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ハーレム男に制裁を。

作者: 桐谷 キリ

なんでバドミントンあそこで終わっちゃうの(´;ω;`)


早いもので3作目になりました(はえーよ)。

よろしくお願いします_(._.)_


「頼むっ、君のスチルが見たいんだ、頼むっ僕に告白をしてくれっ!!」


 私はいま、珍しく全力で放課後の廊下を走っている。基本走ることなくダラダラと学校に来ては眠りこけている私が、本当に稀なレベルで体中の筋肉を使って走っている。


「逃げないでくれっ、君のスチルがないと僕は先に進めないんだっ!」

「ふっざけんな、誰よあんたっていうかスチルって何、先って何!?」


 私はいま、珍しく大声を出している。別にボソボソ呟いて話しているわけではないが、大声を出すほど誰かを呼ぶタイミングはいまだかつてないし、あったとしても面倒で呼んでいない。そんな私が今、腹から声を出している。


「早く僕に告白してくれえええっ!!」


 どうやら私はいま、見知らぬ誰かのために、その見知らぬ誰かに告白をしなくてはならないらしい。人生初の、告白を。


 後ろの方で英語教師の中村先生の「走るなぁ」という怒号が聞こえた。


 



 遡ること数十分前、いつものように教室の自分の席で眠っていると、どうやら放課後になっていたらしく、窓から茜色が入り込んできた。その眩しさに起きると、いつの間にか私――――谷原知世たにはらちよ―――以外の生徒が教室からいなくなっていた。

 まあ当り前か、と納得していると、ガラガラと教室の後ろの扉から誰か入ってきた。特別驚く理由もないので、いそいそと帰り支度をしていると、どうやら驚く理由があったのは入ってきた誰かのほうらしい、「キャッ」と短い悲鳴を上げた。何故悲鳴。

 そちらのほうを向くと、ポニーテールの良く似合う平均身長の可愛い女子生徒が顔を赤らめてこちらを凝視していた。


「…あ、あんた、なんでここにいるのよ…」


 はて、自分の教室にいてはいけない理由なんてものがあるのだろうか。小さく首を傾げて、どういうことだと意思表示をする。しかし彼女には理解ができなかったらしい。


「川谷くんがもうすぐ来るんだから、出てってよ…っ!」


 見た目からして気の強そうな女子だなとは思ってたが、これではただのわがまま女だ。なんで自分の教室でゆっくりしてはいけないのだろう。いやまあ勉強せずに寝ていた私が言えるセリフではないが。

 私は彼女のお願い―――という名のわがまま―――に対して何の返事もせず、ただ黙って帰り支度をゆっくりと―――もちろんいやがらせである―――していると、廊下から足音が聞こえてきた。それにまた彼女がキャンキャン喚く。子犬か。

 うるさいなぁと思っているうちに、どうやら彼女の言う”川谷くん”が教室に姿を現したらしい。帰り支度をしている私とカッチリ目が合った。が、すぐにポニーテールの女子生徒のほうを向いて、「話って何かな?」とおずおずと聞いている。やらしいわー。


「あ、あの…だからっ、」


 なるほど、彼女はこの放課後の教室で告白をしようってか。まあいい具合に窓が茜色に染まって雰囲気が作り出されている。そう考えると申し訳なく思うのだが、わざわざうちの教室でしなくったっていいだろうが、とやはり文句が出てきてしまう。別にこれと言ってこの教室で何かするわけでもないけどさ。

 と、そんなことを考えていると、ガタンッと机が横にずれる音がした。そちらを向くと、その音は意図したものらしく、ポニーテールの女の子が私に「こっち向け」という合図だったようだ。そしてしっしっと言わんばかりに手を振ってくる。失礼な。私はハエか。

 はいはい、邪魔者は退散しますよーとようやく帰り支度を終え、カバンを持ち教室を出ようとする、が。そこで私の知る青春の一ページは終わらなかった。


「ちょちょちょっ、待って!?なんで帰ろうとするの!?そこ違うよね!?」


 バシッと叩く勢いで私の腕をつかんできた、川谷くん―――話したことないけどポニーテールの子がそう言ってたから―――。え、と思ってるうちに両肩をつかまれ、何故か説得されるような姿勢に。彼の肩越しに驚いたポニーテールの女子が見える。ちょ、ごめん助けて。


「…はい?」

「ほら、今からでも間に合う、間に合うから!」


 何が間に合うというのだろう、そしてぐいぐいとポニーテールの女子のほうへ押しやらんでくれ。というかあんたたち誰よ見たことないんだけど、初対面なんだけど。

 ここは隙をついて逃げるしかないか…と思案しているうちに展開は進んでいたらしい。


「な、あんた、川谷くんの何なの!?」

「…いやそもそも初対面だから、川谷くんの何とか私も知らない…」

「やだな谷原さん、怖いからって僕との関係を拒絶しないでよ…寂しいよ?」


 ちょー待て。なんだ関係って。っていうかなんで私の名前知ってんの。この様子だと今日以前から私の名前を知ってそうなんだけど。何この男気持ち悪いんですけど。

 頭から流れるように出てくる男―――もう気持ち悪くて川谷くんとか呼びたくない―――への罵詈雑言が止まらない。だがそうさせているのは奴である。決して私の口が悪いとか根性曲がってるとかではない、断じて。


「あー…私あなたがたを知らないんだけど…」

「そうね、私もあんたを知らないわ!私、福原綾ふくはらあやよ!」

「あ、谷原知世ですー…」

「じゃあ僕も…」

「川谷くんはみんな知ってるから大丈夫よーっ!」


 よくわからんけど自己紹介始まったわ。っていうかごめんね、「みんな」って誰。


「ははは、なんだか照れちゃうな…」

「ふふっ、それよりもぉー…谷原さん?どうでもいいけどさっさと出てってくんないかな?わかるでしょ?」


 ええ痛いほどよくわかりますし私も早く出ていきたい。だがしかし、私の右腕をよく見ておくれ福原さん。どんなに振り払おうと掴んで離さない君の思い人の手を見ておくれ。そして助けてくれ。どうせなら私を殴って気絶でもさせてくれ。

 だがどんな念を送っても彼女は気づくことなく、それどころか「何見てんのよ」とガン飛ばしてきやがった。ふざけんな福原さっさと告りやがれ。

 これはもうどうしようもないな、と判断した私は、私の腕を掴む彼の手をつねった。瞬間離されたので、グリンッと教室の扉のほうへ急カーブをする。すると後ろのほうで「あ、待てっ!」となぜか追いかける気満々の声が聞こえてきた。


 …そして冒頭へ至るのである。


 冒頭の疑問はいまだ解消されることはないが。


 もう悲鳴を上げたいレベルで後ろから追ってくる川谷が怖い。非常に怖い。なんであんなやつに告らなくちゃいけないわけ。しかも記念すべき初告白とかを奴に捧げろいう。何故。

 そもそも誰だあの男。私の知り合いにあんな気持ち悪い男はいなかったはずだし、いても印象深すぎて覚えてるはずだ。もしやあまりに印象が悪すぎて私の記憶が自動的に奴のデータを抹消してるとか?…あり得る気がしてきた。

 とりあえず外に出るのが一番だと思い、昇降口へ向かう。が、しかし、奴は私の行動を読んでいたのか、昇降口で待ち伏せされていた。もうこれ悲鳴上げて警察呼んでいいかな。

 慌てて階段を駆け上る。駆け上ってる最中、詰んだかもしれないと思ったが振り払った。前向きに考えないと恐怖に蝕まれそうだからだ。校内にある階段の場所を変えては上り、変えては駆け上がっていくと、いつの間にかたどり着いたのは屋上だった。

 階段の下のほうからは、恐らく男のものであろう足音がする。あいつ粘っこいな…と舌打ちをして、目の前の屋上の扉を睨み付ける。

 どうするかな、この屋上確か前に閉鎖されていたんだけど、誰かが鍵を盗んで今は鍵がかかってるかどうかわからないんだよな…。一か八か、開くかどうか試すか…。でももし鍵がかかってたらどうしよう、と考えているうちに、足音が聞こえてくる。さっきより遅くなってるから、バテてきたんだろうか。


「ええいっ、当たって砕けろっ」


 ガチャッとノブを回した。―――が、やはり開くことはなかった。


「なんなのよここまで期待させておいて開かないとか!あれか、神様は意地悪なのか!授業中寝てたのが悪いのか!今更だこんちくしょう!」


 一人ギャンギャン喚いていると、足音がさらに近づいてきている。やばい、騒いでる暇なんかなかった。慌ててどこかに隠れようと目についたのが、掃除用具入れのロッカー。ガランガランッ、とバケツが転がる音がする。その音でバレなきゃいいが、もはやそんなことに構ってられるほど余裕はなかった。

 バンッと勢いよく中から用具入れのロッカーの扉を閉める。少し腕に当たって痛めたが、今は我慢するほかないだろう。

 コツ、コツ、コツと足音がする。なんだあの勿体ぶった歩き方は。用具入れの中でイライラとあの男に対して思う。しかし、おかしい。さっきまで切羽詰まったように私を追いかけていたのに、なんであんな余裕な歩き方ができるんだ?普通騒ぎながら走ってくるはずだ。

 そう思って用具入れの隙間から外を眺めることにした。が、どうやらこの隙間からは見えないらしい。

 やべぇ誰が来てるのかわからない。ヒヤヒヤとどうにか見える視界で状況を把握しようときょろきょろと目線だけで見渡すが、まだ視界の中には人が現れない。足音が途絶えたから、たぶんもうこの屋上の階にはたどり着いてるはずなのだが…とじっと隙間から外見ていた、その時だった。

 フ、と突然目の前が暗くなったかと思えば、目の前には自分ではない誰かの人の片目が現れた。つまり、突然目の前に誰かが現れたのである――――しかも、横から。


「ギャッ!!」

「おー…やっぱり人がここにいたか」


 クツクツと喉で笑いながらガチャッと用具入れの扉を開ける。開けたその人物は、私が予想してた川谷ではなく、上履きの色からして先輩のようだった。彼は、心底興味深そうな顔をして私を見ていた。いややめろ、開けるな。


「お前、なんでこんなとこに…」

「知世ちゃあああああん頼む、スチルを見せてくれえええっ!!!」


 どうやら今度こそ私の予想していた人物が屋上の扉がある階にあがってきたらしい。慌てて用具入れの扉を閉めようとするが、扉の取っ手は先輩―――恐らく―――が持っている。絶体絶命か…とあきらめかけたその時、再び私は用具入れの中へ入った――――しかもさっきよりも勢いよく―――。つまり彼が私を隠すためなのかなんなのかわからないが、扉ごと私の体を中へ押し込んだのである―――これはさっきよりも痛い。腕どころか全身が痛い―――。

 そうこうしているうちに、川谷が先輩―――たぶんそうだと思う―――の存在を認識したらしい。私の情報を求めようと「あの、これくらいの身長の可愛い黒髪の女の子見てませんか」と絶対私のほかにいるだろうと思えるくらい大雑把な説明で聞いている。


「さあ知らないな。俺はここに来るまで誰ともすれ違ってないし、誰の姿も目にしていない」


 どうやら匿ってくれるようだ。まさかこのロッカーから引っ張り出されることはないと思ったが、彼がそう答えたのを聞いて心底安堵した。

 ロッカーの隙間から2人の姿を探ろうとするが、見えるのはあの先輩の後ろ姿だけ。彼の答えに満足したのか、川谷は「そうですか…」と言って礼もせずそのまま走り去っていった。その姿を見て、彼がホ、と一安心し、屋上の扉を開けようとした。おいちょっと待て。


「ちょちょちょちょいっ!!待って!開けてよ!ねえ開けてよ!!」

「…うるせー女だな…」


 どうやら今日は、私が大声を出す日らしい。いつもは出さないのよ、いつもはね?でも今日緊急事態だったのよ、と必死に心の中で弁解していると、彼が扉を開けてくれた。

 よくよく彼、先輩の顔を見てみると、さきほどの川谷より顔が整ってることがわかる。川谷もまあ女子受けしそうな顔だなとは思っていたが、こっちは精巧な顔つきというか、凛々しい雰囲気が出ている。私だったらこっちが好みだなぁとぼんやり考えていると、「入らないのか?」と聞いてくる。


「え、入るとは?」

「…屋上に、だ」


 そう促されて初めて入った屋上にはなんだかんだ感動したのである。学校で空に一番近いこの場所に初めて訪れたのだ。結構楽しいものがある。

 屋上の奥のほうへ行くと、長い間手入れがされていないのかコケのようなものがあったり、汚れが目立っていた。しかし扉の手前のほうは使った形跡があり、どうやら屋上に自由に出入りしているこの先輩がこの辺を中心に使っているらしい。


「自由に出入りしてるってことは、先輩が屋上の鍵を盗んだのですか?」

「…明確には俺じゃないが、盗んだ鍵を一昨年の先輩に貰ったのは確かだ」


 どうやら生徒の誰かが盗んだことは否定しないらしい。


「ふぅん…まあいいんじゃないんですか?冬は寒そうですけど」

「それがまたいいんだよ」

「なるほど、風邪ひきたいとは結構なMなんですねー」

「今日からお前も道連れにしてやろうか」


 そう言い切った彼の顔が、しまったという顔に切り替わる。反対に私はしたり顔でニヤニヤが隠せない。


「おやぁ先輩いいんですかぁ?」

「そ、そんなこと誰か言ったか…?聞き間違いじゃ…」

「『今日からお前も道連れにしてやろうか』」

「てめっ、録音してんじゃねぇ!」


 スマートホンを片手に先輩を脅すと、仕方なく彼はここに通うことを了承してくれた。なんだかんだOKを出してくれるのだから、結構優しいのだろう。と、ここでそういえばと思い出す。


「そういえば、先輩名前なんですか?」

「そういえば、なんで名前知らない奴と喋ってんだ俺」

「それはこっちのセリフなんですけど」

「…。金城亮かねしろりゅうだ。3年の」

「2年の谷原知世です。先輩受験生でしょう、何でこんなとこにいるんですか」

「馬鹿か、ここは大学付属だぞ。受験なんかするか」


 そうだ、ここは確か大学付属なんだった。ということはこの人は外部に受験せず、このままエスカレーターで大学生になるつもりか。

 チラ、とそちらを見ると彼はさっそく屋上の床に寝っ転がっていた。うわぁ、受験ないとこんなにダラダラとできるのか。今からでもしようかしら。

 そう思って彼の横に寝転がった。それに対して驚いたのは、いわずもがな金城先輩のほうだった。


「お、おいっ、馬鹿か、女子がこんなとこに、」

「なんですかそれ、男女差別?やります?男女差別で論争しちゃいます?」

「いや面倒だからしねぇよ何ファイティングポーズ取ってんの論争じゃねぇの?」

「質問多すぎて何が言いたいかわからないんですけど」

「とりあえず寝転がるな、パンツ見えんだろ」

「まさか生パンだとお思いで?ちゃんと体育着着てますよ?」

「見せんな馬鹿迷惑だ!!」


 ギャーギャーと騒いでも声は空へ飛んでいくだけで、校内へは響いていかない。こんな放課後もあったのかと高校2年目になって思い知る。


「そういや、お前なんであんな奴に追いかけられてたんだ?…追いかけられてたんでいいんだよな?ガチなやつだよな?」

「まさか冗談で追いかけっこやってたなんて言うわけないですよ。っていうか私もそれを本人に聞きたいです」

「…つまり何が何だかわからないうちに追いかけっこになってたってわけか」

「いろんな説明すっ飛ばすとそうなりますね」


 ぼんやりと空を眺めながらそう返すと隣で「ほぉー」と興味なさげな返事をよこしてきた。あ、あの雲アイスクリームみたい。


「そいつ初対面?」

「そうですね、しかもあっちは私のことを知っていたみたいですけど…」

「うわ、気持ち悪、お前ストーカーされてんの?」

「残念ながらここ最近誰かに見られてる気配はなかったですね」


 空の茜色がだんだん藍色に滲んできた。今何時だろうとスマートホンで確認すれば5時になろうとしている。まじか、もうこんな時間か。

 そろそろ帰るかなーと立ち上がろうとしたら、ひょいっと片手で持っていたスマホが忽然と姿を消した。


「え、ちょ何盗ってんですか鍵だけでなく人のスマホまで盗る気かこのやろう」

「先輩に向かってなんて口だ。せっかくこの俺の連絡先を教えてやろうってのに」

「別に頼んでないんですけど返せ」

「おいおいそんなこといっていいのかぁ?屋上ここの鍵を持ってるのはこの俺だ…俺に連絡しないと入れないのは誰かなぁ?」

「やらしー男だなこんちくしょう」

「はい、大人しく貴重な俺の連絡先を保存しとけよっと」


 ペッペッとタップしてご丁寧にメルアドまで保存された。メルアドなんていつ使うんだよ、と思いつつ、仕方ないから交換という形で私の連絡先も教えといた。メルアドも仕方なくだが送ってあげた。


「ま、何かあったら言えよ。屋上の好だ、ここのこと秘密にしてくれる代わりにちゃんと守ってやっからよ」


 こんなこと言われてしまえば、メルアドだって断ることはできまい。

 はぁ、とため息をついて言い返す。


「…誰が秘密にするって言いました?」

「え、秘密にしない感じ?そうくる?そうきちゃう?」











 先輩と出会って一か月が経過した。その間も放課後、屋上で先輩とどうでもいい雑談を交わしていた。もともと学校に通ったところで教室で寝てるか本を読んでるか球の授業を受けているかの私にとって、誰かに追われるということも、友達とお昼を食べるということも非日常なのである。

 しかし最近では非日常が日常と化してきてしまった。というのも。


「でさぁ、利人りひとがねー?」

「はあ…」


 女の子らしい小柄なお弁当箱を膝に置き、おにぎりを片手に私の隣でぺちゃくちゃと喋るのは、いつぞやのポニーテールの女子こと福原さん。

 私は本当に不思議で仕方がない。なんでかつて睨まれ、「出てけ」とまで言われた失礼女と貴重な昼休み一緒にご飯を食べなくてはならないのか。

 ちなみにこの前聞いたら、利人、というのはあのキモ男の下の名前らしい。へぇ。


「君の髪の毛のほうがきれいだよって私の髪をなでてくれたのーっ!」


 それってつまり髪の毛しか魅力がないんじゃなーい?とは言えない。体をくねくねとくねらせながら両頬を両手で押さえる姿はなんと恋する乙女らしいではないか。だがしかし、かつて私への失礼な態度を考えると何故ここにいるのか全く分からない。

 っていうかこの子違うクラスなんじゃないの?なんでこっちのクラスまで来て中庭に連れってくれんの?うれしくないんだけど迷惑なんだけど。


「もぉー確かに利人の話を私から聞くのは嫌だろうけどさ、ちょっとくらい真面目に聞いてよね!」


 ぷんっと言わんばかりにそっぽを向いた彼女の褒められたというポニーテールが揺れる。いや揺れるだけならいいんだけど、今バシッと私の頬を殴ったからねそいつ。バシッていったからね、いや柔らかいから痛くないけどさ。


「あー…誤解してるようだけど、私は川谷くんのことなんて、」

「おや、君たち、こんなところで食べてるの?じゃあ僕も混ぜてよ」


 普通に遮られるだけでも不愉快だが、不愉快な人が遮ると殺意さえ湧いてくるなんて私知らなかったわ。今なら持ってる箸でメッタ刺しできるかしらうんできるはず。


「しかも僕の話をしてたようだけど…違ったかな?」

「ううんっ、そんなことない!二人で利人のことかっこいいねって言ってたの!」


 あれれーそんなこと言ってないんだけどぉー。

 思わず心の中でノリに乗っていると不意に川谷がこちらを向いた。


「あれ、綾と仲良くなったんだね。前会った時はなんだか仲悪そうだったけど…」

「そんなことないよっ、私が謝ったら許してくれてぇ…!」


 あれれーいつ謝られたのかなぁー。っていうか自分が悪かったっていう自覚あったのねぇー。

 つーかこっち向くな気持ち悪い。頼むからさっさとどっかいってくれ。と思うのに福原さんががっちり川谷をホールドしている。何この人たちホールドするの好きなの?もうお前ら二人でホールドしあってろよ。


「あー…福原さん、私そろそろ、」

「え、なによぉーもう帰っちゃうの!?そりゃ利人独占しちゃったのは悪かっただろうけどさぁ」


 いえいえもうずっとホールドしててください。むしろずっとそこにいてほしいレベルだから。ドーゾドーゾしたいという気持ちを込めてニコニコ笑うがやはり彼女は勘が悪いらしい。「怒ってるの…?」と見当違いな答えを出してきた。ここまでくるとわざとのような気がしてならない。


「ごめんね、谷原さん。あ、そうだ…こんな事いまさら言うの恥ずかしいんだけど、谷原さんの…その下の名前で呼んでいいかな?」


 はーい君の後ろ見てみてね。福原さんがまるで阿鼻叫喚といったような表情をしてるよ。ほら見ろよボケ。そして再び私を睨む福原さん。やめてくれ不可抗力だ。


「…悪いけど、やめてくれる?」

「……え?」

「私、よくわからない人に名前で呼ばれるの、嫌いなの」

「………え?」

「聞こえてる?わかりやすく言ってあげる。―――貴方、誰」


 どうやら結構衝撃があったらしい。そのすきに私は広げていたお弁当箱を手早く片付けてその場から立ち去る。後ろで福原さんが私に対して大きな声で何か言ってるが聞こえないふりをした。

 中庭から廊下へ戻るところで、柱に寄りかかる金城先輩がいた。なんだこの人かっこつけか。


「…聞いてたんですか助けろよマジ」

「おーい敬語が迷子だぞー」

「それよりなんでこんなとこいるんですか」

「お前俺がここの生徒だって忘れてねーか」

「友達いないんですか」

「あ、そっち?俺ボッチだと思われてるわけ?」


 あいにくちゃんとした友達はいますよーだと子供っぽく舌を出す先輩に少し安心する。やっぱり先輩と話してるこの時間はとても居心地がいい。

 人に関わるのは苦手だけど、先輩なら話していて楽しいし、いつまでも一緒にいられる気がする。その感情を何と呼ぶのかまでは私は知らないが、きっといいことなんだと思う。


「それで、人の話立ち聞きしたんですから、何か感想でもあるんでしょう?」

「そうだなぁー…一番わかりやすい感想を言おうか」

「わかりやすい?」

「前に言ったろ?守ってやるよ」


 気づけば「はい」と言ってしまう私は、もしかして病気か何かなのだろうか。









「えーっと、川谷利人、17歳。身長178センチ。誕生日はー…別にいいか。写真部でクラスの中でもなかなかの人気者。それなりに女子からも人気者でたまにいう気障なセリフ回しで女子を翻弄する天才…お、好みの女子のタイプもあるな。少しミステリアスな感じの子…だってよ」

「あのー先輩、それどっから持ち出したんですか。っていうかその情報どういう経緯で手に入れたんですか」

「まぁ俺の友達が新聞部でな。そいつに聞きゃすぐわかるってわけよ」

「お友達いたんですね」

「どうしてもボッチにしたいらしいな」


 その日も屋上で先輩と話をしていたら、不意に先輩がカバンからファイルに入った数枚のプリントを取り出し、私に見せてきた。そのプリントというのが、先ほど先輩が読み上げた、川谷利人のプロフィールである。

 しかしそんなもの見せられて何をしろっていうのか。


「谷原、お前あいつに変なこと言われなかったか?」

「変なことなんて毎日言われてますけどそうですねぇ…そういえば、なんか、ずいぶん前に「先」とか「スチル」とか言われた気が」

「…「先」…「スチル」…」

「なんですかそれ、私にはよくわからないんですけど」


「……あいつには精神科をおすすめしないといけねぇようだな」


 めちゃくちゃ真顔で言われたので多分本気でそうしないといけないんだと私は悟った。


 その後、私は先輩にあれこれ命令された。その命令のどれもが恥ずかしい内容だったが、真顔でそういわれたのでやるしかないのかとあきらめた。


「そういえば先輩に鍵を授けたっていう先輩って女ですか男ですか?」

「…女だけど」

「…ふぅーん」

「妬いた?」

「何に?」









 次の日、私は先輩に言われた通りに行動した。そのほとんどが普段の私ならやらないことだが、仕方ない。ただ少し気になったのは、今日一日に福原さんの姿が見えなかったことだ。「利人あるとこに私ありっ!」みたいなこと言いそうな彼女には珍しいことである。まあ休みか何かだろうと自己完結したが。

 その日は先輩から屋上にはいかず、教室でただ待ってるだけでいいと言われた。もちろんその通り、私は自分の教室で待機をし、何が起こるかわからないまま、机に突っ伏して何かを待っていた。いや、正確にはもしかしたらこうなるかも…と思うものを待っていた。

 そしてその予想はばっちり当てはまっていた。


「知世ちゃんっ、今日は本当に俺得だったっ!っていうことは僕にようやく靡いてくれたんだね!?」


 バンッと扉を壊す勢いで現れたのは、あの川谷。まあなんていったて今日一日、川谷から離れずなるべく話しかけたのだから。しかも先輩に言われた通り、ミステリアスっぽく静かに発言しつつ、顔を赤らめなあら。

 それが川谷には好印象と思えたのだろう、今や自我を失っているようにしか思えないくらい興奮している。気持ち悪い。


「あっと…ごめんね、つい興奮…いや嬉しくて。やっと僕たち、仲良くなれたんだね」

「…そう、みたいね」


 いえいえごめんですわ勘弁してください。ジリジリと彼が獲物を捕らえるように座っている私に近づいてくる。これは危険な香りではありませんか先輩。

 思わず立ち上がって一歩二歩近づかれるたびに後ろに下がる。気づけば教室の奥に追いやられ、背中が窓にぴたりと当たった。しまった、もう下がれない。っていうかこいつ福原さんはどうしたの福原さんは!!


「ふふ、そんな怯えないで。これからもっと仲良くなるためにスキンシップを深めるだけだから」

「へ、へー…でも女の子を後ろに追いやるなんて、男としてどうなのかしら…」

「やだな、仲の良い僕たちだ、そろそろ進展してもいいと思わないか?」


 いいえ全くそうは思いませんね、むしろ今日一日だけで仲良くなれたと思ってるお前にいい精神科をお勧めしたいわ。…先輩が言ってた精神科の件ってこのことかしら、とふと思ったその時だった。




「はーい、そこまでよー川谷利人ー!可愛い可愛い知世ちゃんにそれ以上近づいたらケツの穴広げんぞボケェ」




 最近よく聞いたことのある、でも今日は聞かなかったその声が私とキモ男だけの教室に高らかに響いた。その綺麗なはつらつとした声で紡がれた言葉は下品以外の何物でもないが。


「あ、あや、」

「福原さん…っ!?」

「ふふーっ、やっぱり貴方の言ったとおりねー金城くん」

「一人でかっこつけないでくださいます?ここ俺がとるとこなんですけど」


 ポカーンと口を開いて固まった川谷と同じように、私も唖然と目の前の光景に驚いて体が動かない。だって、だっておかしい。なんで。


「なんで先輩私には敬語つわないんですか!福原さんには使ってるくせに!」

「お前はそこしか興味ねぇのか!!」

「当たり前でしょ!?さっさと敬語使えよこのやろー!」


 そんな私たちを置いて、福原さんがこっちに歩み寄り、私に迫っていた川谷の腕をひねりあげる。川谷からは痛みの悲鳴が上がるが、少しずつ状況を把握するべく呻りながらも言葉を紡いだ。


「な、なんでっ、綾は俺に惚れてたはず…っ!」

「だぁかぁらぁ、なんであんたみたいなの惚れなきゃいけないわけよ?私のタイプは素敵なオジサマなんだけど」


 そう言いながら彼の腕を離し、距離をとる。そして何やらごそごそと後ろのカバンから探り始めた。


「は、はっ!?だって綾は優しくて王子様みたいな人がタイプだって、」


「―――それはゲームの上でのお話かしら?」


 その瞬間、空気が変わった。いやもともと空気が変わっている感じはしていた―――主に福原さんの周りで―――。彼女の手には一冊のノートが。どうやらそうとう使い古されているようで、結構ボロボロである。

 私にはそれが何なのかわからなかったが、どうやら彼、川谷には違ったらしい。カッとなったのか慌ててそのノートを奪い取ろうと福原さんに突進する。が、福原さんはそれを予測していたのか、それを軽くいなし、再び彼の腕をひねりあげる。


「何度体で体験すればわかるのかしらね、私とあなたじゃ、あなたは一生勝てないわよ…もっとも、今まで騙されたんじゃ話にもならないけど」

「は…っ!?だますって…なんなんだよ!お前は”ゲームの中の福原綾”だろ!?」


 ますます2人が言ってることがわからない。いや、本当はだんだんわかり始めている。ゲーム…それはプログラム上で作られた、実際には想像しない仮想世界。

 「スチル」や「先」と叫んでいた彼の言葉。怠くてほとんど寝て過ごしていたにもかかわらず、先生たちからは一切のお咎めもなかった毎日。彼が必死になって私を求める理由。

 それらはすべて、この世界が普通の世界と違うとしたら。

 いやでもそんなことはない、だって私は実際に生きてるわけだし。でも、川谷や福原さんが言ってることが本当だとしたら。それならば、私は何故彼らに巻き込まれているの。――――それは。


「ギャルゲー…ってこと?」


 呟いたはずの言葉は、結構大きくて。四人しかいない教室にはよく響いた。これではもう後には戻れないではないか。


「あなたは現実世界をギャルゲーと見立てて行動してたってこと…?」


 ゆっくりと確かめるように言葉を紡ぐ。しかし、彼は正反対に矢継ぎ早に答えた。


「いいやこの世界はギャルゲーの世界だ!僕は転生したんだ!!現実世界なわけあるもんか!そうに決まってる、恐らくそろそろゲームのスタート画面が出てくるはずだ!リセットボタンが用意されたスタート画面が!!そうすればお前らの記憶も全部なくなり、最初からになる!そうだ、そうじゃなきゃおかしい!俺がこの世界の主人公なんだから!!!」


 どうやら先輩が言ってたことは本当らしい。彼には本格的なカウンセリングが必要だ。つまり彼が求めていたのは私や福原さんではなく、ゲームの中の私たち、ヒロインの姿だ。

 なるほどね。私がゲームと正反対なことを勝手にしてたから眠くなってプログラムが停止し、バグとなって先生からの一喝もなかったわけか。

 しかし何故、彼女、福原さんは気づくことができたのだろう。というか今までの福原さんは川谷にべた惚れだったじゃないか。もしかして最初から気づいて演技してたってこと?思わず彼女のほうを凝視していると、パチンッとこちらにウインクしてくれた。…か、返せってことか。

 いつの間にか福原さんは彼の腕を話していたららしい。どうしようかと考えていると、再び川谷が暴れだした。


「だいたい、プログラムの貴様らが勝手に動いていいと思ってんのか!!バグだ!!さっさとスタート画面を…っ」

「このノート、ほんっとーによくできてるわねー身長、体重、全て一緒」

「…な、お前、プログラムのくせに、何見て、」

「でもね、一つだけ違うところがあるの」

「え?」

「なっ、どこだよ!俺の記憶に狂いがあるってのか!!」

「さあ?本物のギャルゲーを私は知らないからわからないけど、――――私、17歳じゃないのよ?」

「……は?」


 再び凍り付いた川谷の反応に満足したのか、彼女はゆっくりと川谷のほうへ歩き出す。笑っているその顔は、とても女子高生のものとは思えない。妖艶で、色っぽくて、この前まで川谷とキャンキャン騒いでいた福原さんとは大違いである。

 17歳じゃない、とはいったいどういうことだろう。そう考えたときにふと金城先輩と視線が合った。


「私、2年間の留学をしてたのよ」

「…りゅ、留学…?」


 その言葉に驚きを隠せないのは川谷だけじゃなく、私もだった。しかも、2年間。


「あなたのノートには同級生としての福原綾がいたようだけどこっちの福原綾は、本当は今じゃ大学生の福原綾ってわけ」


 なるほど、偶然福原さんが留学したことによって同級生として接していたが、本当は19歳の先輩だったってわけか。

 つまり、ゲームとはもともと違う人物で、偶然が重なって今の福原さんができたということか。一人納得していると、もちろん川谷はそれに反発した。


「でも結果的にゲーム通り綾は僕にべったりだったじゃないか!!」

「馬鹿ね、あんなの演技に決まってるじゃない」

「え、演技…!?」

「そもそも私、彼氏いるのよ?素敵な年上の彼氏が。あんたみたいなケツの青いボーヤ好きになるわけないじゃない」


 高飛車にそう言い放つ彼女は大人な感じがして凄い素敵だった。いや場違いな気がするけど本当にそう思ったんだって。

 そして今まで静観していた金城先輩が一歩前に出て

思い切り川谷の胸ぐらを掴む。


「さあ、選ばせてやるよ。これから二度と外に出られないほど羞恥にまみれた生活を送るか、二度と俺たちの目の前に現れないか…どっちにする?」

「…っ!!!」










「そもそも私がギャルゲーって気づいたのは、川谷が私に馴れ馴れしく話しかけてきた時…つまり高2の初めのころよ。なんかおかしいなーと思ってたらある日偶然彼の机にこのノートが置いてあって。最初は信じられなかったけど、調べたらノートに書いてある登場人物がほぼ全員この学校にいるんだもの。これはおかしいと思って彼に合わせたふりをしながら様子見してたってわけ」


 普通留学して留年した生徒にはみんなよそよそしくするでしょ?それをまるで何も知らないように来たのがちょっとおかしかったのよ、と陽気に笑う福原さんに、今までの面影は一切ない。

 なんだこの人、すごい侮れないんだけど。なんかいろいろ失礼なこと考えててごめんなさい。


「でもあなたには驚いたわよー?彼が望んでいたシナリオ通りに話さないわ、別のところで青春してるわで」

「…青春?」

「おい先輩っ、もういいだろ!!」

「っていうか先輩と福原さんってどういう関係…?」

「ヤダ気になっちゃう?気になるわよね?」

「おい!!」


 結局あのキモ男は2度と私たちと関わらないと誓い、学校から立ち去っていた。それを見計らって屋上に場所を移し、4人向かい合うようにして座っていた。……4人?


「ちょ、なんで英語教師の中村先生が…っ!?」

「よぉ谷原、今気づいたとかひでぇな」


 忘れないでいただきたい、この男、冒頭で私と川谷が追いかけっこをしてる時に「走るなぁ!」と怒鳴ったあの英語教師である。

 しかし何故この英語教師がここに…?ここにいて理解できるのか…?という疑問が顔に出てたらしく、クスクスと向かい側に座っていた福原さんが笑いながら答えた。


「中村先生は私の彼氏。安心して、金城くんとは一切そういう関係じゃないし、そういう雰囲気には1度もなったことないわ」

「は…?そういう雰囲気…?ていうか、かれし…ええええっ!!??」


 思わず立ち上がった私に、福原さんも中村先生もシーッシーッと人差し指を立てて口元に当てる。いやでもあれでしょ、禁断ってやつでしょこれ。

 私の言いたいことがわかっているのか、ふたりは苦笑しながら「好きだからしょうがない」と言っていた。なんだこの雰囲気、熱いんですけど。


「金城くんに盗んだ屋上の鍵を、留学する前に託したのよ。その時は中村先生とは付き合ってなかったし、たまたまサボってた金城くんにしか使い道ないだろうと思って渡したの」


 なるほどね、だから金城先輩は「一昨年卒業した先輩」と言わないで「一昨年の先輩」と言ったわけか。

 これで気になる事は解決したかしら?とニコニコ笑いながら聞いてくる彼女に聞きたい、あなた何者だと。しかしそれを聞かないのは暗黙の了解ってやつだ。


「そもそもあの川谷ってやつむかついてたのよねー…女を弄ぶ感じがして」

「まぁゲームの世界だと信じて疑わなかったからな」

「そういや先生、ちゃんと精神科用意したんだろーな?」

「お前綾には敬語使うくせに俺には使わねえな…まぁいい、ちゃんと用意したさ」

「使う必要性がねーからな」


 どうやら私の知らないところで結構大きな力が働いていたらしい。いつの間にかシェルターに避難させられていた私は、川谷の毒牙にかからずに済んだようだ。


「でも変なのよねー、他のヒロインはちゃんと物語通りの性格だったわよ?」

「谷原の物語通りの性格はどんなんだったんだ?」


 先生の問に福原さんがノートを引っ張り出して私のページと思しきところを開く。まだ持ってたんかい。


「ミステリアスでツンデレな感じらしいよ」

「へぇー…ミステリアスでツンデレねー…」

「なんですか先輩目ん玉ぶっ潰しますよ」

「暴力女の間違いだろ」


 確かにその通りである。

 しかし、福原さんの言う通り、どうして私だけが物語通りに動かなかったのか。

 私が本格的にシナリオで動くのは、どうやらシナリオの中の福原さんが告白しようとするのを止めるシーンかららしい。どこかで聞いたことあるような感じに私は違和感を覚えた。


「ああ…なるほど、やっぱり福原さんはイレギュラーだったんですよ。だから福原さんに関わった私もイレギュラーになり、しかも金城先輩に出会った…イレギュラーにイレギュラーが重なったんです」

「ふぅーん!なんだかんだ金城くんのおかげね、良かったわね、金城くんっ!」


 ニコニコと楽しそうに喋る福原さんはまるで近所のおばちゃん状態だ。それに迷惑そうにする先輩も先輩で顔が赤くなっている。

 それに気づかないほど、私は鈍感ではない。


「ねえねえねえ!知世ちゃんは金城くんのこと、」

「あ、おい先輩っ、」

「ーーーああ、多分好きですよ?」


 突然の私のカミングアウトに、その場が驚きで固まる。安心したまえ、自然に出てきた言葉に私が一番驚いているのだ。

 瞬間意味を理解した私と先輩の顔が真っ赤に染まる。


「きゃーっ!先生!私達は退散しましょ!これからデート!」

「はははっ頑張れよ若人ども」


 騒ぐだけ騒いで残していくスタイルをどうしたものか。この微妙に熱っぽい雰囲気はどうしたら無くなるのか、いやいっそもう…なんてことを考えていると、「なぁ、」と声をかけられる。


「な、なんですか!」

「なんでそんな喧嘩上等みたいにファイティングポーズとってんだよ…」

「い、いいでしょ別に!」

「…。なぁ、さっきの、本当?」

「すす、好きですが、何か!?」


 屋上から見える空は茜色に変化していく。気づけば藍色も混ざろうとし始めていた。

 先輩の顔が、夕焼けのせいか、それともさっきの言葉のせいか、赤く見える。


「安心しろ、お前が好きだろーと好きじゃなかろーとお前から離れねえからさ」


 キザな先輩、という言葉は、先輩によって遮られた。目の前には先輩の顔があって、唇には柔らかい感触。何をされてるのかなんてすぐわかった。

 言葉ごと飲み込むキスは強引だけど優しくて。きっと幸せなんだ、とそう思った。



 高校2年、ハーレム男をぶっ倒した後、私は一つ上の彼氏を手に入れた。なんだかんだ、幸せである。





「そういえば先輩、守ってやるとか言ってた割に最後胸ぐら掴んで終わったじゃないですか。あれ守ったんですか」

「まぁ守るにもいろんな意味があるからな」

「それ見守るの間違いですよ」





設定とか結構荒くなってると思います…何せオリンピック見てたので( ´艸`)←言い訳


修正頑張りますでふ。


ここまで読んでくださりありがとうございました_(._.)_

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ギャルゲーでスチルって言い方はしません [一言] なんのこっちゃいと思ったら 乙女ゲー特有の言い方みたいですね
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