行こう」

「……」

「ほら、ご覧。お兄ちゃん達は、悪いことをした人を捕まえた。君達はお家に帰れるよ?」


エリを抱いていたリリは青紫の瞳を向けて、


「……おうちないもん。リリのせいだもん……リリは化物なの」


と呟き、ボロボロと涙を流す。


「エリは悪くないの……リリは化物なの……」

「何で? 化物はお兄ちゃん達がやっつけたんだよ? だからおいで。お兄ちゃん達が守るから」

「……」


 顔を背け、心を閉ざそうとする双子に、ガイは檻に入り、二人を抱え上げるとそのまま連れ出した。

 抵抗すらしない双子に焦り、アルフレッドの元に走る。


「旦那様!」

「どうしたの?」


 20歳……初恋の相手は手に届かない所に行ってしまったアルフレッドは、夜遊びはしないが、外で暴れる……今回も本当は待機をするはずが、この大捕物の総大将のラインハルト達の目を盗み、ここまで来ていた。

 少々ヤンチャはすぎるが、若さゆえ仕方がないと両親や伯父、そして生母であるアマーリエも目をつぶっていた。

 抵抗するものを全て始末し……自供させる為殺してはいないが、歩けないようにしたりしておいた彼は、剣の血をぬぐい、鞘に納める。


「あのっ! あの檻に入れられていた子供達です。少し話しただけですが、心を閉ざしてしまって!」

「……うわっ。可愛い子だね。誘拐されたの?」

「違うようです。ほら……」


 先見つけた時に見えていた左手の甲の印……前前から探りを入れていた孤児院の子供に院長がつける焼き印……。


「くっそっ! あのクズ! ……あいつは殺す! 絶対に殺す! 領主共に!」

「旦那様。そんな言葉を使うものではないと、常々申し上げておりますが?」

「口うるさいぞ。ガイ。いつのまにかジョンやイーリアスが増えた」

「……坊っちゃまと申し上げた方が、よろしいでしょうか?」

「同い年で、坊っちゃま言うな。執事見習い」


 睨み合う二人に、妙な体勢のまま抱かれている双子が、身動きをした。


「旦那様。一人お願いします」

「分かった」


 アルフレッドが一人を抱き上げると、双子がハッと我に返り、離れた片割れに手を伸ばし泣きじゃくり始める。


「わぁぁ! 待って! 泣かなくても大丈夫。ほら、そこの馬車に乗ろう。お兄ちゃん達が安全な所に連れて行ってあげるから!」

「一緒」

「一緒じゃなきゃ」

「大丈夫。一緒だよ」


 あやしながら馬車に乗り込む。

 すると、目立つからと言う理由で外に出られなかったラインハルトが、


「おらっ! アル! テメェ、俺には出るなと言っておいて、そっちは何してた?」


巨軀を押し込め、苦々しげに舌打ちするのを見て驚いた双子が、本格的にギャン泣きする。


「うわっ! 何だ? このちこまいのが……」

「兄上、泣かせないで下さいよ。ガイが保護した子達です。ほら例の」

「あぁ、あのクズが、今日の目玉商品とか抜かしてた……うーん。よく似た双子だなぁ」

「確か、エリとリリと言っていたはずです。多分エリーゼとかリリーナと言う名前でしょう」

「で、どっちがどっちだ?」


 グズグズしている双子をアルフレッドの横に並べて座らせ、持ってきていたお菓子を握らせていたガイが、


「リリが青紫の瞳です。エリは見ていません」

「エリ、おやつ食べないの? 毒は入ってないよ?」


 アルフレッドは両手を握ったままのエリに問いかける。

 すると、ぐらっと倒れ込んだ。


「えっ? エリ? ちょっと待って!」


 双子が抱き合っていた為、確認していなかったが、ボロボロの服の裂け目から覗く身体中にあざがあった。

 額に手を当てると熱が出ている。

 それに、ガイも確認すると、リリも腕や足などに青黒いアザがあった。


「……痛かったね……怖かったね……ごめんね、ごめん。もっと早く助けていたら……」


 声を詰まらせ、アルフレッドは涙声でエリの頭を撫でる。


「ごめんね。私が……」

「メソメソ泣くな! アル! お前がこの地域の領主か? この国の国王か? お前が謝ったところで、こう言う悲惨な目に遭う被害者が減るのか? 泣く前に、誓え! 1日でも早く母親のスカートの後ろに隠れていると、陰口を叩かれないようになれ! 一人でも救える命をお前の力で救えるように、権力を行使出来るようになれ!」

「……はい、兄上」

「ほら、行け。早く治療を」


 ラインハルトは、自分の横にガイを座らせ、御者に指示する。

 そして、馬車は走り始めた。

 双子は、クッキーを握ったまま寝入ってしまう。

 用意していた毛布を双子にかけた。




 次に目が覚めた二人は、綺麗な部屋と清潔なベッドに寝かされていて、お互いを見ると、手当てをされ、真新しいネグリジェを身につけていた。


「まぁ、目が覚めたのね?」


 微笑むのは所々白髪はあるが丁寧に撫でつけられ、結い上げている貴族の女性。


「お帰りなさい。エリア、リリア」


 二人は抱き合うが、女性は警戒した子猫のような双子に、


「私は、レディット伯爵夫人ユイシア。貴方達の母となりました。私は、夫と離婚していて子供がいないのです。まぁ、別れた夫とは政略結婚ですので、向こうには血の繋がりのない馬鹿娘はいますけれど、あの子には財産を譲るつもりはありません。昨日、とある方から養女にと貴方達を紹介されました」

「リリだけ?」

「エリだけ?」

「二人共ですよ。ほら、ご覧なさい」


大切そうに膝に置いていた書類を見せる。


「青い目のエリアはエリア・ブルーベル、紫の瞳のリリアはリリア・ウィステリアです。もう手続きは済んでいますからね? 安心なさい。貴方達に手を出すと大変な目に遭うのだから……あの男や愛人、その娘が愚かでないといいわね」


 最後の言葉は聞き逃したが、双子はユイシアの微笑みにホッとし、救われたと思ったのだった。

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