男は愛嬌が必要なんだ。
一応、アルフレッドとキャスリーンは、アルフィナを寝かしつけようとしたのだが、
「おとうしゃまがいい……アユフィナ、おとうしゃまとおかあしゃまといしょにねんねしゅゆ……いしょいいにょ」
小さな手を伸ばし、うるうるとした目で訴えるアルフィナに、ジェイクは呟く。
「……か、可愛すぎる……何て可愛いお嬢様なんだ! 俺も、ぼっちゃまのお守りがなかったら、お嬢様を抱っこして遊びたい〜!」
「でしょう? うちのお嬢様は可愛いんです! しかもお嬢様は滅多にぐずったり、あんな風にわがままを言わないのです。叔父上。あんなに可愛いお嬢様、しかも甘えてる姿なんて貴重ですよ。だから……」
アルフレッドとキャスリーンは顔を見合わせ、そして幸せそうに娘を抱きしめる。
「アルフィナ! 大丈夫だよ! お父様いるからね?」
「そうよ! お母様もいるから大丈夫よ?」
「本当? ……おとうしゃま、おかあしゃま、だいしゅき」
「お父様もお母様も、アルフィナのこと大好きだよ」
「泣かないで、アルフィナ……離れないわ」
両親はベッドに座り、アルフィナを抱きしめて涙をぬぐい、頬にキスをする。
「どこにも行かないからね? 一緒にねんねしようね?」
しばらくして、キャスリーンの手を握り、アルフレッドに抱っこされ、すやすやと寝息が漏れる。
「アルフレッド様、キャスリーン様。アルフィナ様とお休み下さい。私はガイと向かいますので」
ジェイクは小声で告げると、頭を下げさがる。
そして、
「ガイ。ユール様というのは?」
「確か、フェリシア様とケルト様とご一緒か、父上のラインハルト様や兄上のセシル様とご一緒ですね」
丁度、荷物を持ってきたリリとエリに声をかける。
「リリ、エリ。その荷物は?」
「あ、姫様のお着替えです」
「それに姫様の大事にしているお人形ですわ。リリ。私が持っていくから、ジョセフ様とガイ様のお手伝いをね? では失礼しますわ」
「あ、エリ!」
アルフィナの着替えを妹の手から取り上げ、優雅に頭を下げると去っていった。
「あ、あっ。エリ〜?」
「リリ。ついてきてくれるかな?」
「は、はい」
リリは、二人の後ろを小走りでチョコチョコとついてくる。
その姿は小動物のようで、ジェイクは甥がこの少女を好きになった理由が分かった気がした。
双子のジョンはおっとりしているが、かなり男気のある性格で、ジェイクが悪戯をすると問答無用とぶん殴って、ズルズル長兄の元に連れていったものだった。
だが、可愛いものが好きで……昔、一度結婚すると聞き式に参列した時、新婦のミーナを見て、あぁ、ジョンの好みだと感心した。
ミーナは母性が強い。
女官長ではあるが、アマーリエがミーナやその家族に求めていたのは、忙しい自分に代わって可愛い息子に愛情を注いで欲しいと言うことと、勉強は別にして、礼儀作法……それぞれの時に必要なマナーに言葉遣いなど……それに父親の存在と兄弟……家族。
自分が求めて止まなかったものを、息子に与えてあげたいとアマーリエは願い、それをミーナとジョンは理解した。
その為、アルフレッドはガイの弟として、それなりの年まで育った。
そして、乳母一家に愛され、忙しい母を尊敬し、母を支えられる存在になりたいと努力したのだ。
しかし、アマーリエの側にいるのは、ジェイク達の幼なじみで、副女官長のセラ。
ここにアマーリエとアルフレッドが住まいを移した時、アマーリエは幼い時から側にいたセラではなく、ミーナを女官長、セラを副女官長とした。
ミーナはそれを聞き、自分はそんなにできた偉い人間ではないと首を振った。
その時にアマーリエは、
「貴方は、私と共にアルフレッドの母です。この屋敷はアルフレッドのもの。私はその一角を借りているだけなのよ。貴方はアルフレッドの乳母で、あの子に何かあった時には支えて欲しいの。どうかよろしくね?」
と、手を握り頼んだ。
その言葉に、ミーナは涙ぐみ、命懸けでお仕えすると言ったのだった。
しかし、元々おっとりとしているので、副女官長のセラと良くお茶を飲みながらこの屋敷の内部のことを相談するらしい。




