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異世界推理怪綺譚  作者: 雪
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序章:異世界探偵のすヽめ

どうも、この小説の筆者の雪です。突然ですが、皆さんは『異世界に行く妄想』をした事があるでしょうか?ないとおっしゃる方はきっと現実が素晴らしいものなのでしょう。

僕も現実に満足はしているのですが、時折過度な労働なんかすると異世界に行く妄想なんてしてみるですよ。

でも僕は変な所でリアリストでしてね、よくあるチートやハーレムは僕には与えられないと理解してしまってるんですよ。そんなこんなで、ある日考えたのが『何の変哲も無い男が、異世界で探偵として謎を解く』という話なんです。ですが生憎この小説の主人公は僕の写し身じゃありません。

寧ろ筆者はこの主人公の相棒、お話には登場しない見えないワトソンとしてこの話を書いている積もりなのです。

(もっとも、作品は一人称ですが。筆者の文才の無さを恨んでください。)

さて、長々と自分語りが過ぎました。

ミステリ初心者で万年厨二病の作品でよければ、是非どうぞ

皆さんは異世界転生という言葉をご存知だろうか?

「貴様は何者だ!質問に答えろ!!」

広義的に現代世界に生きる少年少女が、死後に不思議な力でよくわからない異世界に飛ばされることを言う。

「お前が犯人だな?!今まで『透化の魔術』で隠れていたんだろ!」

少年少女がいきなり異世界に飛ばされても、呆気なく死んで終いでは?と感じる方もいるので端的に説明しようではないか。

「なんなの……一体、貴方は誰なの!!」

……いや、講義はまた今度にしようか。外野が五月蝿くて仕様がない。

僕は、閉じていた目を開く。

その目に飛び込んで来た光景は

「ふざけた野郎だ!ぶん殴ってでも口を割らせてやる……!!」

怒号を飛ばす大男が一人。

「やめてよ!暴力なんかもう見たくない!」

頭を抱えてしゃがみ込み、涙を流す女が一人。

「兄さんのやり方は暴力的すぎるけど……確かにこいつが怪しいのも事実だよ、エマさん。」

世が世なら眼鏡でもかけてそうなインテリ男が一人。

これだけならただの人間関係トラブルじゃないかって?

いやなに、取って置きの隠し球が二つ程あるもんでね。

一つは察してる方もいるかもしれないが、この世界が『異世界』だという事。飛ばされた原因は不明だが、経緯程度なら少しは喋れる。おいおい説明しよう。

それでは二つ目の隠し球だ。脚を曲げて、クルリと回れ右してみよう。

そこにはあら不思議。

物言わぬ死体が一つ。

……さて、ここらで気の利いた読者なら想像がつくでしょう。

僕、絶賛殺人事件に巻き込まれているのです。




さて、それでは事情を説明しよう。

詳しい事は今は割愛させて貰うが、僕はどうやら異世界転生してしまったようだ。しかし、そこには神も仏もいない。飛ばされた先は殺人現場という寸法。

そしてその殺人現場には、

「何とか言えってんだこの野郎!!!!」

先ほどの大男、

「やめてって言ってるでしょ!!!」

金切り声をあげる女、

「兄さん、落ち着いて!」

大男を宥めるインテリ、

がいた、という事だろうね。

そして僕はこの三人に、少なからず犯人扱いされているようだ。

いやまあ、そりゃあ殺人現場に突然人が現れたら警戒しますよね。

どこに隠れていた!→何故隠れていた!→隠れていたなら怪しい!

といった感じで。

さて、それじゃあ方針は決まってるんじゃないかな?

哀れな被疑者がやるべき事は一つ。

「……してあげましょうか?」

「あ?!聞こえねえんだよ、もう一回言えや!!」

「解決してあげましょうか?この殺人事件。」

無実の証明と、犯人の究明でしょ。




「この事件を解決するだぁ?!何ぬかしてやがるこの野郎!!そう言っておいて証拠をこの隙に……。」

大男は当然反論したが、

「いや、やらせてみよう。兄さん。」

それをインテリ男が止めた。

「なっ、何言ってるんだお前!!」

堪らず大男は叫ぶ。

「この少年、素性は知らないが僕にはどうしてもこの子がこの場に隠れていたとは思えないんだ。『透化の魔術』でも見えないだけで実態は残る。こんな狭い部屋で、しかもさっきあんなに暴れ回ってたのに当たらない筈がない。窓も扉も閉まっていたら途中で入って来たわけでもない。きっと、『転移の魔術』とかが失敗して……。」

先程からインテリ男が僕の弁明をしているようだが、所々に訳の分からない単語が聞こえる。この世界には、少なくとも『魔術』が明確に存在するんだろうか。

「……分かった、お前がそこまで言うなら。……但し!!」

大男がこちらに詰め寄る。

「怪しい真似しないよう見張らせて貰うし、犯人が分からなかったら憲兵に突き出させて貰うからな!適当ぶっこいた暁には二度と喋れなくしてやるから覚悟しろよ!!」

拳を握り、僕に対して凄む。

僕はそれに黙って頷く。

さあ、勝てば天国負ければ牢獄。僕の楽しい楽しい異世界ライフを賭けた推理遊戯(ゲイム)の始まりだ。




推理するにあたって、全員の素性を教えてもらった。

まず被害者はカイウス・ラインハルト。ラインハルト家の次男だ。

大男はユリウス・ラインハルト。ラインハルト家の長男だ。まあ大男でいいだろ。

インテリ男はケイウス・ラインハルト。ラインハルト家の三男だ。こいつもインテリ男でいいな。

最後に女はエマ・ラインハルト。被害者であるカイウスの妻らしい。……これはインテリ男のケイウスにこっそり教えてもらったのだが、エマは夫にDVを振るわれていた可能性があるらしい。家から何度も物音がしたとか。

その結果、被害者とは別居中だったようだ。

さて、状況の整理も終わった事だしグルリと犯行現場たる部屋を見渡してみよう。まず、窓などは内側から鍵が掛かっているようだな。近づいてよく見たが、細工をされたような傷もない。

続いて内装だ。所々で物が倒れていたり棚に置かれていたものが床に落ちている。揉みあった形跡を思わせるな。

次だ、遺体を見てみよう。

遺体の態勢は部屋の奥の壁にもたれかかる様な姿勢だ。

性別は男性、髪型と服装で分かる。

遺体は着衣の乱れなどもなく服を着ている、現代世界では着られないような中世ヨーロッパ感溢れる服だ。それは先程の三人も着ていたことからこちらの世界でのスタンダードな私服である事が伺えるね。こんな服がちゃんとしたものとして着られているという事はやはりこの世界は異世界なのだろう。

じゃあ外傷は?

背中、首元の少し下の男を正面から見てやや左側が刺されている。

それ以外の外傷はなし、死因は出血多量かな……?いや、でもそれ程出血している様には見えない。

凶器は?

小型の短剣、傷口に真っ直ぐ刺さっている……こんな物で人が殺せるのか?

僕が不思議な顔をしていると、インテリ男がそれに気付いたのか教えてくれた。

「僕は大学で神秘科を専攻しているので分かるのですが、その短剣には微弱ですが魔力の跡が残っています。系統は原始呪術……恐らく、兄さんはその呪いで殺されたのではないかと。」

インテリ男が右手でポケットを弄る。彼が掴み出したのは小さな手帳だった。彼はそれをペラペラとめくると、間違いない、と言った感じで頷いた。

なんと……早速異世界要素が出てきたか。まあ、異世界で推理するならそういうこともあることは分かってたけどね。

僕は、この流れでインテリ男に質問する。

「原始呪術は、知識がないと不可能なものですか?」

「いや……恐らくかけられた呪いは『怨嗟』。自分の相手に対する憎しみを糧とする呪術です。やり方さえわかれば子供にも出来るシロモノですよ。」

日本でいう丑の刻参りかな。

さて、これで凶器で犯人を絞り込むのは不可能になったか……。

そう思った矢先、例の女が呟いた。

「……ユリウスさんのなの。」

「お前っ!!」

大男が焦る。

「その短剣、ユリウスさんのなのよ!!!」

そう言って女は気が狂ったように左手を大仰に振り、大男を指差した。

「ばっ……俺はやってねぇ!!!あの短剣は数日前に誰かに盗まれたんだよ!!!」

指を差された大男は急いで弁解する。

成る程、俺が現れた時俺をあれほど犯人扱いしたのにはそういう理由があったのか。疑われてたから罪をなすりつける算段だった訳だな。

「でも!昨日一番遅くまであの人と話していたのはユリウスさんじゃない!!!!」

女が叫ぶ。

大男は再び反論しようとしたが、言い淀んで黙った。反論の仕方がわからないのだ。恐らく、あの女の言った事は全て事実なのだろう。

「兄さん……いい加減、諦めたら……」

インテリ男が大男に話しかける。

「畜生……俺はやってない。やってないんだよ……。」

崩れ落ちる大男。その目に先程の威勢はなく、代わりに浮かんでいたのは涙だった。

「貴方がやったんでしょ!!!いい加減白状しなさいよ!!!自分の弟を殺すなんて、この人でなし!!!!」

女が金切り声で大男を侮蔑する。

「なんで……なんで……よりにもよってこんな時に……」

男は涙流して呟きながら、ピクリとも動かない。

インテリ男がこちらを向く。

「……すいません、お見苦しい所を見せましたね。僕が君に事件の推理を頼んだのも、兄さんにこの状況を再確認して貰う事が目的だったんだ。……本当は、兄さんの無実を晴らしてくれるんじゃないかと淡い期待も少し抱いていたんだけどね。」

「チクショウ……!チクショウ……!」

男は仕切りに手で床を叩いている。

叩き過ぎたせいか、殴っていた方の手である彼の右手から血が滲み出始めた。

「……ケイウスさん、憲兵を呼んできて下さる?」

女が呟く。その女の手には、縄があった。恐らくそれで大男を縛る気なのだろう。

憲兵は……この世界の警察みたいなものか。

「ええ、わかりました。」

男が部屋から出る扉のノブに手をかけた。

その時、

「待ってください!!!」

渾身の大声で叫ぶ男がいた。

誰かって?当然僕だとも。

皆が動きを止めて一斉にこちらを向く。

「ユリウスさん……ですよね?貴方が最後に会った人というのは本当ですよね、それは何時でしょうか?」

その問いに大男は答えず、代わりにインテリ男が答えた。

「我々はそもそもこの家に来ていませんから。それに、夜の11時半に兄さんがこの家から出てくるのを近所の人が見ています。カイウス兄さん……あの遺体の人は、ここ最近何故か引きこもりがちで、僕たち三人以外は家に入れなかったので外部犯の可能性もないでしょう。窓は閉まっていましたし。」

……待てよ?

その時、僕の頭に少しの懸念の霧がかかった。

「あの、お言葉ですが……」

「何でしょう?」

「ユリウスさんが帰った後、貴方達二人のどちらかが来たという可能性は?」

それを聞いて、インテリ男は目の色を変えて喋り出す。

「まさか!そんな恐ろしい事……。私達が貴方を騙していると?!教会と神を毛嫌いしていたユリウス兄さんとは違い、私達二人は共に神を信じている者です!!」

やはりな……。僕の懸念通りだった。

たまに推理小説でもあるから、気をつけなければいけないのが『根拠のない前提条件』だ。

聖職者は人を殺さない……良い人だからありえない……そんな物、推理の世界には存在しない。等しく皆が被疑者だ。先ほどのインテリ男の口振りから、まるで自分たちは来ていないと断定した言い方だったが、彼らはその証明を口にしなかった。

「……その様子では、貴方方がやってないということを証明する明確な証拠はない事になりますね。」

呆れた、なんだか馬鹿らしいじゃないか。

「そんな!!ならば私達が人を殺したかもしれないと疑うと?!それは我々の信仰心への冒涜に……。」

「あーもう……ごちゃごちゃ五月蝿い!!」

余りに理の叶ってない理論に、気付いたら僕は叫んでいた。

インテリ男どころか、他の二人も呆気にとられた様に僕を見ている。

「冒涜だと?!信仰なんて目に見えない物で、一人の人間を無実の罪で貶める事は正義への冒涜だ!!お前らの神は正義を足蹴にしてまで信仰を成せと言うのか?!」

僕の予想外の気迫に、インテリ男と女は黙りこくんだようだ。

全く、阿呆らしい……。

こんなつまらない事件、さっさと終わらせよう。

『解答編』の始まりだ。

「……犯人、わかりましたよ。」

「「「ええ!!!」」」

僕の言葉に、意外だったのか三人が同時に叫ぶ。

そうそう、これだ。この驚きこそ僕の享受すべきものだ。

気を取り直してさあ行こう。

「さあ、推理遊戯(ゲイム)の幕を閉じようか。」

パンと一打ち、手を鳴らす。

真実をご覧に入れましょう。

後書きです。

この作品は読者である皆さんにも解けるよう頑張って書いております。

ノックスの十戒も(あまり)破ってませんし、今回は序章ですので複雑なミスリードも無しです。どうぞ幾度か読み直して、犯人当てに興じてみてください。

車椅子探偵を見た時から憧れてたんですよ、解答編とか作るの。

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