曾お爺様が可愛すぎますわっ!
「やはり、馬鹿は馬鹿ですか。そうですか。」
ディルヴァイスが大袈裟に溜息を吐きました!
何故です⁈ なぜ私、侍従如きにお馬鹿呼ばわりされなくてはいけないのですのッ!
「ディルはそう言いますが、アレは酷いですよ。毎日二度も三度もマールを捕まえて、ある事ない事言っては、子爵令嬢と三文芝居を繰り広げ出すんだ。見ていてイライラするよ。」
リューの援護に、大きく何度も頷いてアピールします!
「マティアスもあからさまなんですわ。ご自分の方からは言い出すことができないものだから、この様な嫌がらせに出たんですのよ。ホント!小さい男ですこと!」
パティも私の味方なんですわ!ふふ〜ん!どうです!侍従!
胸を反り自慢げに侍従を見ると、鼻で笑われました!なんて失礼な侍従でしょう!
「でも、私はアイラ・ヴェンガァ子爵令嬢が、マティアス様を陰から操っている、ある意味本当の黒幕だと思いますけど……。マティアス様はそんな事、微塵も感じてはいらっしゃらないと思いますが。あの子爵令嬢は曲者ね。マティアス様以外にも手を出してる様ですし、それに、本人達に分からないように立ち回ってもいるようですからね。」
ローズ様はどこからその情報を集めていらっしゃいますの?まさか!密偵⁈
「まぁ、分からない訳では無いけど……ヴェンガァ子爵と言えば、先代が浪費家で色々手を出したために、今では風前の灯火だとか…。美しい娘がいるのです。是が非でも良い所へ嫁がせたい所でしょうね。」
えっ?そんな裏話、知りませんでしたわーーなんだか、嫌な感じです。お家の為に良い嫁ぎ先を探さなければならないなんてこと。でも、もしも私がその立場であれば、やはり同じ事をしていたのでしょうか?想像もつきませんが。
う〜んと唸っていると、ローズ様がティーカップを私の前に差し出して来ました。
「お茶、冷めましてよ。」
今、ニッコリ微笑むローズ様は、私達に見せる優しいお顔です。対人用ではございません。
「マールが子爵令嬢に同情する事は無くってよ。あの方はきっと、その使命を全うする事に心血を注いでいらっしゃるんでしょう。同じ事をマールができるとは思えませんわ。そんな事ができるマールを想像できませんもの。マールは何時も草花にまみれ、小動物と戯れる姿こそ、私達のマールですもの。ねっ。」
ーーーーなんでしょう。軽く令嬢として失格なのだと、烙印を押された感じなんですけれど………ローズ様、意地悪ですか?
「あら、慰めているつもりなのだけど、私。」
いえ!いじわるです!そう言うお顔をしていらっしゃいます!
「ですが、一度交わした婚約をそう簡単に破棄はできませんでしょう?それも家格が上の侯爵家に。」
侍従!お黙りなさい!
「いや、出来る。だから儂に手紙を出したのであろう?マール。」
曾お爺様の大きな手が私の頭を、優しく撫でます。
「はい。ハヤブサで三日あれば届くと伺いました!」
「そうか、そんな事も出来るようになったのだな。嬉しいような悲しいような、複雑な心境じゃわい。のう、ディルヴァイス。」
目を少し潤ませ私を見る曾お爺様に、胸がキュ〜ンとなってしまいましたわ!なんて切なそうに私を見つめるのでしょう!可愛すぎますわッ!
「いえ、全く御前の心境に共感できませんね。なぜそうなるのかも分かりませんし、マール様も16歳でございます。できて当然では?」
蔑む目で私や曾お爺様を見るなんて!侍従あるまじき!
「ディルヴァイス!貴様には血も涙もないのかっっ!」
「涙はともかく、血が無ければ今ここで御前の下らない哀愁に付き合って要られませんよ。」
「ディルヴァイス!それでも儂の侍従かっ!」
「そのようですね。甚だ遺憾でございますが。」
「「ハイ!そぉーこぉーまぁーでッ!」」
まぁ!さすが双子ですわ。息ピタリ。
いつまで続くかと思っておりましたけど、一応終了でございますね。
いつもはもっと白熱するのですが、やはりお疲れなのでしょうか?
「で、マールは婚約破棄、できるのですか?曾お爺様。」
リューが眉間をモミモミしています。アラ?リューもお疲れなんですの?
「そうじゃ、出来る。何故なら、この話はボンゴードル侯爵家からの立っての願いで纏めた婚約でなーーーごねたんだと。マールの父親、ダンドゥルグに何度も申し出たようだ。だが、一向に色よい返事が貰えないと、こちらに泣き付いて来た。儂が居ればそんな話一笑して取り成してなどせなんだ。だがーー丁度その頃この国を出ておってなぁ、馬鹿な孫が強引に通してしまいおった。戻って来た時には婚約は正式にとり成された後じゃった。」
曾お爺様が、その当時の事を思い出すかのように、空を見つめます。
「儂はな、ボンゴードルが 悪いと思っておる訳では無いんじゃ。ただのぉ……」
「ボンゴードル現侯爵の奥方は確か、タスキール男爵の娘でございましたね。」
?聞いた事がありませんが?どこの方でしょう?
「うむ、今はもうその家名は残ってはおらん。理由は言わんがな。ボンゴードルの奥方は本当であれば嫁ぐ事のできん上位の家に嫁いだ。身分の差がどのようなものか、分かるであろう?イバラの道じゃ。社交界は決して甘く無い。人の口に戸は立たん。その苦労たるや、いかほどのものだったであろうのう。他の者に蔑まれ無いように息子を完璧であれと、育て上げたと聞いておる。」
確かに、今思えば、マティアス様のお母様は完璧だったように記憶しております。会ったのは、初めてのご挨拶の時だけだったように思いますが。
「そんなギチギチした侯爵家へ、儂の可愛いマールをやるなどと、どうして出来よう?マールはマールらしく在れる所へ嫁ぐのが一番じゃ。甘いと言われようが、儂の目の黒い内は絶対に曲げん!そうダンドゥルグとも話は付いておる。」
曾お爺様が私を熱く見つめて、大きく頷かれました。何と力強いのでしょう!素敵ですわっ!
「マティアス……だから、その反動であんなふうに?」
「だろうねェ。でも、あの子爵令嬢では、侯爵家の門扉は開かないだろうねぇ。」
パティとリューが難しいお顔のままお互いを見て首を傾げております。
「でも、開いたら面白いわよねェ。ふふふっ。」
ローズ様はやはり笑顔でございます。崩れません。
「では、どうされます?御前様。」
溜息を吐きながら言いましたよ!この侍従!
「正式に破談にする為に場を設けてくれ。儂が出る。早急にな。」
ぬるくなったティーカップに口を付ける曾お爺様の後ろで、ディルヴァイスが姿勢を正して頭を恭しく下げると、
「 御意 」
低い声で返事を返しました。
沢山の方に読んで頂けて嬉しい反面、どうしましょうと思う今日この頃……。
毎日お届け出来る様に頑張ります。
読んで頂きまして、ありがとございました。