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曾お爺様は私に甘過ぎですわっ!

 食事の後、曾お爺様のお誘いで、周辺の探索に向かうことになりました。


 ローズ様はお茶を頂きながら、ゆっくりされると言うことで、侍従にお相手を申し付けて参りました。


 あの侍従の口の悪さは、私か曾お爺様限定なので、大丈夫でしょう。一応、粗相の無いように申し付けておきました。他について来ている侍女達にも、注意するようにと言っておくことも忘れませんわっ。


 曾お爺様の差し出す左腕に、淑女らしく右手を絡ませれば、私の歩調に合わせるように、ゆっくりと進んで行きます。


 見上げれば、青く澄みわたる空に雲は無く、鳥達のさえずりが穏やかな空間を震わせます。


「気持ちの良い日になって良かったですわ。曾お爺様、連れて来て下さって、ありがとうございます。」


「ほんに、良い天気じゃ。これもマールのお陰かのう。マールがいれば天気が崩れることは無いからのう。」


 曾お爺様が私の手をポンポンと優しく叩きます。


 私の胸の中心がじんわりと暖かくなって、自然に笑顔になります。


「…のう、マール。本当に良いのか?ボンゴードル候の倅との婚約を破棄にしても。」


 あら?曾お爺様はもしかしなくとも、嫉妬から私が勢いで言っていると思っていらっしゃいます?


「イヤなぁ……アレでも社交では女性に人気が高いらしいからのぉ、少しでもーーためらう気持ちがあるのなら、婚約破棄では無くともと思ってなぁ」


「ためらうだなんて、全くございませんわ。むしろやっと解放されるのだと言う気持ちでいっぱいですのよ。」


 それでもまだ不安げに見つめる曾お爺様。私、本心でありますのに。


「マティアス様は、それは見目麗しい殿方ございます。私の周りにもマティアス様に傾倒される方は少なくはございません。でも、綺麗こそ思えど、他には何も感じませんの。マティアス様も私との婚約を義務と思っておられたのでは無いでしょうか?そうでなければ、ご機嫌伺いやプレゼントなどが全く無いなんてあり得ませんもの。私だってしておりませんから、マティアス様もーーー」


「じゃがな、親が決めた婚約だとて、接している間に情が湧くもんじゃ。儂も、グラシャとは家の繋がりの為の婚姻であったが、自然と心が動いた。激しさなど無いが、穏やかなじんわりと染み入る気持ちであったと思う。貴族である以上、自由恋愛などほとんど皆無に等しい。その中で、どんな理由があったとて、巡ってきた縁……もう少し、考えても良かろう?」


「曾お爺様は私とマティアス様を結婚させたいのですか?させたく無いのですか?」


 昨日と仰っていることが違います!曾お爺様はどうされたいのでしょう!


「わっ!儂はマールがずっと今のマールであるならば良いのじゃ!いつまでも幸せでおるなら、結婚などしなくても構わんと思っておる。そなたの父親ダンドゥルグも同じじゃっ!」


 焦ってワタワタされる曾お爺様を睨みます。


「でしたらなぜ婚約破棄を渋るのですか?」


 そう言うと、曾お爺様のお顔が苦しげに歪みます。どうしてでしょう?


「それはーーーいかな理由があろうと、男側には多少キズはつくが、女はその比ではない深いキズがつく。理由の分からん者が、有る事無い事言って、更にキズを広げ、その後の婚約者探しを困難なものにしてしまう。儂はなぁ、そんな令嬢を少なからず見て来た。格下の家に嫁ぐのはまだいい。可哀想なのは、後妻に入れられたり、修道女としてその先の人生を終わらせることじゃ。女と生まれたにもかかわらず、子孫を残すことを許されず生涯神のみに使えるのじゃ。まぁ、中にはそれを良しと思って入った者もおるだろうがな。儂は、マールをそのどれにもしたくは無いんじゃ。」


「曾お爺様……。」


 やっぱり、曾お爺様は優しいお方です。


「私は……もう少しマティアス様と親交を持っていれば、違う今があったのかもしれないと、今更ではございますが考えたりも致します。マティアス様は初めてお会いした時からキラキラしていて、自信に満ち溢れていて、反対に私は、自分が目を惹く容姿をしていないことを充分理解しておりました。ですから、お会いした時のマティアス様の落胆する表情を見たときに、私は心を近付ける努力を放棄してしまったのです。初めから諦めてしまいましたの。マティアス様からの信頼も。」


 初めから間違っていたのです。きっと…。


「……小さい頃から周りを気にし過ぎて、隅で小さくなっているような子供であったから、ボンゴードル候の倅のことも、考え過ぎたのであろう。」


 曾お爺様が宥めるように、私の手の甲を撫でます。


「ですから、私と婚約破棄ができれば、マティアス様は子爵令嬢と婚姻のお約束ができるかもしれませんでしょう?マティアス様の…ボンゴードル侯爵夫人が大変な苦労をされたことは存知あげませんでしたが、それであればもしかして、子爵令嬢も受け入れられるのでは無いのかと思いますの。最初は大変だと思います。子爵家から侯爵家へ嫁がれるのですもの。」


 歩みを止めて、曾お爺様を見上げます。


「私の考えは、甘いのでしょうか?」


 ゆるゆると頭を振り曾お爺様が微笑みます。


「子供が成長するのは何と早いことか。ほんの二年前までは、野を駆け回り木に登り屋敷の者達がどれほど手を焼いておったか…。」


「まぁ!今は素敵な淑女になるために、日々努力しておりますのよ!」


 曾お爺様は腕を解くと、私を大きな身体で包み込んでしまいます。


「ーー淑女だよ。いつの時も、マールは儂のレディじゃ。どのようなことがあったとしてもそれは変わらん。」


 嬉しくて、思わず秘密の告白をしてしまいました。


「私、曾お爺様のような殿方と添いとげることが、理想ですのよ。」


 頬を身体に擦り付けて、回した腕に力を入れます。すると曾お爺様も、少し強く抱きしめ返して下さいます。


「ならば、儂がマールの伴侶を吟味いたそうかのぉ」


 クツクツと笑う声が身体を伝って聞こえます。


 曾お爺様がいらっしゃれば、婚約者など要らないように思いますが。それではダメなのでしょうか?





ありがとうございました。

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