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彼女は防音室に押し寄せてきた教師たちに肩をゆさぶられ、両腕を掴まれ、両足を抱えられ、運び去られるところであった。しばらく抵抗を彼女はしなかったが、全身を急激に縮めて、それから弛ませた。振りほどくのに成功して、窓から、生徒会館の二階から飛び降りて、自身を校外に放逐した。それが顛末であった。


鴻上元教諭のスキャンダルはメディアに報道され、校内の人間の個人情報漏洩とともに生徒との不倫関係も激しくバッシングされた。問題の動画も週刊誌などでその濃密な内容が紹介された。二人の全裸は顔と局部にモザイク処理がなされていたが、ネット上では当然そうした配慮もなされないまま、大規模アップローダーのURLが貼られ続ける。


そもそも一部のwinnyユーザーが面白半分に私立の女子校教師がキンタマウィルスにかかったというスレッドを2ちゃんねる内で立ち上げたのがことの発端であった。パソコン上のデータの全てをネットワーク上に垂れ流しにしてしまう睾丸。


女子校教師というキーワードが男どもの好奇を集めることは必然なことで、たちまちメールの履歴を代表とするPCのあらゆるファイルが物好きたちによって解析され、個人特定にいたる。それには当然ミカコも含まれており、そうした流れを見た善意か悪意の第三者が両者に、すべてが白日の下となっていることをメールで告げるのであった。当然自宅と携帯の両方に電凸もする。中にはスネークと称して、彼らの住居の前でストーキングを行うものもいたようだ。それらの出来事は掲示板の過去ログを見る限り、彼女が愛の告白をしたその日から次の日の間で起こったようだ。ミカコが執拗なイタズラに心折られて携帯電話を解約したことから逆算してみてもそういうこととなる。


学内の関係者がそれらのことを知るのにも三日で充分だった。社会正義に燃えた名無しは校長宛に告発のメールをするし、彼らには当然教師や生徒も含まれていて、怪文書がほぼ校内全員に行き渡る。


ミカコは結局そのまま退学し、引っ越した。鴻上先生は懲戒解雇を待たずに自主退職。まともな神経であれば、逃避せざるをえない。そしてどこまで逃げてもネットはとらえて離さない。全国に顔が、裸が知れ渡って、それがいつまでも記録されていると言い切っても良いくらいなのだから。あらゆる角度に張り巡らされた情報という照明は彼らに影をつくることをゆるさない。放送室で全校に向けてあえぎ声を流したところで、すでにもう周知のことだったというわけだ。彼女は当然のことを泣き声にしただけなのだ。


しばらくして彼女はwinnyのファイル検索で自分の名を見つけた。鴻上先生のファイルは当然ウィルスに染まっており、その丸ごとが彼女のハードディスクに入っているのだから、何の対策もなされていない彼女のパソコンもその暴露ウィルスに感染していて当然だ。彼女から漏れたミカコや鴻上先生の情報、そして新たに彼女自身の情報を載せたそれが永久にただよい続ける。また誰かにそれが転移し、見知らぬその人はミカコであり、コカミであり、彼女たちそのものとなるだろう。彼女はそれで良いと思ったのだ。


ミカコカミである彼女はあのどこまでも続く世界蛇のマフラーを世へ向けて投擲したのだ。そしてそれはすぐ、間もなく俺のいた墓場にまで届くほどの長さとなる。彼女が編んでも編まなくても、それは自身の尾を噛んで広がりゆくのだ。例えば俺がお前にミカコという名について語り続けざるをえないように。


饒舌っていうのにはほとほと弱ってるよ。自分自身のそれもそうだし、他の人のそれにも。母から世の中に誕生するということは、もうすでにそうした構図に絡みとられた状態でしかないということなのだろう。そのことをいくら認識しても、また新たに同じような構造を、産むことでしか俺は存続しえない。


そんな俺をお前はどう思うだろうとは今更言うまい。


お前は俺が今も編んでやまないミカコという名のマフラーそのものなのだから。

ここまで読んで下さり、ありがとうございました。よろしければ一言感想などいただけると今後執筆していく上で大変励みになります。どうぞ宜しくお願い致します。

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