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プロローグ

 ある緑豊かな国の第一王子である王太子は、自分の恋人の男爵令嬢のマリアを苛め傷つけたと言う罪で、


「私は、私自身や家族が恥じるような行為を致しません!」


と言い続けた、元婚約者の公爵令嬢フェリシアを処刑した。




 その翌日である今日、教会でマリアを妃に迎える。


 しかも、マリアのおねだりで、昨日愛娘を失った公爵夫妻やその子供達に、


「結婚見届け人として、式場に出席せよ! 来なければ公爵位を取り上げ、遠方に追放する」


と命令した。

 流石に、国王夫妻はその言葉に真っ青になり辞めさせようとしたが、余計に意地になり、


「じゃぁ、公爵家の全員を殺しましょうか?」


と言い放ち、母妃は倒れ、国王も式に出席しなかった。

 しかし、その方が都合が良かった。

 ツンとすました、公爵一家の表情が変わるのが見られるのだから。


 そして、結婚式が始まり、幸せの瞬間である誓いの口づけになったのだが、何故か自分たちが口づけを繰り返しているのに気がついた。


 ベールをとり、白粉をベッタベタに塗りたくった顔の中、唯一血色のように真っ赤に塗られた口紅のマリアのそれに、自分の唇を寄せる。

 もう少し貪ろうか、どうしようかと考えていると、いつのまにか、再び目を閉じたマリアの顔に自分の顔を近づけている自分がいた。


 ループだ……。


 何十回繰り返したか解らない程、キスをして、自分は思い出す。




 実はループは二度目である。

 一度目は、無実のフェリシアの処刑の瞬間だった。


 断頭台の前に出されたフェリシアは両手を後ろに戒められ、白いボロボロの衣と、美しかった金色の髪はくしゃくしゃでやつれていた。


「フェリシア!」

「あぁぁ! フェリシア!」

「何で、何でこんなことに!」


 一角で嘆き悲しむ声に、振り返り、


「お前達の娘がしでかした事が、どれ程だったか思い知るが良い!」

「私の娘が何をした!」

「黙れ! お前達一族を、滅ぼしても良いのだぞ!」


と愉悦の笑みを向けた。

 いつも無表情のフェリシアの、苦しむ顔を見られる……それが楽しみだった。

 しかし、フェリシアは何の表情も変えず、断頭台に首を差し出す。


「おい、何か言わなければならない事があるだろう?」

「お父様、お母様、お兄様、お姉様……私が偽りを言えと脅され、それを拒否したらこのようなことになりました。でも嘘は言えません。本当に今までありがとうございます」

「何を言っている! マリアに謝れ!」

「私は、お父様とお母様の子供で幸せでした。お兄様、お姉様……」

「うるさい! 謝罪も言えぬなら、口を封じろ!」


 その瞬間、顔色の悪い死刑執行人が、躊躇いがちにギロチンを落とした。

 下にいた補助が、さっと白い布で丁寧に包んだ。


「おい、こら! 髪を掴み、その女の顔を見せろ!」

「申し訳ございません。陛下の命令で、フェリシア様をこれ以上穢す事なく、五体満足のお身体で公爵家にお返しせよとのことです」


 近くにいた宰相が告げる。


「なんだとぉ!」

「これを破れば、明日の式は取りやめるとのことです」


 その言葉にマリアは、


「ねぇ、殿下。早く帰りましょう? 明日の結婚式の前に嫌なもの見ちゃったわ」

「そ、そうだな。穢れを受けたし、恐ろしいものを見せた。帰るか」


と言いながら2人で帰ったはずだった。




 しかし、


「うるさい! 謝罪も言えぬなら、口を封じろ!」


と自分が叫ぶ声と共にギロチンが落とされる音、フェリシアの頭部を布で包むと言うのが繰り返された。

 段々と悪夢のように思え、近くにいた魔術師長に頼み、その術は解いて貰ったが、もう二度と解けないといわれたのだった。




 二度目は解けないと言われても、最初は幸福感に満たされていたが、次第に血色の唇が気持ち悪くなり、周囲を見る余裕ができた。


 花嫁の親族は嬉しそうだが、愛娘を失った公爵夫妻は立っているのがやっとで、子供達に支えられている。

 そして、フェリシアの学校での友人の貴族令嬢、令息たちやその家族、そして、中下級の貴族達が、今まで見たこともない嫌悪の目で見つめていたことに気がつき、ゾッとした。

 その中に、自分とフェリシアの幼馴染で、親友の騎士団長の次男と、魔術師長の長男の憎悪の眼差しがあった。




 二人はフェリシアを愛していた。


 あの時、まだマリアに会っていない頃、婚約が決まった時に2人にこう言った。


「フェリシアを大事にする。父の命令だから婚約した訳じゃない。信じて欲しい」

「信じられるか! お前は、今まで何人もの女と付き合ってきただろ! 何を言う!」

「僕もそう思う! ユールなら信じられるけどね!」


 言い切られ、ムカっとした自分は言い返す。


「信じろと言ってるだろう! もし、私が裏切った時にはそれを思い出させ、後悔に苛まれ続けるまで繰り返し見せてくれ!」


と言った。


 そうだ……そう言った。


 次第に青ざめていく自分。

 そして縋るように、震える声で、


「ユール、ケルト……」


と呼びかけた。


 ニヤッと騎士の正装、しかし、喪章をつけていたユールは嗤う。


「ようやく気がついたか、待ってたぜ。口先だけの裏切り者」

「永遠に見てよ。醒めぬ悪夢を……」

「えっ?」


 漆黒のローブのケルトは、手に持っていた杖をかざす。


「『時の魔法、一部を残し解除。そして遡り、フェリシアを救え。我が命を賭して、この二つの術を完成させよ』」

「『ケルトの術を補助する。ケルトの命の代わりに、我が命を賭し、フェリシア嬢の時間を取り戻せ』」


 魔術師長が、息子の言葉に重ねるように唱えた。


 周囲が光に満ちた。




 その国の教会は二つあり、一つは呪いの教会、もう一つは祝福の教会と言う。




 呪いの教会とは、昔、この国の前にあった国王の息子が悪女に騙され、婚約者であった聖なる姫を罪に陥れ、断頭台で殺した。

 そして悪女と結婚しようとしたが、聖なる姫を奪われた神は許さず、永遠に悪女と口づけを何度も続ける罰を与えられた。

 しかし永遠なのは時間と不死のみ、2人は不老ではなく、次第に老いていくお互いに口付けると言うものである。

 その教会は壊されることなく、神の怒りを伝える遺物となった。




 祝福の教会は、断頭台から降ろされた聖なる姫の実家だった建物で、姫の幼馴染である青年が神に、無実の罪で殺された姫の命を返して欲しい、その代わりに自分の命を捧げますと祈り続けた。

 すると、神は青年の真摯で誠実な思いと願いを聞き、姫は命を吹き返した。


 国王はその様子に、国をその青年に譲り、その妃に聖なる姫がなった。

 2人は国を豊かにし、賢王と王を支えた優しい妃と後々まで称えられることになったのだった。

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