自分が一番わかっています!
よろしくお願いします。
「はっきり言って不毛だわね。」
「ローズ、優しさが逃げてるよ。オブラート何処行ったの?」
「不毛だから不毛だって言ってるのよ。リューだってそう思うでしょ?」
「でもさ、レダも自分アピールに余念がないと言うか、今が売り込みの好機と言うか、そこはさぁ、憂慮?してあげてもいいんじゃないかなぁ………」
「………」
いつもの温室で昼食後のお茶をいただいております。
「憂慮?!本気で言ってるの?今現在そんな甘い状況じゃなくてよ!」
「そうだけど、それもマールが了承すればレダだって動きようがあるだろ?」
「動きようってナニ?そんなこと思う前に悟りなさいよ!動きなさいよっ!自分がどれだけ周りに影響していて、マールに悪影響をもたらしているのか!!」
【妖精姫】が魔獣の様に咆哮する姿を支援者達が見たら、百年の恋も終わるのでしょうか。
などとポヤンと思っている私は、先程までパティにお小言を頂戴していたのですが、
「レダだってマールに悪意を向ける令嬢を一人一人諫めて危害を加え無い様に牽制してるんだ。今までになく、真面目で真剣なんだよ?レダは。友達としては応援したいだろ?」
「だろ?じゃぁないでしょう!」
とばっちり?と言いますか、その延長でパティとリューが私を挟んで言葉の応酬を繰り広げているところですの。
「女の世界は強かで、決して脆くも儚くもないの。表面で見せてる花の様な可憐なモノよりも、ドロドロとした欲望と執拗が根底に在るの。それは家格や財力が低ければ低いほど顕著になるわ。リューのお友達のレダ様は侯爵家の嫡男で、容姿端麗。社交界でも名を馳せていらっしゃる方ですもの、伯爵家の令嬢であるマールに纏わりつく姿は面白く無いでしょう?別段、突出して良い所も無い平凡な伯爵家の娘のマールに何故、見目麗しいビスデンゼ様が婚約を迫っていらっしゃるのか。納得できなければ、その場所から引き摺り下ろしてソコに立てば良い。彼女達からすればマールの容姿さえ比べる値では無いのでしょうね。」
ナフキンをペシペシとテーブルに打ち付けるパティのお顔が凶暴です………口が歪に笑っているのに、反目の目が胡乱にリューを見つめております。
「今更言われなくってもわかってるよ。僕もレダも。女性に好まれる容姿だってことは、物心つく頃にはわかっていたさ。だから学園内では当たり障りの無いように接していた。少しでも扱いを間違えれば、酷い目に遭うってわかるからね。なのに自分の領域に入って来ることを忌避していたレダが、マールを見つけた。僕達が愛して止まないマールを。僕はね、純粋にレダを応援したいんだよ。」
………今、サラッと私や家のことを言いませんでした?それも聞きたくも無い言葉をパティの口から。
「そんなことは当たり前!そもそも先手を打っておくことが礼儀だわ。そうでしょ?だって自分達の面構えが普通よりも良いって自覚しているんですもの。少しでも対応を間違えれば目も当てられない結果が待ってることもわかっているのでしょ?だったらサッサと対処しなさいよ!マールが不快な思いをしないように!私物を壊されたり失くされたりする前に!水を頭からかぶる前に!怪我する前に!」
「初動を見誤ったことはレダの甘さだ。アプローチの相手を守れなかったんだから。レダが積極的に動いたことで被るマールへの危害を見誤ったんだから。そこはきっちりと落とし前をつけてもらうよ。」
二人の応酬が白熱する中、私はパティの言っていたことが頭から離れてくれなくて、ずんずん気分が落ちていくのを止めることができないでおります。
世間からの私の評価は、そばかすを差し引けば可も無く不可も無くと思っていたのですが、それは私の思い違い?自意識過剰?厚顔無恥?でしたの?
「当然!周りがきっちりはクリアーするまでは、ビスデンゼ様もリューもマールに近付かないでね!その旨ビスデンゼ様にきっちりはっきり丁寧に説明してちょうだい。よろしくね、リュー。」
「なんで僕までとばっちりーーー」
「アラ!お友達でしょ?それにビスデンゼ様を応援したいのでしょう?協力も惜しまないって言ってたじゃない。だったら同罪よ。」
グビッとカップを煽ったパティが目だけで私を見てきます。
「マールもどうしたいのか、はっきりさせた方がいいと思うの。ビスデンゼ様がマールを振り回しているのは知ってる。でも、マールがちゃんと言えばビスデンゼ様だってマールとの接し方を考えて下さると思うの。」
「マールはレダが苦手みたいだからね。」
同じお顔が、同じように眉間に皺を寄せて私の返答を待っておりますが、私は先程からモヤモヤしていて、音を立ててカップを置いてしまいました。
「………私の家(伯爵家) はパティの家(公爵家)からしたら、どうでもいい何の価値も無い家なの?私の容姿も恥ずかしいと思っていたの?」
周りから聞こえるこれ見よがしの言葉。
曾お爺様の曾孫の落差はどうだとか、【妖精姫】の娘は妖精に悪戯されたのではないかとか、伯爵家とは血が合わなかったのではないかとか………私を失敗作みたいに。
そんな大人の言葉を聞いた子供達が、私に尤もらしく言って笑うのです。純粋な言葉の棘は私の胸の中で少しずつ降り積もって、自分でもウンザリするぐらい容姿に関してデリケートになっておりますの。
「そんなこと誰が言っておりますの⁈」
「………パティが言っておりました。」
「さっきドサクサに紛れて言ってたじゃないか。」
ピキッと固まったパティの右手からカップが滑り落ちたのを、リューが素早く拾い上げて、ホッとしたお顔で静かに置きます。
「ーーーーー違う、違うわ!」
直ぐに覚醒したパティに両手を掬い取られ、私の身体がテーブルの上へと乗り上げてしまいました!
「私は可愛いマールが大好きよ!周りが言ってることなんてデタラメばかりなんだから!そもそも見る目が無いのよ。こんなに愛らしいのにその良さがわからないなんて、生きてて損をしてるって気がつかないバカばっかりじゃない。」
「僕だってマールは大好きだよ。楽しいし飽きないし、猛獣使いだし、それに一定年齢を誑し込む才能には尊敬さえしてる。」
「マール!マール!誤解しないで!お願いだから私達の愛を疑わないで。」
「マールの良さはマールと三日は一緒に居ないとわかんないだろうなぁ。」
そう呟きながらガチャガチャとテーブルの上の物を隅へ片付けていくリュー。
小さい時から曾お爺様やパティに何かと気を遣っていたリューは、これが当たり前のようになっておりますが、負担は軽くはないことを周りの方々はわかっております。
その副産物?と言っても良いのが剣ですの。
私が時計塔ならば、リューは剣の鍛錬をすることで日頃の憂さを晴らしておりますの。その甲斐あって、剣の腕前は曾お爺様も認めていらっしゃいます。
なかなかの苦労人であると、曾お爺様のお屋敷の庭師のバランが言っておりましたわ。
「………私がそう言われていることは今更だけど、パティやリューが同じように思っているのは、とても悲しいって。本当のことだけど、胸の中でモヤモヤして嫌な気持ちになったの。」
「マールは可愛いわ!誰がなんと言おうが、マールは可愛いの!可愛いは絶対で疑う余地が全くないの!」
「あのね、マール。」
俯いていた私の顔にリューの少しごつごつした手が添えられて、見上げれば、優しく目を細めた透き通るミントグリーンの瞳に見つめられます。
「この、つるんとした額も柔らかそうなほっぺたも、綺麗に整った眉も、大きな目の中で煌めくアイスブルーの瞳と縁取る金色の長いまつ毛も、小さくてちょっと上を向いた鼻と健康的な肌色を彩るそばかすも、」
ちょっとカサつく親指で私の顔をゆっくり撫でた後、髪の毛を手に取ってクルクルと指に巻き付けます。
「蜂蜜色した髪は頬擦りしたくなるほど感触が良くて、陽に当たればキラキラ煌めいて、楽しそうに庭をスキップする姿は正しく妖精のようで、マールを見た人達はたちどころに心を撃ち抜かれてしまうんだ。」
………いったいリューは誰のことを言っているのでしょう?
私の名前を言っておりますが、自分のことだとは思えず、視線をずらしてパティを見れば、不安そうに瞳を揺らしてリューの言葉に同意するように首を縦に振っております。
「私は………リューが言うような」
「マールが可愛くないなんてあり得ない。言ってる奴らにはパティと僕が纏めて報復するから、マールは自分の言った言葉でマール自身を傷をつけないで。ちょっとした痛みだって、積もれば心を圧迫して弱ってしまうから。」
「そうよ。マールはマールだからいいの。マールの良さがわかっている人はマールが思っているよりも沢山いるわ。」
「そう、漸く婚約が白紙になったからね。」
私の頭をぐりぐりと撫でるリューのお顔が悪戯を画策するようにニンマリとします。
「その筆頭がレダだから。まぁ、他がやり難いと思うけど。でもそれはそれで下手な者は手が出せないし、レダ以上でなければこの戦には参戦できないからね。」
「リューには悪いけど、ビスデンゼ様は推せないわ。」
「パティは小さなころからずっと変わらないよね。でもさぁ、近くに居て、毎日声を掛けるって案外有効なんだよ?」
大袈裟に息を吐くリューと、ぷっくりほっぺのパティ。
そのやりとりを見ていた私は、まったくスッキリしない気持ちを払拭させるための段取りを、頭の中で思い描いておりましたの。
コレは思っていたよりも話数が増えると、年末に悟りました………なんて事でしょう。
今回も読んで下さりありがとうございました。




