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曾お爺様を負かしてから来て下さいませ。  作者: み〜さん


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言葉の力


わかり難いですが[[ ]]で囲った言葉はフィルマールの記憶になります。


よろしくお願いします。



 





 名前をーーー呼ばれたような気がしました。







 [[ごめん、フィルーーー守るって約束したのに、君を傷つけてしまった………]]






 重たい瞼を薄く開けて、ボンヤリとした視界に辛うじてわかる人影がユラユラと蠢いていて、それをよく見ようとして眉間に力が入ります。




「僕はーーー何も守れない。いつだってーー」




 じぃーーーっとユラユラしたモノを見ていると、少しづつ形がはっきりとして、そこにいたのは、包帯を頭や首や腕に巻いた真っ赤な髪の男の人。


 お顔も腫れていて、大きなガーゼで覆われております。





 ?………誰かに似ているような気がいたします。






 はっきりしない頭でなんとなく思っておりましたら、右手がヒンヤリとした物で包まれて、持ち上げられました。



「ごめん。こんな情けない男で。こんなんじゃ、フィルに会うことなんてできないよな。」



 ………今、会っておりますが?



 私の目が開いていることに気がついていないのでしょうか?


 薄目ですけど。


 ヒンヤリとした物はその人の手で、男の人にしては細くて、羨ましい程の白さの美しい手に包まれた、少し日に焼けた私の手を伝って、微かに震えていることがわかります。


 私は大丈夫と伝えようとしたのですが、喉が何やら張り付いているようで、上手く声を出せません。


 どうしましょうかと、包帯の人をボンヤリ見ていました。




 [[………フィル。フィルマール。]]




 すると、私の手を握っていた包帯の人の姿が大きく揺らめいて、クリーム色の部屋の壁紙に霞むように馴染んで見えなくなってしまいました。




 [[…………思い出さないで。怖かったことを、悲しいことを。]]





 でもそれは、消えたのではなくて、






 [[あの時のことを、忘れて………フィルが心を痛めることがないように。]]






 霞んで見えなかったモノが段々と一点に集まり現れたのは、記憶を失くす前のヴィの姿で、今にも溢れそうな涙を金色の瞳一杯に溜め込んで、何故か右腕には包帯が巻かれていて、私の手を握っております。






 [[僕のことを………全部忘れて。}}







 ーーーあぁ、そうですわ。



 苦し気に紡いだヴィのその言葉。



 まるで魔法のように私の記憶を操ったヴィのその言葉。






『言葉には力があるの。』





 いつだったか、お母様がニッコリ笑って刺繍の練習をする私に仰ったことがありました。



『投げかけた言葉にはそのときの感情が伴うの。良いことも悪いことも。だからね、思慮深くを、心がけなければいけないわ。自分が言った言葉の重さをちゃんと知っておかなければいけないの。感情のまま言ってはダメ。それは言った本人にちゃんと戻ってくるものだから。でもね、言葉を信じすぎてもダメ。マールはお祖父様が大好きでしょう?お祖父様が言うことを全て正解と思うのはとても危険よ。大人でも間違いはあるの。鵜呑みにせず、言われた言葉を頭の中で精査してみることが大事なの。」




 ニッコリ微笑むお母様を見て、思わず手に持っていた針と枠を落としてしまったのを憶えております。


 静かな【圧】に慄く私にはお母様の言われたことのほとんどが理解出来なかったのですが、ヴィのことを………大好きだったヴィの存在を、混濁した意識の中で『忘れて』と苦し気に言うヴィの言葉を素直に受け入れて、目覚めたときには綺麗にヴィのことを忘れてしまっていたのです。




「フィルの側に居ることでまた、こんなことになるなんて………思いもしなかった。ごめん。謝ったところでどうしょうもないけど、でもごめん。ごめん、フィルマール。」




 一瞬の内に小さなヴィの姿が消えて、包帯の人が目の前に現れました。


 では、今ここに居る怪我した男の人はーーーヴィ?ですの?




「ーーー離れるなんて、僕にはできないから。強く………全てのことから護れる力を身につけるから、閣下に負けない強さを身につけるから。」



 ああっ、確かめたいのに!どうして口が開かないの?声が出ないの?




「………夢の中でも怖い思いをしてるの?」



 伸ばされた指が目元に触れて、冷たい感触が気持ち良いです。


「泣かないで、フィル。」



 泣く?



「ーーー絶対に怖い思いはさせないから。それが夢の中だってキミを守ってみせるから。」



 柔らかい物で目頭や頬をそっと押し当てられたあと、私の手を取って宥めるように優しく撫でてくれます。


 そのゆっくりとした指の動きがとても心地よくて、薄く開いた瞼が自然と閉じてしまいます。





「閣下と約束したんだーーーー」








 意識が遠退く私に届いたヴィの声はそこまででした。













 それから私が再び目を覚ましたのは、救出されてから六日目の夕方。


 やっと身体を起すことができるようになった、目覚めて四日目に知らされたことは、私が居なくなって直ぐメイローズ様が体調を崩してしまわれて、急遽タウンハウスへ戻られたこと。


 そして、良いお医者様がいらっしゃるラジグール王国へ行くことが決まったと言うことでした。








 真っ白レースの日傘をクルクルと回して、艶めく赤い髪が風でふんわりと舞い上がり、金色の瞳を優しく細めて私を呼ぶメイローズ様の麗しいお姿が、しばらく私の頭から離れませんでした。








やっと、暗闇脱出です!


話は学校へ戻ります。


最終話まではもう少しかかると思います。


今回も読んでいただき、ありがとうございました。

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