ひずみ、ゆがむセカイ
「ん?」
感じ慣れた気配を察知する。
(またかよ……)
もう何度も遭遇している、というか来襲されてるが、慣れるという事はない。
死と隣り合わせ…………それどころではない、存在の消滅がかかってるのだ。
憂鬱になっていくのを止める事はできない。
それでも行かねばならないというのも分かっている。
しなければ、世界の崩壊そのものがありえるのだから。
立ち止まって意識を集中させていく。
周囲と自分が隔絶されていき、世界そのものがあやふやになっていく。
つられて自分の存在も消えていきそうになる。
そうならないように、自分という存在を強く保つ。
他の誰かや、周囲の状況に頼らない、それらを基準にしない。
己自身を基準にして。
取り巻く空気や、足下の地面すら無くし、重力も消えてなくなる。
『在る』という当たり前の土台がなくなった事で、ありとあらゆる束縛から解放される。
それは同時に、そういったものとの間で成り立っていた自分自身をも意識しづらくなる。
境目の消失は、自分とその他────世界との接点をも消失させる。
自然と自分という存在を確認できなくなり、周囲と融合して消えていく。
…………そうならないように自分を保つのはかなり厳しい。
そんな確固たる『自我』をもってる者は意外と少ない。
だからこそ、こういった事態に対処出来る者も少なく、嫌でも一人あたりの負担が増えてしまう。
次元の歪みとひずみ。
それらに対処するのに必要な素質や才能であるが、それが幸いといえるかどうかは悩ましい。
目の前にあらわれるモノと相対すると。
「まったく……」
歪み、あるいは歪み。
それを「ゆがみ」と呼ぶか「ひずみ」と呼ぶかは人それぞれだろう。
だが、「歪( いびつ )」である事に変わりはない。
そして、害や仇なすものであることも。
存在していて良いことはない、ただ排除するべき対象としての存在。
本来、いるはずもないモノ。
だからそれはそう呼ばれていた。
誰がそう呼んだのかしらないが、いつの頃からか口伝えにつたえられて。
「歪」と。
それが形をともなってあらわれてる────ように認識される。
次元が曖昧になっているこの場所( というのも語弊がある )において、それは一応認識されるものとなってはいる。
しかし、「歪」はそう呼ばれるとおり歪な形をしている。
存在する次元にあわせて姿は形を変えるというが、その次元(世界)において歪と思われる形をとる事がほとんどである。
発生原因が理由なのだろうと言われているが、その理由はいまもって謎が多い。
解明しようにも捕らえる事もできないのだから。
ただ、わかってる事は一つ。
『倒さなければ、存在が消える』
だからこそ、相対する者は躊躇わない。
躊躇う事は許されない。
すれば自分自身の消滅につながる。
今回あらわれた歪は、無数の口がついた塊であった。
蠕動するように形をゆがめながら、体中に付いてる口を開閉している。
そこから声と言えない音をわめきちらしつつ接近してきていた。
大きさは、主観的な感覚で、数十メートル四方といったところか。
遠近感も定かではない場所での事なので、見ただけでは大きさははっきりとは分からない。
それでも、人間よりははるかに巨大であると認識はされている。
普通であれば、そんなモノに立ち向かえる術はないだろう。
しかし。
意識を集中していく。
この場所で、現実として存在する物理法則などは意味をなさない。
形から解放されたこの場所において、大切なのは「存在する」という確固たる意志。
そして、出来ると思う「信念」。
意地や気合いといったものが、この場所では必要となる。
たんに思い込むだけでは意味はないが。
しかし、自分という存在を確かに感じる事で、ここでは無限の力を放つ事ができる。
今も、大きさでいえば遙かに巨大な「歪」を前に、対する者は決してひるんではいない。
何度も同じ事を繰り返してもう分かっている。
ここで必要なのは何なのかを。
その手に、一振りの刀があらわれる。
戦う、という意志が形をとってあらわれた。
形の定まらない場所でのこと、意識したものが形となってあらわれる。
今、戦うという意志は、彼のなかで刀として結実していた。
今まで生きてきた環境や、持って生まれた性質や素質などが影響しているのだろう。
別の者は、銃や弓としてあらわれる事もある。
それこそ魔法じみた力としてあらわれる者もいる。
千差万別の発現をする力、それらのただ一つの共通点。
それがゆがみながら向かってくる肉の塊へと向かっていく。
研ぎ澄まされた刃である。
意識の発露によってあらわれた物は、求める意志によって精度を変える。
曇りなき思いには、最大限の結果が伴っていく。
軽く振り上げて、全てを切り裂かんと切り落とされた刀は、持ち主の思い通りの結果をもたらす。
相手との距離は、まだ詰まってもいない。
しかし、離れている場所にすら届くほどの「切る」という意識。
振り、そして、切るという念が届いた結果、「歪」はその身を切り裂かれていく。
「?*><#Q”($%QEVGFAWJ#|`ALE#!!!!」
意味をなさない声があたりに響いていく。
衝撃となって相対した彼にふりかかるくらいに。
存在が、かすかに揺らぐ。
しかし、すぐに意識をととのえた彼は、続いて攻撃をしかけていく。
手応えはあった。
ならば、攻撃を続行するのみ。
その度に、無数と思える口から悲鳴があがり、彼に打撃を与えてくる。
だが、それも攻撃が続くごとにだんだんと威力を減らしていった。
存在が揺らいでいるのだ。
肉の塊とて、この場においては存在を常に揺らがしている。
何かの衝撃で形が崩れれば、そこから存在が消失していく。
数十メートル四方はあろうかと思われた体も、一太刀、二太刀と攻撃を受けるごとに体を消失させていった。
最初は傷を受けた所から。
それから、体の中心から離れてると部分が。
斬られて傷となった部分が、分解され煙のように消えていく。
意識を伴わない部分は自分を維持する事ができなくなり、形を失っていく。
確かに巨大な存在は、消え去るまでに時間がかかる。
それでも、決して倒せないというわけではない。
大きさが強さを決定する要素とはいいきれないのだ。
単純に大きさだけ比べれば圧倒的に小さい彼の方が優勢なのだから。
必要なのは意志である。
その意志が、切り刻み、ついには半分以下の大きさにまで縮小した塊を両断する。
「|~!=#$~Q!)QA>WPQ}!~~*`+>{?<!$」
不可解な音を悲鳴としてまき散らしたそれは、それを最後に消えていった。
自分を維持できる最低限の大きさを失ったのだろう。
手にした刀は、武器として、戦うための手段としてあらわれるものに共通する意志を確かにもたらした。
ただ一つの目的を。
────敵を倒す
周囲に戻った静寂が、それをしっかりと示していた。
世界、あるいは宇宙。
それらの存在する枠組みを、誰が言い出したか『次元』と呼び始めた。
その次元が接するとき、そこに摩擦や歪みが生まれる。
たいていは自然に修復するが、その余波はさけられない。
淀みや歪みであるそれらは、次元そのものに作用する。
空間・時間に影響を及ぼし、様々な出来事を発生させる。
大半が壊滅的な事象となって。
例外も中にはあるだろうが、それらは確かに存在する全てに影響をおよぼしていた。
揺らぎがもたらす効果は千差万別で、何がどのように起こるかは予想もできない。
よくあるパターンはいくつか存在するも、どれがあらわれるのかはなってみないと分からない。
ただ、共通して言える事はある。
────次元の歪みは、存在そのものの消失となる。
それまで存在していたものが、消え去る。
それも、いきなり。
恐ろしいのは、今までそこに存在していた、という事実すらも消え去る事。
それに当たってしまえば、目の前に存在していたとしても、消え去った次の瞬間にそこに誰かがいたという事すら誰も覚えていない。
それもまた揺らぎにあてられた者達への影響と言われている。
だからこそ、次元の接触によって発生する揺らぎと、それが形を伴った「歪」を察知する事ができる。
衝撃によって発生した空間でも自分を保つ事ができる。
「歪」として形をともなった歪みと対峙する事ができる。
巻き込まれてる、というならその通りなのだろう。
対応する者達の全てが、「歪」に対抗するために志願した者達ではない。
大半が、それと分からず察知して、何も分からないまま巻き込まれてるのだから。
それでも彼らのほとんどは戦い続けている。
したくなくても巻き込まれ、やらねば自分が消滅するのだから。
「歪」を倒した事で、空間が徐々に復元していく。
揺らぎを察知した場所が周囲にあらわれていく。
騒音や喧噪も戻ってくる。
何も無かったかのような場所に立ち、何も変わってない事を感じる。
再び歩き出す。
命だけでなく、存在していた事そのものを賭けた戦い。
それを認識出来る者はほとんどいない。
大半の者達が、彼がどれほどの危険をおかしたのかも知らない。
それでも、彼は戦っていた。
報いもある。
揺らぎをただして正常化させる事で、世界とそれをとりまく次元が元に戻る瞬間。
その時に、いくらか現実を改変する事もできる。
自分の望んだ事や、夢が、ささやかながら叶っていく事がある。
今回も彼はそれを手に入れる。
臨んでいた出来事が実現するよう願う。
歪みが元に戻る瞬間に生じる、自分の願望を差し込む隙間。
揺らぎが大きければ大きいほど差し込む余地も大きくなる。
それによって手に入れられる願望。
それがどういう形で成就するのかは分からない。
だが、それが存在を賭けた彼らが手に入れる報酬であった。
後日。
彼が常々うとましく思っている者に不幸が訪れた。
青天の霹靂と言えるほどの急展開だったので、事情を知る誰もが驚いた。
だが、そんな中で「歪」と戦った彼だけが、結果が出た事に満足していた。
自分なりに異世界とか異次元とか。
あるいはバトル物というか。
そんなものをやってみたいと思って書いてみた。
説明が全然足りないとは思うのだが、とりあえず形にするだけしてみようかと思って。
悩んでばかりで何もしなければ、永遠に発表もできないし。
完全な状態じゃなくても、とにかく「こんなの作りたいです」というのを形にしないと。
余裕があれば、これもまた続きを書いていきたいと思ってる。