第9話 領主になりました(ただし、強力な山賊の退治が必要)
翌日。
領主の申し出を断ったので、近い内に村を出て行くことにした。
これ以上、この村に滞在していると、情が移ってしまいそうだからな…………
さてと、ここを出て行く前に、十字架の木について調べてみよう。
村の人間に聞いた感じでは、十字架の木は普通の木みたいだ。
いや、謎が隠されているはずだ!
そんなことを考えていると、目的地に到着した。
てか、相変わらず、神秘的な光景だよな…………
軽く咳払いしてから、マコトが口をひらいた。
「……あの、神様的な存在がいるなら、出てきてくれませんか? そろそろ説明してくれても、いいんじゃないかと……」
それからしばらく待ったが、返事はなかった。
十字架の木を睨みつけながら、マコトが強い口調で言った。
「返事をしてくれなかったら、この木を燃やすぞ!」
自分で言っていてなんだが、頭がオカシイ人だよな…………
それからしばらく待ったが、返事はなかった。
十字架の木を蹴飛ばしてから、マコトが叫んだ。
「本当に、燃やすからな!」
マコトが火をつけようとした所で、気がついた。
この十字架の木が本当に重要なアイテムだったら、取り返しがつかなくなってしまう…………
しばしの沈黙の後、マコトが頭を下げて懇願した。
「調子に乗って、すみませんでした。あと、悪魔的な存在でもいいので、本当に説明してください」
そこで、近づいてきた、ヒミコが質問してきた。
「……何をしているんですか?」
『俺が、知りたいよ!』と答えそうになったが、ヒミコを混乱させても意味はないのだ。
姿勢を正してから、マコトが答えた。
「この木を調べていたんです」
「……はあ……」
キョトンとした表情を、ヒミコが浮かべていた。
まあ、ヒミコにとっては普通の木なのだし、当然の反応だろう。
だが、俺にとっては違うのだ。
「この木に関しての伝承とかは、ありませんか?」
若干の沈黙の後、ヒミコが答えた。
「この辺の森は私の家が管理していますが、伝承などは特にありませんよ」
領主も何も知らないみたいだし、この木についての情報はもう出てこなさそうだな。
まあ、本当に普通の木の可能性もあるし、放置でいいか。
そんなことを考えていると、ヒミコが口をひらいた。
「そうだ。行商人が来ているので、呼びに来たんです」
数秒間の沈黙の後、マコトが口をひらいた。
「……なぜ?」
悲しいことに、俺には物を購入するお金がないのだ。
まさか、見せつけるつもりか!
マコトが睨みつけると、ヒミコが質問してきた。
「マコトさんは、山賊との戦いのせいで、荷物を失ったんですよね?」
『いや、始めから何も持っていなかった』と答えたら、どうやってここに来たのか、説明しなくてはいけなくなる。
だから、ウソを吐くことにしたのだ。
そんなことを考えていると、ヒミコが唇を動かした。
「領主様が失った荷物を弁償してくれるので、マコトさんが選んでください」
まあ、正当な報酬だと思って受け取ろう。
てか、あんまり優しくしないで欲しいな。
この村を見捨てられなくなってしまうから。
そんなことを考えていると、村の広場に到着した。
広場の中央で、行商人が荷物を広げている。
えーと、値段はボッタクリ価格だな。
いや、山の中だし、これが適切な値段なのかもしれない。
そこで、行商人がヒミコに話しかけた。
「……ヒミコちゃん、借金の件なんだけど……」
大きく頷いてから、ヒミコが微笑んだ。
「わかっています。みんなに挨拶してから、あなたの所に行きます」
申し訳なさそうな表情を浮かべて、行商人が口をひらいた。
「……そうか……二~三日は滞在しているから、お世話になった人に、ちゃんと挨拶するんだよ」
「はい」
えーと、聞くのが凄く怖いな…………
「……借金があるの?」
こちらが問い掛けると、ヒミコが微笑んだ。
「はい、母親の薬代をお借りしました」
確か、ヒミコの母親は既に死んでいるはずだった。
なんで、この子はこんなに不幸なの?
呪われているのか?
いや、それよりも――
「……領主様から、お金は借りられないの?」
マコトが尋ねると、ヒミコが首を横に振った。
「この村は貧しいので、私たちだけを優遇して貰うわけにはいきません。それに、他に借金を返す方法がありませんから」
そう言い残して、ヒミコが自宅に戻っていった。
このまま放置でいいのか?
またヒミコが、売春宿に売り飛ばされてしまうぞ。
いや、この世界での正当な取引だし、俺は黙っていよう。
うん、十分に恩は返したしね。
その日の夜。
マコトが眠ろうとした所で、扉がノックされた。
すごく嫌な予感がするが、無視するわけにもいかないからな。
「……どうぞ……」
こちらが入室を促すと、ヒミコの弟であるカイトが入ってきた。
ちなみに、凄く美少年である。
「マコトさん、少しいいですか?」
目が血走っているし、断れる雰囲気ではないな…………
「少しならね」
感謝の言葉を述べた後、カイトが頭を下げてきた。
「僕は、お姉ちゃんと離れたくないです。何でもするから、お姉ちゃんを助けてください」
その心意気はいいんだが――
「……なんで俺に頼むんだ?」
こちらが問い掛けると、カイトが強い口調で言った。
「マコトさんが、村を救った英雄だからです!」
答えになってないような気がするんだが。
いや、今回は正しい選択だろう。
俺が望めば、ヒミコが売り飛ばされることはなくなるはずだ。
だが、ただでヒミコを貰うことは出来ないだろう。
カイトの目を見つめながら、マコトが問い掛けた。
「何でもするって本当か?」
「はい」
即答だった。
「俺はホモだが、それでもいいのか?」
若干の沈黙の後、カイトが大きく頷いた。
「……はい……」
おっと、動揺しているな。
「それなら、服を脱いでこっちに来い」
「……はい……」と答えた、カイトが服を脱いでいく。
なんか、目茶苦茶色っぽいぞ!
ホモの気持ちが、少しだけわかったよ。
カイトが上半身裸になったところで、マコトが口をひらいた。
「わかった。お前の願いは叶えてやる。だから、服を着ろ」
このままでは、間違いが起こりそうだった。
キョトンとした表情を浮かべていた、カイトが質問してきた。
「……エッチなことをしないんですか?」
こいつは、結構スレているよな…………
まあ、これだけの美少年だと、色々とあるのかもしれない。
「俺はホモじゃないし、お前の覚悟が知りたかっただけだ」
ホッとした表情を、カイトが浮かべていた。
君に男性経験がなくて、俺もホットしたよ。
「俺は領主に話があるから、お前は家に戻れ」
こちらの発言を聞いた、カイトが部屋を出て行った。
さてと、俺も覚悟を決めるか。
領主の私室に移動して、マコトが扉をノックした。
「どうぞ」
領主の私室に入った、マコトが強い口調で言った。
「シンさん。私を養子にしてください!」
凄く驚いた表情を浮かべていた、領主が質問してきた。
「本気ですか?」
「はい」と、マコトが力強く答えた。
それからしばらく、領主がこちらの目を見つめてきた。
俺が、本気かどうか知りたいのだろう。
だから、目は絶対に逸らさなかった。
一分後。
領主が頭を深く下げてきた。
「マコトさん、村のことを頼みます」
こうして、俺は領主の養子になったのだ。
三十分後。
ヒミコを自室に呼び出して、マコトが口をひらいた。
「ヒミコ、今日から俺が領主の跡取りになった」
「おめでとうございます」
あれ?
リアクションが薄いな。
「てか、よそ者が領主になることに反発はないのか?」
こちらが尋ねると、ヒミコが微笑んだ。
「ないと言ったら、嘘になりますが、恩人に文句は言えません」
そんなものか。
さてと、本題に戻るか。
「ヒミコ、俺が正式に結婚するまで、夜の相手をしろ。その代わりに、借金は全て払ってやる」
こちらの提案を聞いた、ヒミコが首を横に振った。
「気を遣わないでください」
そりゃあ、気を遣っている部分もあるさ!
だが、
ヒミコの肩を掴んで、マコトが叫んだ。
「俺は、お前が欲しいんだ」
こちらの発言を聞いた、ヒミコが顔を真っ赤にしていた。
これだけストレートに求められたら、照れもするだろう。
「お前が、俺のことを嫌いなら諦めるが……」
マコトが寂しそうに呟くと、ヒミコがすぐに首を横に振ってくれた。
「嫌いではありません」
『それじゃあ、好きか?』と聞く勇気はなかった。
この世界では、知り合って一月少々だからな……
「じゃあ、問題ないんだな?」
こちらが強く問い掛けると、ヒミコが小さく頷いた。
「……はい……」
こうして、俺は愛人を手に入れたのだ。
羨ましいと思う人もいるだろうが、自分よりも強い山賊を退治する仕事と引き替えだ。
正直なところ、あんまり割りにはあっていないと思う。