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アルフィナのお祖母様と屋敷の人々

 アルフレッド達が住まうのは、この国で三番目に広い屋敷である。

 一応、アルフレッドの名義の屋敷なのだが、忙しいのと行動派のアマーリエが自分や仕えてくれている者達に過ごしやすい屋敷にと改装と、庭に小さい別邸などまで作らせた。

 国費を使った訳ではなく、アマーリエ自身の財産で作ったものであり、周囲は何も言えない。

 それに、アルフレッドもほぼ仕事などであちこちを飛び回っていた為、屋敷が改装され、しかも居心地がよく整えられているのだから文句は言わない。


 ただ、一回アルフレッドが離婚した時には、アマーリエは激怒し元妻の部屋を大改装した上、元妻が持ち出した宝石類の全て返還を要求した。

 返還がない場合は自分の実家と、義息である国王の正妃の実家の国にも訴えると強気に出た為、慌てて国王は愛人に言い全て返還され、それを全部売り払い、新しいものを購入した。

 息子の嫁とかなりそりが合わなかったらしい。


 ご機嫌の母と共に向かった部屋は、アルフレッドとアマーリエの部屋のほぼ中央。

 どちらに向かっても、どちらかの部屋の扉があるようになっている。

 もし、アルフィナが誤って部屋を出た時、迷わないように配慮したらしい。

 ちなみに、元はアルフレッドの前の当主の部屋だった。


 ベッドは大きく、そして乳母のミーナ達の待機する部屋があり、窓の向こうには広大な庭がある。

 庭師が仕事をしているが、その庭師と共に、アマーリエ自らが毎朝飲むフレッシュハーブティーの為にハーブガーデンを手入れする。


 ミーナとエリとリリにアルフィナを任せ、隣室の居間でガイがお茶の準備をする。


「母上……」

「……か、可愛い子ね。どうしましょう!」


 扇をパチンと閉じたアマーリエは、目をキラキラさせている。


「ブロンドと赤銅の混じった綺麗な髪……手足が長くて子鹿か子猫みたいね。声を聞いてみたいわ」

「可愛い子ですよ。本当に素直で……ね? セシルはどうだったかな?」

「あ、はい。ミーナおばさんに出されたクッキーを食べていたのですが、ずっともぐもぐしているんです。ごっくんしないの? と言ったら、もう、今日は終わりなんだと。食べ残しはどうするの? と言ったら明日食べるというので、残しちゃうと捨てられちゃうから食べちゃおうねと。それにジュースを喜んでました。何か欲しいものあるかな? と聞いたら、兄上……お父さんが飴をくれるから、嬉しいと」

「いやぁぁ! 可愛いわ!」


 身悶える。


「どうしましょう。可愛いわ! 私の孫の名前は?」

「アルフィナです。年は6歳程だと思います……?」


 隣室から扉が開き、パタパタと駆けてくる少女。


「お、お父しゃま!」

「お嬢様。旦那様はおられますよ。お休みしましょうと……」


 じいやであるジョンが、上着を持って入ってくる。


「申し訳ございません。旦那様、大奥様、セシル坊っちゃま」

「構わないよ。アルフィナ? 目が覚めたかな?」


 抱きついてきたアルフィナを抱き上げ、微笑む。


「お、お父しゃま。えと、ここはどこですか?」

「お父様とアルフィナと、アルフィナのお祖母様のお家だよ」

「お、お祖母しゃま……?」

「お父様のお母さん。アルフィナのおばあちゃん。アマーリエお祖母様だよ。初めましてって言おうね」


 アルフレッドに示され、美貌の貴婦人を見、目を見開いた。


「あの、あの……お、お祖母しゃま。は、初めまして。アルフィナでしゅ。アマーリエお祖母しゃま、だ、大しゅきでしゅ!」


 緊張したのか、つまりながらもちゃんと挨拶をして、ぺこんと頭を下げるその仕草に、アマーリエは嬉しそうに目を潤ませ、


「まぁ……まぁまぁまぁ……アルフィナ。お帰りなさい。お祖母ちゃまのアマーリエよ。帰ってくるのを待っていましたよ。あぁ、こんなに可愛いなんて……あぁ、早く戻ってきてくれてよかったわ」


立ち上がり駆けより、アルフィナの頭を撫で、頬にキスをする。


「アルフィナ。良い子ね。お祖母ちゃまは貴方の味方よ。何かあったらお祖母ちゃまに言いなさいね?」

「お祖母しゃま、ありがとうございましゅ。嬉しいでしゅ」


 キスを返し、頬を赤くして照れる孫娘に、アマーリエは一瞬にして心を鷲掴みされる。


「アルフィナ……何て可愛いのかしら……お祖母ちゃまですって、嬉しいわ。どうしましょう。あぁ、一週間後にと思っていたけれど、明日にでも来て貰おうかしら」

「母上。アルフィナはお人形じゃないのですよ」

「だって、あぁぁ、お祖母ちゃまって呼ばれるのって最初は複雑かしらと思ったのだけれど……嬉しいわ〜。アルフィナ、元気になったらお祖母ちゃまとお出かけしましょうね? 何を見に行こうかしら、楽しみね」

「はい。お祖母しゃま、大好きでしゅ」

「お祖母ちゃまも大好きよ」


 席に座り、お茶を一口すると、


「そう言えば、フェリシアやルシアン殿、ケルト坊やは助かったと使いが来たけれど……孫とも呼びたくないあの子はどうなったの?」


娘を向かい合うように膝の上に乗せ、お菓子を選ばせているアルフレッドの横で、セシルが、


「母后様、王太子だった者はフェリシアを害したということで、教会で延々と元男爵家の令嬢と口づけを繰り返し続けるという罰を与えられました」

「まぁ! それは情熱的ね。それが罰なのかしら?」

「確か、ベールをあげた状態から、口づけをするまでが終わると、また同じ行動を全く変わらず繰り返すので、強制力が働いているようです。それに、新婦の唇の口紅が落ちているのですが、それはそのままですので……時間は巻き戻らないようです」

「あらあら……残酷だけれど、それほどの事をしたという事ね。こんな事言うのは本当はいけないけれど『ザマァ見やがれ! このクソガキが! 永遠にそうしてなっ!』だわね」


コロコロ笑うアマーリエの過激な一言に、彼女付きの執事のイーリアスが、


「アマーリエ様。お言葉が乱れておりますよ。言葉の乱れは心の乱れと申しますよ」


と声をかける。


「だって、イーリアス。あの優しく可愛い罪もないフェリシアを殺して、笑っていたと言うのよ! 許せないでしょう?」

「そうですね……」


 手袋をした手に、いつのまにか細いナイフが握られているのを見て、セシルはギョッとする。


「まぁ、ザマァされていなければ、私共が、代わりにりに行ったかと……本当は、投獄されていた牢に行くつもりでしたから……聖女様であられるフェリシア様を、本当に断頭台にとは思いませんでした……貴族であり、聖女様のあの方をあのような目に遭わせるとは思いませんでしたよ。本当にザマァ! でございます」

「イーリアス。アルフィナが怖がるからそれはやめて。アルフィナ。あのおじいちゃんが、この屋敷で一番強い家令兼お祖母様の執事のイーリアスだよ。その次に偉いのが、執事長でアルフィナのじいやのジョン。イーリアスとジョンは兄弟。だからじいやって呼びなさい。そして、ガイはジョンの息子でお父さんの執事なんだよ」


 ナイフを仕舞ったイーリアスを振り返ったアルフィナは、


「イーリアスじいや。えと、アルフィナでしゅ。よろしくお願いしましゅ」

「お嬢様、お帰りなさいませ」


イーリアスに頬を赤くして笑う。


「ただいま帰りましたでしゅ。じいや、ありがとう」


 アルフレッドの屋敷は可愛いお嬢様の為に、晩の食事の準備に力を入れるのだった。

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