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第8話 領主になりませんか?(ただし、貧村)

 マコトが目を覚ますと、ヒミコが微笑んだ。


「あ、起きてくれた。待っていてください、いま領主様を呼んできますから」

 そう言い残して、ヒミコが部屋を出て行った。


 ここは、領主の館なのか。


 自分の体を確認すると、左肩と右足が治療されていた。

 まあ、村を助けた恩人だから、当然か。


 そんなことを考えていると、老人が部屋に入ってきた。


林仲リンチュウの領主、シンです。村を助けてくれて、ありがとうございます」

 そう言って、老人が頭を下げてきた。


 いや、俺はヒミコのために戦ったんだが…………


 ヒミコの方を確認すると、笑顔を浮かべていた。

 まあ、ヒミコが無事でよかったよ。


 そんなことを考えていると、領主が口をひらいた。


「怪我が治るまで、何日でも滞在してください」

 衣食住の心配をしなくていいのは、助かるな。


「お世話になります」

 こちらが軽く頭を下げると、領主が質問してきた。


「ところで、あなたの名前は?」

 そういえば、まだ名乗っていなかったな。


井上誠いのうえ まことです。マコトと呼んでください」

 



 それから、一ヶ月ほど林仲の村に滞在した。


 その間に、林仲の村のことを、ヒミコ(俺の世話係)から色々と聞いた。

 村人の数や周辺の地形、特産品の有無や隣村との関係などなど。


 全ての情報を統合すると、東国との国境にある貧村という表現がピッタリな村だった。


 そして、マコトの体調がある程度回復して、一人で歩けるようになった所で、領主に呼び出された。


 こちらが部屋に入ると、領主が強い口調で問い掛けてきた。


「マコトさん、この村の領主になりませんか?」


 こちらが『何を言っているんだ、こいつは?』みたいな表情をしていると、領主が説明を続けた。


「私には、跡取りがいません」

 そうらしいね。


「そして、この村を相続するかもしれない遠い親戚は、この村に代官を派遣して税金だけを受け取ろうとしているんです」


 ただでさえ貧乏な村なのに、それは死活問題だな。


「だから、マコトさんが、この地の領主になりませんか?」


 えーと、色々と突っ込み所があるな。

 まずは――


「血縁関係がないのに、領主になれるんですか?」

 こちらが問い掛けると、領主が大きく頷いた。


「私の養子になれば、大丈夫です!」

 いや、大丈夫ではないと思うけどな。

 

 例えば――


「寄り親(上司)は、認めてくれるんですか?」

 マコトが問い掛けると、領主がハッキリとした口調で答えた。


「私の寄り親である、白龍ハクロン様は、国境の村が代官地になって、不安定になることを望みません」


 まあ、代官が適当に統治して、村が山賊に支配されたら困るのは寄り親の方か。

 えーと、他の問題は――


「この村を相続するはずだった、遠い親戚が納得しないのでは?」

 こちらが質問すると、領主が意見を述べてきた。


「向こうと揉めたくないんだったら、向こうから嫁を貰って適当に援助してやればいいと思います」


 政略結婚って、本当にあるんだな…………

 てか、そもそもだ。


「なぜ、俺に領主になって欲しいんですか?」

 若干の沈黙の後、領主が口をひらいた。


「あなたが、優秀だからです!」

 うわ、すごく高評価されているな。


 いや、俺一人で山賊を十人ぐらいは殺しているんだし、正当な評価なのかもしれない。


 そんなことを考えていると、領主が悔しそうに言葉を発してきた。


「……あなたがいなければ、私たちの村は山賊に滅ぼされていました……」

 そういえば、そうだったな。


 ちなみに、今回の戦いでは、村人が二十人ほど殺されたらしい。

 領主が危機感を持つのも、当然だな。


「だから、村を守るために、あなたにここに留まって欲しい。私が差し出せる物は、これが全てです!」


 かなり打算的な提案だな。

 だからこそ、信用はしてもいいと思う。


 まあ、この世界での足場がない俺にとっては、悪くない提案だ。

 だが、元の世界に戻る方法を探すためには、マイナスになるだろう。


 てか、山賊が再び攻めてきたら死ぬし、断るべきだな。


「すみません。俺には、するべき事があるので無理です」

 こちらの発言を聞いた、領主が小声で呟いた。


「……そうですか……気が変わったら、いつでも言ってください……」

 こうして、この話は流れた。

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