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サーカスは大好きですわっ!

 

「……ここ……何処?」


 グルリと見渡せば、窓の無い石作りの四角い部屋。


 明かりが無いのにどうしてわかるのかと言えば、天井近くの隙間から陽の光が漏れて薄っすらと辺りを照らし出しているからですわ。


 ……どうしてこうなったのでしょう……?


 確か…………そう確か、街の広場に来ていたサーカスのテント脇にあった【 トリックの部屋 】と書かれた建物に入って……あら?そう言えば、あの時一緒にいたはずの侍女がおりません。


 もう一度見渡しますが狭い部屋の中、私しかいないのは分かりきったことですわ。


 ここに連れて来られたのは私だけ?侍女は大丈夫なのでしょうか?


 チッ、チッ、チッ、チッ、チッ、チッ、チッ、チッ。


 ……考えましたが、私が拐われる要因が全く思いつきません。


 伯爵令嬢ではありますが、お父様は騎士団所属の事務方。いわゆる裏方でございますし目立ってお金持ちでもございません。どなたかの恨みを買うことも無いと思います。多分ですが……。


 どういたしましょう。


 思えば一昨日のビラに向かう途中、広場で準備するサーカス団を見つけてしまったのがいけませんでした。


 ビラに着くなりいつから始まるのか、こっそり確認をお願いしてしまいました。


 いえ、こっそりしたつもりでしたがローズ様には全てお見通しだったようで、そのままパティにも知れてしまいました。


 それで今日……多分今日だと思いますが、三人でサーカスを見に行ったのです。


 正確にはパティとローズ様と私。後、侍女が二人と護衛が三人。


 近くで馬車を降りて、沢山の人で混み合う広場に向かいましたの。


 サーカスがおこなわれたテントの中は別世界で、とても楽しくて煌びやかでワクワクドキドキで、終わった後はしばらく現実に戻ることができないほどでございました。本当に素敵でしたわ。


 テントを出てから、パティが見つけた【トリックの部屋 】に入ろうと言うことになりまして、護衛の方々からはやめてほしいと言われたのですが、そこは強引にパティが押し切りました。


【 トリックの部屋 】には一人ずつ時間差で中に入るようになっているそうで、まずはパティが中に入り続いてローズ様、最後に私が中に入りました。


 入り口を入った途端、先に入っていたパティの歓喜?の声が響きわたっておりました。


 四方を真っ黒な布で囲まれた場所を両手で掻き分け出た所は、天井から壁一面全て鏡で覆われていて、私の姿が幾重にも重なり奥へ奥へと続いております。入って来たはずの真っ黒な布も気付けば無くなっていまして、私の姿だけが焦った表情で沢山の鏡に映し出されておりました。


 自分で言うのも何でございますが、正直そばかす顔を沢山見るのは辛いです。


 お前の顏はそばかすだらけだーーーッと、突き付けられているようで。


 ?……そう言えばガラスの部屋ではすでに侍女がおりませんでした。と言うことはその前の時点でいなくなっていたのでしょうか?


 私自信ガラスの部屋以降の記憶がございませんから、部屋いっぱいの自分の姿にクラクラしている内に何かが起こったのでしょう。


 ……もう一度いいますわ。どういたしましょう……。


 拐われたのは間違いございません。


  出入り口は天井にある四角い板がはめ込まれた一箇所だけ。梯子はきっと上にあるのでしょう。


 たとえば、誰かと間違われて拐われた……と考えますと、一緒にいたローズ様かパティのどちらかと言うことになります。


 パティはイグウェイ公爵家の妖精姫で、ゴディアス・イグウェイの曾孫。


 私もゴディアス・イグウェイの曾孫でございますが、外孫と内孫では大きく違ってまいります。


 貴族たる者、やはり直系であることが全てでございます。


 ローズ様はキャグッズ侯爵家のご令嬢でございます。


 キャグッズ侯爵家も遡ればこの国の始まりから続く由緒正しい家柄でございます。


 現侯爵様は確か……内務のお仕事をされていたはずですからこちらも目立って何かがあるようには思えません。


 だとしますと、やはり曾お爺様絡みでしょうか?


 でも私とパティを間違えることなどあり得ないと思うのです。


 方や、妖精姫。


 方や、そばかす姫。


 ええっ!間違えようもございません!


 これはきっちり!ハッキリ!させなければいけません!


 私をここに連れて来たどこかの誰かが戻って来るのを待ってーーー


「グギュ〜〜〜〜ッ」


 ……お腹も空きました。


 私が拐われてどれほど時間が経っているのでしょう。


 私がいなくなったことで、パティやローズ様が気に病まれていらっしゃるでしょうし、城砦にいらっしゃる曾お爺様にもすでに知らせが届いていることでしょう。


 心配をかけていると思うと、胸がギュッと掴まれるような痛みを感じます。


 でも!今は感傷に浸っている時ではございません!


 石の床で眠ったのは初めてでございますので、身体のいたるところが地味に痛みますが、なんのこれしき!ですわっ。( 私の乳母のリルナがよく言っている言葉ですの。)


 まずは状況を確認して、逃げ出す空きができるのを待つことにいたしましょう。人間ですもの、小娘一人だと思えば油断いたしますでしょう。


 このまま曾お爺様達を煩わせることはしたくはございません。負担になるなんて絶対に嫌ですもの。


 助けが来るのを待っている間にどこかに売り飛ばされてしまうと言う最悪な考えも頭によぎります。( 以前読んだ物語の中でそのようなことが書かれておりました。)


 ………私が動くことで返って曾お爺様達にご迷惑をかけてしまうことになるとは思いますが……。


 ですが私、大人しくしていられる自信が全くございません!曾お爺様ごめんなさい!


 体力を残して素早く動けるように、物事の判断も瞬時にできるように万全であらなくてはいけません!


 ……ただそれには、先程から淑女らしからぬ音を盛大に醸し出しておりますこのお腹を少しでも満たすことができれば……ではございますが……。


 ああっ!立派な淑女になりたいと日々頑張っておりましたのに、周りがそれを阻んでまいります!


 私の淑女への道のりは非常に厳しいものになっておりますのは間違いございません!


 ですが!立派な淑女も!ここからの脱出も!私けっして諦める訳にはまいりませんのっ!



 一人拳を振り上げて決起しておりますと、天井で鎖を触る音がいたしました。誰かが来たようです。


 どのようなことになるのかわかりませんが、とにかく!頑張りたいと思います!






うつされた風邪の厄介なこと……。


ありがとうございました。

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