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エピローグ

 二週間後。

 戦後処理を終えた、マコトが十龍の街に到着した。


 いつもなら、すぐにでも家族に会いに行くのだが、今回は会いたくなかった。

 だって、俺は娘に、どんな顔をして会えばいいんだよ。


 そして、マコトが執務室に移動して、留守の間に溜まっていた書類仕事を片付けることにした。


 急ぎの仕事だからな。

 うん、仕方がないね。


 そんな現実逃避をしていると、あっという間に書類仕事が終わってしまった。


 何で、こんなときだけ量が少ないんだよ。


 そこで、俺の執務室に、娘であるイヨが入ってきた。


「パパ、お帰り! 倍もいる敵を追い返すなんて、パパって本当に凄いんだね!」

 言われてみれば、俺の軍事的な実績は凄いよな。


 常勝無敗だし、天才という評価も、そんなに間違ってはいないだろう。


 そこで、これまでの戦闘について、マコトが思い出してみた。


 えーと、苦戦しなかった戦闘の方が少ないな。

 てか、死んでもおかしくなかった場面の多いこと、多いこと…………


 うん、慢心はよくないな。

 残念ながら、俺は天才ではないのだ。


 そんなことを考えていると、娘であるイヨが質問してきた。


「ところで、パパ。私の婚約者のグエンさんがいないんだけど、どこにいるか知らない?」

 

 誰も娘に、グエンのことを説明しなかったんだな…………

 まあ、これは家族である、俺の仕事か。


 娘であるイヨの目をまっすぐに見つめて、マコトが静かな口調で告げた。


「……林仲の村の村長である……グエンは今回の戦いで戦死した……」

 そこで、娘の動きが止まった。


 しばしの沈黙の後、『冗談だよね?』と、娘が目で問いかけてきた。


 俺も冗談だと、答えたかった。

 でも、それは出来なかった。


「……事実だ……」

 こちらの発言を聞いた、娘の目から涙があふれ出した。


「……私がパパを守ってと、頼んだからかな?」

 そこで、マコトが全力で叫んだ。


「違う! グエンが死んだのは、俺が弱かったからだ……」


 俺の判断が、もっと速かったら――

 俺の戦闘能力が、もっと高かったら――


 違う結果になっていたかもしれない。

 だが、


「……戦場で兵士が死ぬのは……仕方がないことなんだよ……」

 言葉にするのは辛かったが、これは真理であった。


 しばしの沈黙の後、娘であるイヨが質問してきた。


「……ねえ、パパは死なないよね?」


「ああ、絶対に死なないよ!」


 根拠なんて、全くなかった。

 だが、俺は断言したのだ。


 まもなく、娘が抱きついてきた。


「……私の結婚相手……パパが好きに決めていいよ……」

 突然、何を言い出しているんだ?


 マコトが困惑していると、イヨが口をひらいた。


「……私が我慢すれば……パパは楽になるでしょ……」

 

 それは、そうだけど…………

 てか、なんで六歳の娘にこんなに気を遣われているんだよ。


「そんなに気を遣わなくていいよ! 俺は、お前のためだったら何でもするから!」


 世界中を敵に回しても、俺はお前を守ってみせる。

 だから、


 娘に向かって、マコトが優しく語りかけた。


「だから、もう我慢しなくていいよ」

 その言葉を切っ掛けにして、イヨが大声を出して、俺の代わりに泣いてくれた。


 力が欲しいと思った。

 娘が泣かなくてもいいだけの力が欲しいと――



 

 三十分後。

 泣き疲れた、イヨが眠ってしまった。


 こんなところで寝たら風邪をひくし、娘を寝室に運ぼうと思った。


 そこで、執務室の扉が開いて、妻であるエクレアが入ってきた。


「マコトさん、お帰りなさい!」


「……ただいま……」

 

 色々と話したいことはあった。

 だが、言葉が出てこなかった。


 マコトが泣きそうな表情を浮かべていると、エクレアが微笑んだ。


「先程、マコトさんが中央から連れてきた、マイ(お妾)さんが到着しました。オッパイの凄く大きな人ですね!」


 ええ、久しぶりの会話が、これなの?

 いや、重要なことなんだけどね。


「えーと、ですね。奥様、大きなオッパイも素晴らしいんですけど、貧乳には貧乳の魅力があるんじゃないかと……」


 マコトがシドロモドロになりながら言い訳していると、妻であるエクレアが微笑んだ。


「少しは元気になりましたね」

 俺を元気づけるために、わざとやったのか。


 いや、本当によかった。

 うん、よかったよ。


 マコトがホッとしていると、エクレアが抱きついてきた。


「愚痴を言いたいのなら聞きますよ。私は、奥さんですから」


 愚痴なのかな?

 まあ、話したいことはあった。


 だから、マコトがゆっくりと語り始めた。


「……林仲の村を襲った傭兵団……『赤いレッド・リヴァー』を倒した……」

 そこで、エクレアが小さく頷いた。


 思っていたよりも、リアクションが薄いな。

 まあ、二週間も前のことだし、報告を受けていて当然か。


「……ヒミコの仇が取れたんだから……もっと達成感があると思っていた……でも、全然なかったんだ……」


 これで、復讐の連鎖に決着がついて、ホッとした。

 それが、俺の正直な気持ちだった。


 俺は冷たい人間なのかな?


 そんなことを考えていると、エクレアが口をひらいた。


「……時間が経つと、思いが薄れていくのは自然なことです……」

 それは、そうかもしれないけど…………


 そこで、エクレアが強い口調で言った。


「私は死にません! 絶対に、マコトさんよりも、長生きして見せます!」

 なんの根拠もなく、エクレアが断言してきた。


 俺は娘の前では、強い男を演じることが出来た。


 いや、娘に気を遣われたし、こちらの内心が見透かされていたのかもしれない…………


 それに比べると、エクレアはすごいな。

 自分の発言を、心から信じているように見える。


 てか、俺は一生、奥さんには敵わないのかもな――


「……話を聞いてくれて、ありがと……」

 少し楽になった。

 

 そう発言しようとした所で、隣にある応接室から、ビンが大量に割れる音が聞こえてきた。


「何が起こったんだ?」


 そう呟いてから応接室に移動すると、ハクビシンさんが割れた酒瓶の前で、涙を流していた。


「……俺の酒が……なんで、こんなことに……」

 大怪我をしたことに対して、ハクビシンさんは一切愚痴を言わなかった。


 そのハクビシンさんが、愚痴をこぼしている。

 てか、どんだけ酒好きなんだよ!


「そうだ! 直接、口をつければ!」


 ガラスビンが散らばっている床に、ハクビシンが口をつけようとした。それを、エクレアが慌てて止めた。


「バカなことをやってないで、お風呂に入ってください! 服がお酒臭いですよ!」


「離してくれ! この酒は、俺に飲まれるのを待っているんだ!」

 そう言い残して、ハクビシンさんがお風呂場に連れて行かれた。


「あの人は、本当にバカだな」

 そこで、マコトが大きく頷いた。


 ヒミコ。


 こんなバカな人間に囲まれて、俺は生きていくよ。


 もし天国で再会出来たら、面白い話をたくさん聞かせるから、楽しみにしていてくれ。



 第四部 上級貴族当主編 完








 〇 あとがき


 第四部にサブタイトルをつけるとしたら、第三部の後始末編になるのかな。

 第三部終了時点で残っていた、複線は大体回収できました。


 一応、タイトルにも到達(国王と上級貴族には差があまりない)できたので、ここで完結でもいいかな


 まあ、書きたいネタがもう二つほどあるので、もう少し続くと思います。

 それじゃあ、またね。



 ○ あとがき2 


 当初の予定では『異世界に転生したので、生き残るために建国することにした』は、2017年の1月ぐらいに再開する予定でした。


 ですが、プロットが上手くいかない→気晴らしに、新作のプロットを書いてみる→筆がメチャクチャ進む(いまここ)


 そういった訳で、新作を先に公開することにしました

 新作が終わったら、再開する予定なので気長に待ってくれると嬉しいです


 それじゃあ、早ければ夏休み

 遅かったら、冬休みぐらいに再開できたらいいな

 

 またね


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― 新着の感想 ―
一気に読みました。 チート能力なしで、主人公が戦い抜いた。 なかなかにすごい作品でした。 ▼銀英伝の故田中芳樹氏が、重要な登場人物が戦いの中で次々と亡くなっていくので、 熱心な読者から「人殺しの田中芳…
[一言] ここまでお疲れさまでした。凄く面白かったです。続き楽しみにまってます
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